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終章:エピローグ

友の旅立ち

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 新皇帝ユグナリスとリエスティアの結婚式が行われ、それに立ち合っていたウォーリスとカリーナはある人物と再会を果たす。
 それはメディアによって殺された映像が流れたアルフレッドであり、彼は自身の細胞を元に作られた複製体クローンで生身の肉体を得て生きていた。

 それを知った二人は涙を流し、同じ過去くるしみを分かち合う親友アルフレッドとの再会を喜ぶ。
 すると三人は慰霊碑が置かれた公園の長椅子ベンチに腰掛けながら、互いの話を行った。

「――……そうですか。御二人は帝国ここで、上手くやれているのですね」

「ああ。さっきは、リエスティア達の結婚式も見届けたよ」

「それは良かった。……彼ならきっと、リエスティア様も幸せにしてくれるでしょう」

「そう願いたいな」

 ウォーリス達の話を聞いたアルフレッドは、彼等が帝国ここに身を置く現状を理解する。
 そして彼等の娘であるリエスティアの幸福を、共に微笑みながら受け入れ納得する様子を見せた。

 するとウォーリスの隣に座るカリーナは、アルフレッドに問い掛ける。

「アルフレッド様は、今まで何をなさっていたのですか?」

「今まで、出来なかった事をしていました」

「出来なかった?」

「自分自身の身体で、世界そとを歩くことです」

「!」

「それが私の夢でしたから。……小さな頃から病を抱え、不自由な身体で外を歩くこともできない。その上、『聖人』という存在であるが故に周りの者達よりも成長が遅い。そんな私が抱ける夢は、たった二つだけ。外に出て自由に出掛けること、そして友を作ること。それだけが、私の望みでした」

「……アルフレッド様……」

「しかし手を差し伸べたゲルガルドが与えてくれたのは、脳髄のうだけの義体からだと、命令を果たす事しか求められない自由の無い日々だけ。……その日々が次第に私の感情を失わせ、ゲルガルドの手に掛かる犠牲者達をただ見過ごさせるだけの生活を、二百年以上も甘受し続けた」

「……」

「しかし私は、貴方ウォーリスという友を得られた。ゲルガルドに課せられた実験を耐え抜き、心が折れる事も無く奴を討つという強い意思を示し続けた貴方に、感情を失おうとした私は再び自我じぶんを取り戻せたのです」

「アルフレッド……」

「そして、そんなウォーリス様の支えとなり続けたカリーナ様。私は御二人が居たからこそ、今この場に居る事が出来ている。……御二人には、本当に感謝しているのですよ」

 微笑みを向けるアルフレッドはそう話し、目の前に居る二人が自分にとってどういう存在であるかを改めて話す。
 それを聞いていた二人は驚く様子を浮かべながらも、穏やかな声で反論するように言葉を呟き始めた。

「……違うよ、アルフレッド。私はお前が、お前達が支え続けてくれたから、ゲルガルドに屈せずに済んだんだ。私だって、お前に感謝しているよ」

「ウォーリス様……」

「わ、私も。アルフレッド様が御作りになって下さった薬が無ければ、今もウォーリス様達の御傍に居られませんでした。……改めて、御礼を述べさせてください。ありがとうございます」

「カリーナ様……。……では、御互いに感謝しているという事にしておきましょう」

「ああ」

「はい」

 三人はそうして微笑みを浮かべ、互いの存在が支えで合った事を認め合う。
 するとおもむろにアルフレッドは長椅子ベンチから立ち上がり、二歩ほど歩み出ながら顔を振り向かせて述べた。

「では、私はそろそろ行きます」

「えっ」

「今日は帝国ここで、リエスティア様の結婚式があると聞いたので。御二人に会えるのではないかと考えて、来ただけですから」

「あ、あの! アルフレッド様も、御一緒に帝国ここへ身を置かれるのでは……?」

「それも良いかもしれない、とは思いますが。……あの慰霊碑を作る原因となった私が帝国ここで平穏を享受するのは、どうかとも思いますので」

「違う! 帝都襲撃アレはお前ではなく、ゲルガルドが命じた事であって……!! いや、そもそも私が……!」

「そうであっても、私自身が操り差し向けた合成魔獣キマイラが起こした事態ことに変わりはありません。……それに私は、私なりの贖罪を果たす為に今の姿となっていますので」

「え……?」

 引き留めようとする二人に対して、アルフレッドはそう述べながら右手に付けられた手袋を外す。
 そして右手の甲を見せると、二人は更なる驚きを浮かべた。

 アルフレッドの右手には、『緑』の色合いをした聖紋が刻まれている。
 それを見た瞬間、ウォーリスは改めて驚愕の声を向けた。

「まさか、お前が……!?」

「はい。私が四代目の、『緑』の七大聖人セブンスワンになりました」

「!?」

「これがログウェルの出した条件の一つです。彼が死んだ時、私が『緑』の七大聖人セブンスワンとなる。そして、数多の命を奪った贖罪を果たす。……だから私は、与えられたこの肉体いのちが尽きるまで贖罪それを果たすつもりです」

「……アルフレッド……」

「そういう事ですので、帝国ここばかりにとどまれません。それに私自身、まだ世界を見尽くしたとは言えない。……私は自分の夢を叶え、罪を償う旅を行います」

「……そうか」

 『緑』の七大聖人セブンスワンとなった経緯と役目を伝えるアルフレッドに、二人は強く引き留めるが出来なくなる。
 しかしそんな二人に対してアルフレッドは微笑みを浮かべると、改めてウォーリスに右手を差し伸べながら告げた。

「ウォーリス様。貴方は私にとって、初めて出来た親友ともです。……どうか御元気で。そして御家族で、穏やかな余生を御過ごし下さい」

「……分かった。……アルフレッド、また会おう」

「はい。――……カリーナ様も、どうか御元気で。ウォーリス様達を、よろしくお願いします」

「……はいっ」

 長椅子ベンチに座っていた二人は立ち上がり、右手を差し伸べるアルフレッドと握手を交わす。
 そして微笑みながらも寂しげな様子で別れの挨拶を告げた後、アルフレッドは二人に背を向けて歩き始めた。

 そこで一陣の風が吹き、公園の木々が舞いながら見送る二人の視界を遮る。
 すると次の瞬間、二人の前からアルフレッドは姿を消していたのだった。

 その景色を見ながら、カリーナは隣に居るウォーリスに声を向ける。

「……行って、しまわれたのですね」

「ああ。恐らく、転移魔法だろう」

「また、御会いになれるでしょうか?」

「必ず会えるさ。……戻ろうか、カリーナ」

「はい、ウォーリス様」

 二人は親友アルフレッドとの再会と別れを終え、再び自分達の日常へ戻る。
 そして帝城で開かれる祝宴に合流し、自分達の娘であるリエスティアが祝われる場を遠目に見守った。

 二人はそれからも、新皇帝ユグナリスとその補佐を務めるローゼン公セルジアス達の傍で仕え続ける。
 そして自分達も贖罪を果たしながら、親友アルフレッドと再会できる日を待つように余生を過ごす事になった。

 こうして贖罪を果たそうとする三人は、それぞれの道を辿っていく。
 そして生身からだを得たアルフレッドは自分自身の足で世界を旅し、『緑』の七大聖人セブンスワンとして人知れず人々の手助けをするのであった。
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