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終章:エピローグ

再会の約束

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 ガルミッシュ帝国の新帝都において新皇帝ユグナリスが就任してから一年の時が流れ、その間にも様々な出来事が起きる。
 その流れの一つとして、帝国に留まっていたマギルスはユグナリスとローゼン公セルジアスが共に居る執務室へ訪れた。

 そんな彼が述べたのは、唐突ながらも既に決められていた話になる。

「――……じゃ、僕もそろそろ行くから。お兄さん達、頑張ってね!」

「えっ」

「……そうですか、分かりました」

 簡素ながらも唐突な別れの言葉を聞いた二人の中で、セルジアスは受け入れる様子で了承の言葉を述べる。
 そしてマギルスはそのまま執務室を出ると、気軽な足取りで皇室に在る第一皇女シエスティナの私室に訪れた。

 それが常日頃の風景なのか、部屋の前で常駐している帝国騎士や近衛はマギルスが無遠慮に部屋に入る様子を特に気に掛ける素振りも無い。
 すると十歳になったシエスティナがそれを迎え、背も髪もまた伸びた姿でマギルスの来訪を喜びながら迎えた。

「――……あっ、マギルス! おはよう!」

「おはよ!」

「朝稽古してくれるの? それなら準備するから待ってて!」

「ううん、違うよ」

「えっ。じゃあ、どうしたの?」

「僕、そろそろ行くから。お別れの挨拶をしに来たんだ」

「……!?」

 いつもの笑みでそう述べるマギルスに、シエスティナは最初こそ呆然とした様子を浮かべる。
 しかしその言葉の意味を理解した時、改めて動揺を浮かべながらマギルスに詰め寄った。

「行くって……お別れって、なにっ!?」

「そろそろ、アリアお姉さん達と約束した日だからね。僕は帝国ここを出てくよ」

「なんでっ!?」

「あれ、言わなかったっけ? 魔大陸に行くんだよ、僕等」

「聞いてない! ……私も連れてってっ!!」

「君はダメだよ」

「なんでっ!? 私が皇女だからっ!?」

「だって弱いもん」

「!!」

魔大陸むこうは、僕より強い怪物や魔族がいっぱいいるところらしいからね。僕にも勝てない君が来ても、足手纏いだし死んじゃうだけだよ」

「……っ!!」

 マギルスは微笑みながらも辛辣にそう述べ、今のシエスティナが魔大陸へ同行できる程の強さが無いことを告げる。
 それにぐうの音も返す言葉ことが出来ない少女シエスティナは、左右で色の違う瞳から涙を溢れさせながら身体と声を震わせて懇願を呟いた。

「……もう、一緒に居れないの……?」

「うん」

「行っちゃヤダって言っても、行っちゃうの?」

「うん」

「……ちゃんと、帰って来る?」

「それも分かんない」

「だったら、行っちゃヤダッ!!」

「ダーメ、もう行くって決めてるんだ」

「……ぅ……うぅ……ッ」

 引き留めようと懇願するシエスティナに対して、マギルスは決意の固さを改めて見せる。
 それでも涙を流しながら訴えようとする少女シエスティナに、青年騎士マギルスの右手はその頭に乗せながら優しく撫でた。

「もう、しょうがないなぁ。うーん……じゃあ、五年くらいかな」

「……え?」

「五年くらい経ったら、人間大陸こっちに戻ってくるよ。それまでには、チャチャッと終わらせちゃうからさ」

「……本当?」

本当ホント

「……死んじゃったりしない?」

「僕、首無騎士デュラハンだから簡単に死なないもんね。ほら、首が取れても平気だしさ」

 マギルスはそう言いながら自身の頭を左手で掴むと、そのまま持ち上げて頭部あたまと首を離す。
 そして冗談めかした様子のままマギルスは頭部と首を付け直すと、シエスティナはまだ拭えぬ不安なみだを両手で拭い続けた。

 そんなシエスティナを見ながら、マギルスは考えた事を行い始める。

「そうだ、コレしよ」

「……なに、それ?」

「約束する時にするんだよ。こうやって小指を立たせて、君も右手そっちでこうして」

「……」

「それで、小指同士を付けて――……これが、約束する時のやり方なんだって」

 二人は右手を前に出し、互いの小指を立て絡める。
 そして重なり付けられた小指同士で軽く握り合うと、僅かに手を揺すりながら言葉を続けた。

「五年後、僕は帝国ここに戻って来るのが約束ね。そして君の約束は、五年後には僕が驚くくらい強くなってることだよ」

「!」

「その約束を破ったほうは、針を千本も飲まなきゃいけないんだってさ」

「針を飲むの?」

「うん。どうする、止めとく?」

「……ううん、する」

「うん。――……はい、これで約束したよ。じゃあね、バイバイ!」

 二人は重ねた小指を緩やかに離すと、マギルスはそのまま部屋を出て行こうとする。
 それを止めようと手を伸ばそうとしたシエスティナだったが、約束を交わした右手を見ながら溢れそうな涙を抑えて言葉だけを向けた。

「……約束だからね。五年、待ってるからね! 来なかったら、魔大陸そっちまで追いかけるからね!」

「ははっ、分かった!」

「また、一緒に遊ぼうね。マギルス」

「うん、また遊ぼうね――……」

「……ッ!!」

「――……あ、姫様っ!?」

 マギルスは背を見せながら軽く右手を振り、友達シエスティナと気軽な様子で別れの挨拶を済ませる。
 それを見送るシエスティナは閉まる扉の前に留まりながらも、感情を我慢できずに扉を開けて廊下を走りマギルスの背中を追った。

 素早く出て行った皇女シエスティナに対して、警護をしている衛兵と騎士は慌てた様子で追いかける。
 そしてマギルスを探しながら廊下を走るシエスティナは、窓が開いている廊下を見つけながらそこに身を乗り出して外を見た。

 そこには日が昇る朝日と共に、青い一筋の閃光ひかりが見える。
 徐々に遠ざかり小さくなっていく青い閃光ひかりを眺めるシエスティナは、再び別れの悲しみで涙を溢れさせた。

 そうした一方で、精神武装アストラルウェポンを足に纏わせながら上空そらを駆け跳ぶマギルスもまた、微笑みながらも目に薄らと涙が浮かべている。
 すると精神武装アストラルウェポンに憑依している青馬ファロスが、何かを訴えるように鳴き声を発した。

『――……ブルルッ』

「……だって、悲しい感じのお別れって嫌じゃん。どうせだったら、楽しい感じの方がいいかなって」

『ブルッ』

「もー、うるさいなぁ。分かってるよぉ。……でも、僕がずっと傍に居るとさ。あの子の為にならないと思うんだ」

『?』

「僕とあの子は友達だけど、同じ存在ってわけじゃないし。あの子にはあの子の、僕は僕の生き方をちゃんとしないとね」

『……ブルッ』

「あっ、そういうこと言う? 僕だってそういうの、ちゃんと考えてるもんね! ――……五年後、あの子がどういう生き方して成長するのか。本当に楽しみだ」

『ヒヒィン!』

 マギルスは自身の目に溜まる涙を右手で拭い飛ばし、上空に涙の粒が舞う。
 そして平常時で結界が張られていない新帝都の上空から離脱すると、そのままある方角を目指して向かい始めた。

 こうしてマギルスもまた、友達シエスティナと別れ帝国を離れる。
 そしていつか再会する時を光景を楽しみにしながら、仲間達との合流を目指すのだった。
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