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終章:エピローグ

性質の変化

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 狼獣族エアハルトが望む戦いに応じたエリクは、自分自身が身に着けた新たな新技わざを放つ。
 それをまともに受けたエアハルトは瀕死の重傷を負わせられ、エリクの意思によって二戦目たたかいを決着させられた。

 そして観戦していたケイルと共に、エリクはマギルスが寝ていた場所へ戻る。
 その途中でケイルは先程の戦いで見たエリクの新技について、こう尋ねた。

「――……さっきやってたわざ

「ん?」

「失敗って言ってたようだったが……あの威力で失敗なのか?」

「ああ、アレは二回とも失敗だったらしい」

「らしい? じゃあ、成功した時はどんな感じになるんだよ」

「俺も分からない」

「……どういうことだ?」

 エリクの歯切れが悪い言葉に、ケイルは疑問を深めながら訝し気な視線を向ける。
 すると彼は青い空を見上げながら、とある事情を明かした。

「……俺のなかに居る鬼神フォウルは、俺がやろうとしている新技わざで殺されたらしい」

「!」

「実際にそれを受けて死んだ鬼神フォウルが、俺の新技わざとは違うと言われた」

「……失敗の基準は鬼神そいつかよ。アレでも十分な威力じゃねぇか?」

「ああ。だが本物のわざは、もっと違うらしい。……それを使えないのは、俺の実力ちから不足だそうだ」

「お前の実力ちからで不足してるとか、どんだけ危険な技だよ……」

 エリクの新技について聞いたケイルは、渋い表情を浮かべながら溜息を零す。
 するとエリク自身も何かを思い出したように、ケイルへ問い掛けた。

「……そうだ。お前は、アズマ国で修行をしていたんだったな」

「ああ、それが?」

生命力オーラの性質変化というのを、知っているか?」

「……それ、誰から聞いた?」

「ウォーリスから聞いた。アズマ国の聖人は、性質変化それを使って生命力オーラで分身などを作れると。違うのか?」

「……まぁ、違わないけどよ。一応、アズマ国では秘技中の秘技だぜ」

「そうなのか」

「で、性質変化それがどうしたんだ?」

「ウォーリスの話だと、俺の新技わざはそれに近い方法でやっているらしい。だがどういうモノか分からないまま、新技アレを使っていた」

「……なるほど、アレも性質変化そうか……。お前、我流で性質変化できるとか、やっぱ化物級の才能だぞ」

「?」

生命力オーラの技術にも段階がある。まず生命力オーラを感知できるようになるのが第一段階。他人の生命力オーラが第二段階。そして自分の生命力オーラを肉体に纏わせるのが第三段階。そこまでは分かるな?」

「ああ」

「そして武器に生命力オーラを付与させるのが第四段階。そして生命力オーラを放出するのが第五段階。お前の場合、それも自力で出来るようになってたよな?」

「そうだな。鬼神フォウル魂内部なかで戦っている内に、出来るようになった」

「第五段階までは、生命力オーラを扱う上での基礎技術だと言ってもいい。……で、その先。第六段階から生命力オーラの性質変化になる」

「第六段階……」

「第六段階は、体外に放出した生命力オーラをその場に留める。第七段階が、放出し留めてる生命力オーラの形状を変化させる。第八段階が、形状を変化させた生命力オーラを自分の想像する形に変えるんだ。そして第九段階が、変化させた生命力オーラを制御し操作する。――……こんな風にな」

「……!」

 歩きながら生命力オーラの性質変化について明かすケイルは、自身の生命力オーラを練り上げ始める。
 そしてケイルの身体から一塊の生命力オーラが真横に放出され、それが形状を変化させながら人型になった。

 すると人型の造形が更に変化し、次第にその輪郭を明確させ始める。
 それはケイルの姿や格好と瓜二つとなり、そのまま術者ケイルと同じ動きで並列に歩き始めた。

 エリクはそれを見て驚き、改めて声を向ける。

「それが、生命力オーラで作った分身か。凄いな」

「ああ」

「それが、性質変化か」

「そうだ。その気になりゃ、分身これは五体ぐらいは作れるけど。同時操作はかなり難しいから、今のアタシだと一体を作って操作しながら維持するのが限度だ。しかも動きはアタシ自身の五割強ってとこだな。ほとんど陽動にしか使えん」

「それでも凄いな」

「アタシの師匠、トモエさんは覚えてるか? あの人は分身それを百体以上も作って七割くらいの性能で同時操作しながら本人も戦うんだぜ? アタシの性質変化なんて、まだまだ未熟な方だ」

「そうなのか。俺には十分に、凄いように思えるが……」

 自身の師であるトモエと比較するケイルは、そう言いながら息を抜いて分身を消す。
 そして改めてエリクを見ながら、性質変化についての続きを述べた。

「言わば分身の術は、第一から第九段階までの技術を全て複合させた応用技だ。そして第六段階以上の技は、アズマ国では秘匿されてる奥義とか秘技に分類されてる」

「……性質変化は、全部で第九段階まであるのか?」

「いや、第十段階まである」

「じゃあ、第十段階それはどういうモノなんだ?」

「お前も知ってるだろ。帝国の皇子……いや、今は皇帝様やシルエスカがやってた『生命の火ほのお』だ」

「!」

「元々アズマ国で発展した気力オーラの技術は、魔法を使えない奴等がそれを補い凌駕する為の技術わざとして編み出された。だから気力オーラを極めた者の到達点は、魔法と変わらないことが出来るようになることなんだ」

「……怪我を治したり、空を飛んだり。鎧にしたり、武器にしたりもか?」

「ああ。そして第十段階は、気力オーラを用いた魔法の再現。ルクソード一族が使える『生命の火ほのお』や、ログウェルみたいな『緑』の七大聖人セブンスワンが使ってた『生命の風』がそうらしい」

「……」

「でもアズマ国で第十段階そこまで辿り着いた聖人やつは、誰も居ない。師匠達や『茶』をやってる七大聖人ナニガシでも出来ないらしい。……魔法を再現するような生命力オーラの性質変化は、かなり特別な存在以外は出来ない段階なんだ」

「……じゃあ、俺がやろうとしている新技わざは……」

第十段階さいごの方だろうな。それでもお前は、手に纏わせた生命力オーラを性質変化させて黒く染めた。それがエアハルトの爪や電撃まで弾いて防いでた。間違いなく、性質変化の第十段階には成功してるんだよ」

「……そうなのか」

「アタシも一応、『霞の境地』で無我に入れば『赤』の一族が使ってる『生命の火ほのお』は使える。でも身体や武器に纏わせてるのが精一杯で、皇帝様ユグナリスみたいに身体を炎に変えて空を飛び回ったり出来ない。……そういう意味で、お前や皇帝様ユグナリスは特別な才能を持ってるって事だな」

「……むぅ」

 ケイルはそう話しながら、性質変化の第十段階について教える。
 それを聞いたエリクは難しい表情を浮かべ、新技わざを失敗し続けている自分が特別だとは思えなかった。

 そうして悩む様子のエリクを見ながら、ケイルは呆れ気味に微笑んで言葉を続ける。

「時間はあるんだ。これからその新技わざも、ちゃんと完成させてきゃいいんだよ。……なんなら、アタシが性質変化の修行に付き合ってやってもいいしよ」

「そうか、助かる」

「そもそもお前の戦い方って、大雑把に大量の生命力オーラを纏ったり放出したりの攻撃ばっかだもんな。だから気力オーラも緻密な制御が出来てないんじゃないか?」

「……そういう細かい制御ことは、していないかもしれない」

「問題はそれだろ。性質変化の過程を何段階か飛ばしてるせいで、気力オーラの制御や維持がきっと甘いんだ。その辺も、修業して出来るようにならないとな」

「分かった」

 今のエリクに足りない技術の助言アドバイスを施すケイルは、道中での修業に付き合う事を約束する。
 それはエリクにとって、ケイルという存在が傍に居ることに確かな頼もしさを感じていた。

 すると二人は元の場所まで歩み戻り、草原に寝転がったまま寝ているマギルスを見下ろす。
 先程の戦闘で起きた衝撃に気付くこともなく眠っている青年マギルスの姿に、改めて二人は苦笑を浮かべた。

 そうした時、彼等の耳に僅かに風を切るような音が聞こえる。
 二人はそれに気付いて振り返り、風切り音が鳴る方角へ視線を向けた。

 その方角には、特に何も見えない。
 しかし二人は奇妙な違和感を感じ取り、その方向を凝視し続けながら呟いた。

「……何か来る」

「ああ――……ッ!!」

 互いに何かが来るのを確信し、二人は警戒を強めて身構える。
 すると次の瞬間、凄まじい速度の何かが上空を通過し、草原を揺らす一陣の風を吹き込ませた。

 その突風を受けながらも、見えない何かが真上を通過したことを察知した二人は再び声を向け合う。

「なんだ、今のっ!?」

「物凄い速度はやさで、何かが上空うえを通り抜けた……!」

「……まさか……!」

 ケイルの疑問おどろきに対して、エリクは見えない何かを察知しながら上空に視線を向け続ける
 それを聞いたケイルは、上空を飛んで来た正体を予測しながら同じ方角を見上げた。

 そして一分程が経つと、エリク達の周囲にある草原が風によって揺れ始める。
 更に円形状に巨大な波を作り始めると、彼等が居る場所から少し離れた上空ばしょに突如として黒く大きな金属製の物体が現れた。
 
「!」
 
「やっぱり、偽装魔法で見えなくしてたのか。……だったら、アレが……!」

「アリアが用意した、飛行船か……! ……だが……」

「ああ、前の箱舟ふねと形状が違うな……。それに、思ってたより小さい……」

 偽装魔法で姿を消していた飛行船らしき物体を見て、二人はそうした疑問を零す。

 彼等が見ている飛行船ふねの形状は、箱舟ノアの三分の一程の大きさ。
 全長五十メートル程であり、高さは十五メートルも無いように見えた。

 するとその飛行船ふねは、下腹部したに内蔵されていた着地用の降着装置あしばと車輪を見せる。
 それを用いて草原に着地した飛行船ふねを観察する二人は、機体の真横が扉として開き黒い階段が出て地面に着けられるのを目にした。

 するとその扉から、一人の人物が現れる。
 その姿を見たエリクとケイルは、互いに驚きを浮かべながら名前を呟いた。

「……あれ、アリア……だよな?」 

「ああ、アリアだ。間違いない。……だが――……」 

 二人は互いに確認するように呟く、飛行船から現れた人物をアルトリアだと判断する。
 しかし疑問にも似た声を浮かべる二人は、そのまま着陸した飛行船ふねへ歩み寄った。

 歩み寄る二人の姿を目にする彼女アルトリアは、階段を降りながら改めてその姿を日の下に晒す。
 そしてその姿は、以前の彼等が見た彼女アルトリアとはやや異なっていた。

 すると階段を降り終わる彼女は、歩み寄る二人に声を向ける。

「――……エリク、それにケイルも。元気そうね」

「アリア」

「お前、それ……」

 三人は地面に足を着けた状態で対面し、改めて挨拶を交わす。
 するとケイルがある場所に視線を動かして訝し気な様子で問い掛けると、それにアルトリアは答えた。

「あぁ、コレ? 邪魔だから切ったのよ。どう、似合う?」

「切ったって、お前……。いくらなんでも、バッサリやり過ぎだろ」

「そう? でも手入れも大変だったし、どうせまた伸びるんだから。これぐらいでいいのよ」

「……」

 そう語るアリアの言葉を聞き、二人は改めて話題となる部分に注目する。
 
 それは四年前まで、長く伸ばしていたアルトリアの綺麗な金髪。
 一行と旅をする間も適度に手入れし整えていた彼女の髪は、腰部分を軽く超える長さをしていた。

 しかし現在の長髪は大胆にも切られ、後ろ髪は首部分にしか届いていない。
 更に横部分もみあげや前髪なども適度に整えられ、全体的に短い髪型ショートヘアとなっていた。

 それを見て驚くケイルに比べ、エリクは僅かに表情を渋らせる。
 その理由は、この髪型かみに変化させた原因が自分エリクにあるかもしれないと考えていたからだった。
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