虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

文字の大きさ
1,340 / 1,360
終章:エピローグ

約束の年

しおりを挟む

 新皇帝ユグナリスの即位式と結婚式が行われたガルミッシュ帝国は、三日後に祭典まつりの終わりを告げる。
 その間にも四大国家の連盟国から赴いた各代表者同士での話し合いが行われる場が設けられた内容について、ここに記そう。

 ユグナリスは同盟国アスラントから赴いた首相アスラント=ハルバニカと話し合い、ガルミッシュ帝国で保有している『赤』の聖紋が刻まれた宝剣けんの存在について明かす。
 そして同盟国に宝剣それを返却すべきかという問い掛けを行うと、アスラントは首を横に振って受け取りを断った。

 現在の同盟国アスラントには『赤』の聖紋を受け継ぐべきルクソードの血族が存在せず、また聖人も一人ダニアスしか居ない。
 更に『赤』の聖紋が刻まれた宝剣を管理し保管する上で、現在の首都となっている元皇都では守り切れるか不安が大きいと述べた。

 しかし反対に、帝国にはルクソードの血縁者と能力ほのおを扱える者が幾人も存在している。
 更に新帝都の防犯機構セキュリティが同盟国よりも厳重である事を理由に、『赤』の聖紋を管理するのに適しているとも伝えた。

 そうした事を述べた後、逆にアスラントはある提案を向ける。

「――……新皇帝陛下。いずれ同盟国は、四大国家の代表国から外れるつもりです。そして代わりとなる代表国には、帝国きこくを推そうと考えています」

「えっ」

「先程も述べた通り、同盟国こちらには七大聖人セブンスワンとなれる人材がいません。逆に帝国には、ルクソードの血族と『赤』の聖紋を有している。代表国となる資格は、十分に御有りです」
 
「し、しかし。帝国は貴国の……元皇国ルクソードの植民国ですよ? なのに、それは……」

「その点は深く考えずとも構いません。親国である元皇国こちらが体制自体を変えてしまっているのです。そういう意味で、皇国の源流ながれを帝国が色濃く引き継いでいる。それに各国も、今回の訪問で帝国が連盟国の中で最も重要な位置にある国だと理解したはずです」

「じゅ、重要……。だったら、それこそ代表国から外れた同盟国は、不利益になるのでは?」

「確かに代表国であるという利益は無くしてしまうかもしれません。しかし大陸の位置的にも、こちらの大陸から宗教国家や他国からの物流は同盟国こちらを必ず経由する事になりますから。純粋な利益の問題も起こる事は無いでしょう」

「……」

「他の方とも御相談して、一案として御考えください。もし御了承を頂ければ、こちらでも準備を進めさせて頂きます」

「……分かりました、相談してみます」

 二人は同盟国と帝国の立場を逆転させかねない提案をそうして話し合い、互いの国へ持ち帰る形で思案を行うことになる。
 そして暫くは『赤』の聖紋は同盟国で管理を行っているという嘘情報を流布する事で、代表国としての体裁を保つ事が決まった。

 更に各国の代表者達と対談する場を設けたユグナリスは、各国の現状と求めているモノを理解していく。
 一国の皇帝として自身の未熟な見識を理解しているユグナリスに対して、それぞれの代表者達は穏やかな対応で会話を行ってくれた。

 そうした対談が終わった後、最後に行われた議会においてローゼン公セルジアスがある情報を明かす。
 それは非加盟国の【血盟の覇者そしき】から送り込まれた暗殺者を捕らえ、その暗殺対象ターゲットが教皇ファルネであるという情報ことだった。

 各国の代表者達はそれに驚き、更なる情報を聞かされる。
 暗殺者の手引きを行ったのが二つの連盟国から訪れた代表者とその随行者の二名であり、その人物達も既に捕らえ拘束していた事も明かされた。

 それを聞いた各国の代表者達からは、暗殺に関わった連盟国へ代表者達への非難が挙げられる。
 事前にその情報を聞き自粛していた関係国の代表者と随行者達は、それを甘んじて受け入れる様相を示した。

 しかしそうした批判の流れを遮るように、セルジアスはその暗殺が行われた真の問題について述べる。

「――……確かに代表者や随行者が暗殺の手引きを行ったというのは、その国の責任でもあります。また帝国においても、暗殺者の侵入を許してしまった事を深く反省しております。しかし最も問題にすべきなのは、非加盟国の組織が連盟国の代表者にも手が届く工作を行っていたという事実です」

「!!」

「我々は非加盟国について、甘い認識をし過ぎていました。暗殺者が帝城ここへ侵入する為に用いた転移陣ゲートも、見事な出来栄えだったそうです。更に暗殺者の武装には、四大国家で製造を禁止している拳銃なども有りました」

「……ッ」

「更に手引きを行った二名は、麻薬中毒者となっています。……宗教国家フラムブルグに限らず、非加盟国の毒は既に連盟国の中に深く食い込んでいる。我々はそれを再認識し、徹底的に非加盟国の介入とその目的を阻止する為に団結を強めなければなりません」

 セルジアスはそう述べ、各国の代表者達に連盟国同士の関係強化と、非加盟国に対する警戒強化を強める事を提案する。
 それについて各国から異議は出ず、また手引きに関係してしまった二つの連盟国もそれに無条件で応じる形で賛成を示した。

 これにより宗教国家フラムブルグに限らず、非加盟国からの介入調査と物流の遮断を各国でも求められる。
 それを行う為に各代表国の協力と連携する方法を重視する提案が成されたことで、改めて議会の場は非加盟国への対策に本腰を入れる姿勢となった。

 ただ『非』を責めるのではなく、その『非』を持って次の対策強化を強く提案するセルジアスの言葉は、各国の代表者達から大きな支持と理解を得る。
 その結果として、その彼セルジアスが補佐する新皇帝ユグナリスとガルミッシュ帝国の立場は連盟国の中でも代表国に継ぐ威厳を示した。

 そうして一波乱が起きた祭典まつりは、結果として四大国家の結束を強め、ガルミッシュ帝国の評価を高くさせる。
 帰国する代表者達には帝国軍が護衛として付き、更に暗殺者とその手引きをした者達も護送し、後の裁判によって犯罪者奴隷として扱われる事になった。

 それから四大国家に再加入した宗教国家フラムブルグは、連盟国の支援を受けて本格的な非加盟国の介入撲滅が始まる。
 更に連盟国に入り込んでいた裏組織が及ぼしている影響も匿名情報によって次々と判明し、一斉の検挙と鎮圧が行われた。

 しかしそうした事態において、非加盟国側からの抵抗は予想される以上に少ない。
 それを不思議に思う者も多かったが、既に非加盟国を裏で牛耳っていた【血盟の覇者ブラッドボーン】が壊滅状態にあり、非加盟国同士の兵力と生産能力が大きく失われている事を知る者は少なかった。

 更に同時期、非加盟国に攫われ捕らわれていたという行方不明者が続々と発見され保護される。
 これにより非加盟国の悪辣な実情が明らかになり、四大国家から非加盟国への逆介入が開始される事になった。
 
 そうした流れを作り出したのは、問題児の妹アルトリア優秀な兄セルジアスが互いの行動を意図を読み取った上での連携コンビネーションだったと言ってもいい。
 その二人に翻弄されながらも短期間の内に非加盟国を抑え終えた四大国家は、数年後に恒久的な平和を迎える事に成功した。

 そうした情勢の中、新皇帝ユグナリスの即位式と結婚式から一年後を経た帝国においても、様々な変化が起きていく。

 まず話題となったローゼン公セルジアスは、実はセンチネル準騎士爵領を治める女当主パールと第二子を儲けていた事が判明する。
 これについては当人達も既に承知の上であり、二人の間には五歳となった長男ラインと、三歳になる長女ダイヤが帝国貴族達に明かされた。

 これが判明した切っ掛けは、新皇帝ユグナリスの即位式典が行われた年になる。
 その即位式典にセンチネル準騎士爵として参列していたパールは家族として長男ライン長女ダイヤを伴っており、その子供達がセルジアスをパパと呼んでしまったのだ。

 その段階でセルジアスに子供がいるという事が帝国貴族達の中でも判明し、しかもそれが飛竜を操る樹海の女当主だという情報が帝国貴族達の中で驚愕を生ませる。
 そしてその後、長男ライン母親パールが、長女ダイヤ父親セルジアスがそれぞれに引き取るという話も共有されることになった。

 そうした驚きがようやく冷めようとする二ヶ月後、后妃リエスティアが第二子を授かった事が判明する。
 時期的にそれが結婚式の前に行われた結果であろうと周囲は察しながらも、今度の皇子については帝国貴族一同から贈り物と祝いの言葉が届けられた。

 すると后妃の主治医として、アルトリアが魔導国ホルツヴァーグから一時的に帰国する。
 しかしそれを公にはせず、転移魔法を駆使して両国を行き来するアルトリアはリエスティアの経過を確認し続けた。

 そして八ヶ月後、アルトリアの介助を再び受けた后妃リエスティアは第二子である男児を出産する。
 その父親となったユグナリスは男児を『レクセルス』と名付け、皇族名を『偉大な騎士ガラハット』と定めた。

「――……レクス。レクセルス=ガラハット=フォン=ガルミッシュ。この剣を受け継ぐ事があるなら、この皇族名がきっと相応しいはずさ」

「……ぁぅー」

 名前を決めて両腕に収まる第二子レクスを見下ろすユグナリスは、自分の携える宝剣けんを継ぐ時のことを考える。
 そして師匠である偉大な騎士ログウェルの意思を継ぐ者として、その子を強く育てる事を決めた。

 それから出産の経過を確認を終えたアルトリアは、一ヶ月後に帝国から姿を消す。
 更に一ヶ月後、シエスティナの傍に留まり続けていたマギルスも帝国から旅立つ事を告げたのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...