虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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終章:エピローグ

二人が探すモノ

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 エリクの新技わざに関わる生命力オーラの性質変化について話すケイルは、その完成を手助けする事を伝える。
 そうした会話を行う彼等が居る草原へ、一隻の黒い飛行船ふねが現れた。

 そこから姿を見せたのは、長い金髪を切り短髪ショートヘアになったアルトリア。
 今まで伸ばして来た髪を切り捨てるような彼女の変化に二人は驚く中、エリクだけは渋る表情を強めた。

 そんな二人の様子を他所に、アルトリアは周囲を見回しながら問い掛けて来る。

「来てるの、二人だけ?」

「いや、向こうでマギルスが寝てる。それよりお前、あの野郎……自分の母親メディアをいつの間に引き込みやがった?」

「別に引き込んで無いわよ。私の周りに居据わるから、良い様に使ってるだけ」

「じゃあ、アイツがやってる選別ってのはなんだよ」

「それを言い出したのもアイツメディアで、その原因はそっちケイル

「アタシ?」

「貴方が魔大陸に行く事を師匠やシルエスカにも言って、同行するって話になったでしょ。それを嗅ぎ付けたアイツメディアが、魔大陸に行くのはある程度の実力が必要だから選別した方がいいって言って来たのよ」

「……で、それに同意したからこんな選別ことをやらせてんだな?」

「まぁね、私も無意味に同行者を増やすのには反対だったし。建造したこれも定員が限られてるんだから」

「それでアタシ等まで落ちてたらどうすんだよ」

「その時はその時よ。私だけで魔大陸に行くわ」

「……お前なぁ」

「何よ。私も魔大陸で生き残る為にアイツメディアと二年間も訓練をやらされたんだから、別に選別くらい良いじゃない」

「!」

「この髪だって、その訓練せいでかなり傷んで千切れ千切れになっちゃったから。いっそのこと邪魔にならないよう切ろうと思っただけよ」

「……そういう理由わけかよ」

 アルトリアは特に悪びれる様子も無く、メディアが選別を行っていた理由を明かす。
 そして彼女もまた母親メディアに過酷な訓練を強いられた事を伝え、不貞腐れた表情を浮かべた。

 更に髪を短くした理由についても明かすと、ケイルは納得した様子を浮かべる。
 すると隣に居るエリクに横目を向け、彼が渋い表情を浮かべているのを察しながら、溜息を吐き出して二人に伝えた。

「じゃ、マギルスを起こして来る。ちょっと待ってろ」

「ええ、お願い」

 そう述べながら背を向けるケイルは、マギルスが寝転がっていた方角へ歩み始める。
 しかし振り返る瞬間、エリクにだけ聞こえる声量でこう呟いた。

「――……ちゃんと話、しとけよ」

「!」

 それを伝えたケイルは、背中を見せながら二人から離れていく。
 するとケイルの意図を理解したエリクは、改めてアルトリアと向かい合いながら僅かな沈黙を浮かべた。

 そうして短くなった髪と顔を見るエリクに、アルトリアは腕を組みながら問い掛ける。

「なに、どうしたの?」

「……本当に、訓練それが理由で髪を切ったのか?」

「そうよ。それ以外に何があるのよ」

「……俺のせいか?」

「!」

「一年前に、君に伝えた言葉。……アレのせいじゃないのか?」

 エリクは自身が考える理由を伝え、改めて問い掛ける。
 それを聞いたアルトリアは僅かに訝し気な表情を浮かべた後、僅かに溜息を吐き出しながら言葉を返した。

「はぁ……。……私は確かに、貴方の知ってる『アリア』じゃない」

「!」

「帝国で育った『公爵家の娘アルトリア』でも無ければ、貴方達と旅をした『仲間アリア』でもない。ましてや、別未来で人間大陸を滅ぼし掛けた『神』でもない。……ただその記憶を持ってるだけの存在よ」

「……アリア」

 視線を逸らしながらそう述べる彼女アルトリアに、エリクは渋る表情を強める。
 しかしエリクの黒い瞳と合わせるように視線を戻した彼女は、強めの口調で言葉を続けた。

「でも、はっきり言っておくわ。……貴方に言われなくても、私は『私』だとちゃんと認識してる」

「!」

「昔の私に戻りたいとも思わないし、思いたくもない。ただ私は昔の私が培った知識や経験、そして人脈も利用してる今の私が都合の良い方向に事を進めてるだけ。……貴方に対して『アリア』を演じていたのも、単に貴方を動かすのに都合が良かったからよ」

「……」

「だから、貴方の為に『昔の私アリア』を演じてたなんて誤解は止めなさい。それ、自意識過剰って言うのよ」

 胸の前に組んでいた両腕を解く彼女は、前へ突き出した右腕と右手の人差し指と共に否定の言葉を向ける。
 それを聞いたエリクは僅かに表情を暗くさせ、顔を前へ沈めながら謝った。

「……すまない」

「ふんっ、分かればいいのよ」

「違う。……俺の言葉が、また君にそんな嘘を吐かせた」

「!?」

「俺はもう、君の嘘に騙されない。そして、今度こそ君を守りたい。……また君が、君自身を犠牲にしない為に」

「……」

「だからもう、俺の前では嘘をかなくていい。……いや、かないでくれ」

 エリクはそう伝え、彼女の語った話が嘘だと述べる。
 すると改めてそうした言葉を向け、本心を明かすよう求めた。

 それを聞いた彼女は最初こそ驚きから呆然した表情になる。
 しかし表情それは険しさを強め、怒りの感情が見える声を改めて向けた。

「……嘘じゃないわ。これが『私』の本心よ」

「違う」

「違わない。勝手に嘘だと決め付けないで」

「だったら、どうして俺を見ながら言うんだ?」

「!」

「君はうそく時、いつも相手おれの目を見ながら言う。逆に本当の事を言う時、相手おれから視線を逸らしながら話す」

「……何を、根拠に……」

「記憶が消えていても、君自身の癖が消えているわけではない」

「……ち、違うわ」

「違わない。……どうして君は、いつも自分の本心こころを偽るんだ?」

 エリクは沈めた頭を上げながら、彼女から吐き出される言葉を嘘だと語る。
 それを聞かされた彼女がわは視線を右往左往させていると、エリクは歩み寄りながら再び問い掛けた。

「……やはり君は、とても臆病なんだな」

「な……っ!?」

「自分の本心を誰にも知られたくないから、君は嘘を吐く。それを嘘だと知られたくないから、自分でもその嘘を信じようとする。……そうじゃないか?」

「……たかだが二年ちょっと一緒に居たからって、分かった風な口を利かないでっ!!」

「そうだ。俺と君は二年間、ずっと一緒だった。君を守る為に見続けた。……だから分かる」

「!!」

「パール達が居る樹海もりへ一緒に行った時、君は熱を出して倒れた。その時の君は、俺の手を握りながら涙を流して謝った」

「……し、知らない……そんなの……!」

共和国マシラで父親が死んだという話を聞いた君は泣きながら、自分を責め続けた」

「ち、違う!」

「君が初めて人を殺した夜。君は眠れずに不安そうな表情かおで、俺に寄り添った」

「……めて……!!」

「あの砂漠で『螺旋の迷宮スパイラルラビリンス』に巻き込まれた時。君は泣きながら、俺を殺す以外の脱出方法を見つけると言ってくれた」

「違う、違う……! それは、私じゃないっ!!」

「いいや、それも君だ」

「!」

「例え記憶が無くても。君が君で在ることは、何も変わりは無い。……君の臆病さは、俺が一番よく知っている」

「……ッ!!」  

 詰め寄るようにエリクは歩み、彼女は動揺し後退りし続ける。
 そして機体ふねから降りた時の階段まで戻ってしまった事に気付いた彼女は、詰め寄るエリクを睨みながら荒げた声を向けた。

「……じゃあ、どうしろって言うのよっ!?」

「!」

「『公爵家の娘アルトリア』でも無ければ『仲間アリア』でも無い! 『アリス友人』でも『神』でも無い私は、何になれって言うのよっ!!」

「……」

「私自身の事なんか、私自身が一番分からないわよっ!! ……何者にもなれない記憶なんて、有っても邪魔でしかないじゃないっ!!」

「……ッ」

「それなのに、色々な問題ばっかりに出て来るしっ!! それに巻き込まれて、対処しなきゃいけなくて! その都度、『アルトリア』や『アリア』をやらなくちゃいけなくてっ!!」

「……君は……」

「そして今度は、『世界の歪み』ですって……!? そんなの、私からしたら知ったことじゃないわっ!!」

「……」

「でもどうにかしないと、必ずその問題にだって巻き込まれる! だからこんなまでつくって、顔も見たくない母親メディアに付き纏われてっ!! ……なのに、今更になって『アリア』にならなくていいって……何なのよ……っ!!」

「……すまない」

「謝って欲しくなんかない! 私はどうすればいいのかって聞いてるのよっ!?」

「……俺にも、それは分からない」

「ッ!!」

 怒鳴りながら反論する彼女に対して、エリクはそうした答えを返してしまう。
 それは追い詰められた側の彼女からすれば怒りを感じる言葉だったが、続くようにエリクの口からある事が述べられた。

「俺も、何者になればいいのか分からない時がある。君と同じように」

「!?」

「最初は『傭兵』に。そして傭兵団の『団長』に。次は『虐殺者』だった。……そして君と出会って『護衛』になり、『仲間』になった」

「……」

「そうかと思えば、俺のなかには『鬼神フォウル』が居て。だが俺自身は、『最強の戦士べつ』の生まれ変わりだと言われて。……今では周りに、世界を救った『英雄』と呼ばれている」

「……ッ」

「俺は何者で、何になればいいか。それは俺にも分からない。さっきのは全て、誰かに望まれた立場ものでしかない。……俺は今も、俺自身が何になりたいのかが分からない」

「……」

「俺も、そして君も。まだ自分が何者なのか、そして何になりたいのか、何も分からない。……きっとそれは、自分で探すしか答えを得られないんだ」

 自分自身のことについて考えていた事情を明かすエリクは、そうした答えを返す。
 それを聞いた彼女は怒りを宿した表情を次第に呆然とさせながら、顔を俯かせた。

 するとエリクは、改めて彼女に言葉を掛ける。

「だから、一緒に探そう」

「……!」

「君が何者になりたいのか、本当は何をしたいのか。それが分かるまで、俺は君の傍に居る。……約束する」

「……何よ、それ……」

「俺も、自分が何者になりたいのか。何がしたいのか、ちゃんと探してみる。……だから君も、一緒に探そう」

「……」

 エリクは右腕を動かし、右手の平を見せながら前方まえに差し出す。
 それを俯きながら見た彼女は、十数秒ほど無言のままその右手を見続けた。

 すると小さな溜息を吐き出し、彼女は呟きを浮かべる。

「……本当に、傍に居てくれる?」

「ああ」

「私、きっとまた……色々と問題を起こすわよ。それに巻き込まれるかも」

「もう慣れた」

「何よ、それ。……聞いていい?」

「なんだ?」

「どうして私なんかと、一緒に居てくれるの……?」

 不安を宿す声でそう問い掛ける彼女に、エリクはその理由を求めるように思考は巡らせる。
 その瞬間、脳裏に彼女と初めて出会った時の事を思い出した。 

 するとエリクは口元を微笑ませながら、その理由を伝える。

「俺は、君が好きだ」

「!?」

「それに、君と一緒に居ると楽しいこともある。……それが、一緒に居る理由かもしれない」

「……っ!!」

「!」

 その答えを聞いたアルトリアは、驚きの表情と共に僅かに頬を染める。
 しかし俯いたままの顔はそれをエリクに見せず、すぐに表情を引き締めながら両手で両頬を叩いた。

 それに驚くエリクに対して、改めて顔を上げた彼女は充血した赤い頬を見せる。
 すると乱れた呼吸を一息で戻しながら、改めて告げた。

「私も、貴方の事は好きよ。でも、それは人間としてね」

「……そうか」

「それに、権能ちからを持ってる貴方の協力は必要不可欠だから。どっちにしても付いて来てもらうわよ」

「ああ、分かった」

 違いの視線を合わせながら述べる彼女の言葉に、エリクは微笑みを浮かべながら応える。
 そして二人は互いに右手の握手を交わし、改めて共に同じ目的の為に行動することを許し合った。

 それは二人が、初めて対等な握手を交わした時。
 今まで様々なことを教えられ導かれたエリクが、逆に彼女アリアを導いた瞬間でもあった。
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