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終章:エピローグ

新たな帝都

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 ゲルガルドによって引き起こされた『天変地異カタストロフィ』から七年後、その事件によって崩壊したガルミッシュ帝国の帝都が再建される。
 四大国家の支援を受けて復興した新帝都は、高い壁を用いた旧防衛用建築ではなく、各区画を隔てる壁を完全に取り払った様式へと変えられた。

 しかし壁に代わる高層の建築物が並び、各方向に高低差の有る階段や自動昇降機エレベーターが設けられた階層式の都市へ光景となっている。
 更に各区画を繋げる広めの道路も作られ、都市内の交通をより快適に行う事が出来るようになった。

 都市外周には旧流民街と同じく来訪者達を迎える施設が設けられた区画が作られ、そこを帝都では『客市街ゲストエリア』と呼ばれるようになる。
 そして帝国の市民が暮らす中央寄りの区画は以前と変わらず『市民街』と称され、更にその中央には二つの区画を見渡せる『貴族街』が設けられた。

 しかし防衛面に関しては旧帝都よりも強固に作られ、各地区の地下施設や塔に結界用の魔導装置が組み込まれている。
 それ等が連結し起動することで幾重にも強固な障壁バリアが張られ、順次に破壊されても別区画の装置から次の障壁バリアを瞬時に生み出されるという新技術も導入された。

 迎撃用の魔導装置もそれに付随する形で帝都外周と内周に設置され、外部や内部で起こる襲撃にも対応できるようにしている。
 更に土台が作られ盛り上げられた『市民街』の真下に広がる地下したには、各方面から『客市街』の住民達を避難できる通路と強固な防衛扉を設けた。

 こうした建築様式となったのも、七年前に起きた帝都襲撃が深く関わっている。

 高い壁に隔てられた旧帝都の流民街は、悪魔化した合成魔獣キマイラ達によって瞬く間に壊滅させられる。
 更に流民街に居た者達も九割以上が避難が出来ずに殺され、帝都外部や内部へ避難できないという事態に陥ってしまった。

 これに関しては様々な要因も然る事ながら、緊急時において住民達が様々な障害物に遮られた為に避難が遅れたという問題が挙げられる。
 そこで四大国家から各国の建築技術者が派遣され、特に同じ都市問題の対策を行っていたアスラント同盟国やホルツヴァーグ魔導国の協力を得て実現した建築様式となった。

 更に一部の建築には魔鋼マナメタルも素材として提供され、特に重要施設にはそれ等が用いられている。
 これに関しては『青』やアルトリアも技術提供に関わっており、壁が無くなった新帝都は要塞としての機構システムを有する人間大陸屈指の都市へ生まれ変わった。

 そして旧帝都襲撃で生き残った者達には優先して住居が与えられ、身を置いていた各領地から新帝都へ移り住む。
 各区画には襲撃によって死亡した十八万人の死者を奉る慰霊碑が設けられ、生き残った者達は慰霊式典で冥福を祈った。

 その慰霊式を主体的に執り行ったのは、帝国領北方を束ねるゼーレマン侯爵家になる。
 更に各帝国貴族達も参列し、その襲撃によって皇帝ゴルディオスを亡くした皇后つまクレアや皇子むすこユグナリスも参列し、その傍にはリエスティアやシエスティナ、そしてローゼン公爵家当主セルジアスの姿も在った。

 ようやく死者達と向かい合う形で別れが行わされた慰霊式の後、喪に服した新帝都にも時間が流れる。
 一年を経て新帝都の住民も増えながら活気を戻すように暮らしが見え始めると、皇帝代理を務める皇后クレアは喪を明けたことで帝国領内に布告を行った。

『――……亡き皇帝ゴルディオス陛下の遺言に従い。皇太子ユグナリス=ゲルツ=フォン=ガルミッシュを、第十一代帝国皇帝として即位させる事を宣言します』

 新帝都の中央に建てられた新帝城内にて、各領地に設けられた通信用魔道具を用いて皇后クレアの布告ことばが発せられる。
 その内容によって、空位となっていた皇帝の座に皇子ユグナリスが就く事を帝国臣民達に知らせた。

 それと同時に、もう一つの知らせも皇后自身の口から伝えられる。

『またそれに伴い、三ヶ月後の即位式を新帝都にて行います。それを終えた後には、新皇帝に叙されるユグナリスとリエスティア=フォン=ベルグリンドを王妃として迎える結婚披露宴と式も帝城にて行います』 

「!?」

『既に御二人の間には一人の子もり、亡きゴルディオス陛下はその子を皇族として迎える事を御認めになっています。私もまた、二人の結婚を認めている者です』

「……」

『喪に服した年を過ぎましたが、まだ心の傷も癒えぬ方もいるでしょう。私も同様おなじです。……それでも私達は、現在いまを歩む姿を見せねばなりません。そして私達より長く歩むべき若者達を導く為に、その未来さきを委ねましょう』

 その皇后クレアの布告ことばと共に、帝国領内では新皇帝ユグナリスの就任と結婚式の話題で持ち上がる。
 更に開かれる式典を興行として利用する為に、各領地や他国からは多くの商人達が新帝都へ来訪することになった。

 それに伴う形で、各国にもその就任式と結婚式への招待状が皇后クレアと皇太子ユグナリスの名で届けられる。
 特に帝都復興に尽力した四大国家の上層部、フラムブルグ宗教国家の教皇ファルネ、更にはリエスティアの母国とされているベルグリンド共和王国の上層部にも招待状が届き、それぞれ招きに応じる返答が成された。

 そして皇后クレアの布告から三ヶ月後。
 新帝都には多くの来訪者達が迎えられ、一丸となるように祭りの賑わいが広がっていた。

 そして予定通り、招かれた各国の重鎮達もまた姿を見せる。
 その中で最も早く訪れたのは、ベルグリンド共和王国の国王ヴェネディクトとそれに伴われる者達だった。

 そうした賓客ゲストは新たな帝城へ招かれ、皇后クレアや皇子ユグナリスに迎えられる。

「――……御初に御目に掛かります、ベルグリンド国王ヴェネディクト陛下。ようこそいらっしゃいました」

「このような祭事へ御招待を頂いたこと、こちらも感謝しております。皇后陛下。そして、皇太子殿下」

 皇室専用の客室へ招かれた国王ヴェネディクトは、そこで待つ二人に儀礼に則った挨拶を交わす。
 そしてヴェネディクトが伴う一人の男性が帽子を取ると、その顔を見たクレアが微笑みを浮かべながら声を向けた。

「……貴方は御久し振りね、クラウス君」

「――……ああ、久し振りだな。義姉上あねうえ

「え……えっ!?」

 そうした挨拶を交わす二人の言葉に、同室に居るユグナリスは驚きを浮かべる。
 髪色こそ違いながらも、ヴェネディクトの後ろに立つ人物がアルトリアの父であり自分の叔父であるクラウス=イスカル=フォン=ローゼンだと彼は認識させられた。 

 そうした事情を全く聞いていなかったユグナリスは、改めて席で向かい合う形でクラウスがヴェネディクトの傍に居る理由を語られる。
 すると納得を浮かべながらも複雑な表情を浮かべ、改めてユグナリスはクラウスへ頭を下げて謝罪の言葉を向けた。

「――……叔父上、申し訳ありませんでした」

「ん?」

「アルトリアのこと、内乱のこと。……そして、父上のこと。……全ては、私の責任です」

「……姿だけではなく、精神こころも成長したようだな。……だが、その事でお前に謝られる筋合いは無い」

「えっ」

「確かにお前の愚かさは要因となっただろうが、アルトリアが去ったのは自身の意思であり、あの内乱も馬鹿共が自分の意思で起こした事態ことだ。……そして兄上が死んだのも、兄上自身の意思で選んだ末の結果だ」

「で、でも……!」

「まさかお前は、自分の父親が進んだ道が誤っていたと非難でもするつもりか?」

「ち、違います! そんなこと、するつもりなんて……」

「だったらそれでいい。……兄上は帝国皇帝として、そしてお前の父親として、やるべき事をやり終えた。そこに私の感情を指し挟むつもりはない」

「……っ」

「だがもし、お前がその事で何か後悔しているのなら。……二度と、同じ過ちを犯すなよ」

「……はい!」

 クラウスは鋭く青い眼光を向けながら、ユグナリスをそう説き伏せる。
 それを聞いたユグナリスは改めて目の前に居る叔父がアルトリアの父親なのだと理解するように姿を重ね、それに力強く応じた。

 それを見て満足そうに口元を微笑ませた後、クラウスは隣に座るヴェネディクトを睨みながら苦言を向ける。

「貴様にも王として、自分の選択に準じて死ぬ覚悟くらいは持てよ。ヴェネディクト」

「い、いや。流石に死んじゃうのはちょっと――……グェッ!!」

「だったら、死なない道を自分で考えろ。いちいち俺に聞くな」

「ひ、ひじ入れることないだろ! しかもこんな場でっ!?」

「こんな場だからこそ、貴様がたるんでいるからだ。もっと国王として気を引き締めろ!」

「……ふふっ、クラウス君は相変わらずね」

「……国王は、ヴェネディクト陛下のほうなんですよね……?」

 クラウスとヴェネディクトはいつもの言い争いをし始め、そんな二人を見るクレアは懐かしむような微笑みを浮かべる。
 しかし二人の立場と上下関係が掴み切れないユグナリスは、戸惑いの表情と言葉を浮かべていた。

 そうした隣国同士の談話が交わされた後、数日後に控える就任の儀まで国王ヴェネディクトは賓客として新帝城で泊まりながら新帝都の見物を行う事になる。
 クラウスもまた自身の素性を隠したまま、国王ヴェネディクト付きの官僚として傍に留まる事になった。

 更にその後も招待された各国の重鎮達が来訪し、皇后クレアと皇子ユグナリスに迎えられて挨拶を行う。
 そうした招待客の中にはユグナリスが知らない顔も多かったが、顔見知りと呼べる国の招待客も訪れていた。

 その一国が、帝国と共和王国の南方に存在する大陸から来た一族。
 マシラ王ウルクルスと元老院議長ゴズヴァール、そして十四歳に成長した王子アレクサンデルだった。
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