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終章:エピローグ
微笑む景色
しおりを挟む失われた記憶を得ながらも何者になるべきか分からず迷い続けた彼女に、エリクは手を差し伸べる。
そして自分が何者なのかを探す為に、共に居続ける事を改めて約束した。
そうして握手を交わす二人の傍に、二人の人影が歩み寄る。
一人は先程まで共に居たケイルと、起こされたマギルスだった。
すると握手をしていた二人は手を離すと、マギルスは笑いながら声を向ける。
「――……アリアお姉さん、久し振り!」
「はいはい、久し振り」
「ねぇねぇ、コレが新しい飛行船? 前の箱舟より小っちゃくない?」
「当たり前よ。前みたいな箱舟で魔大陸に行ったら大きさで目立つし、飛行速度も遅いから撃ち落とされかねないでしょ。実際に箱舟のは何度も撃ち落とされたし」
「ふーん。じゃあ、コレは撃ち落とされない?」
「船体は全て魔鋼を素材にして作ってるわ。人間大陸の魔獣程度じゃ、傷一つ付けられないわよ」
「へー。ちなみに、中ってどんな感じなの?」
「そうね、案内がてら見てみる?」
「見るー!」
改めて新造した飛行船について聞くマギルスに、アルトリアは製作者として答える。
そんな二人が階段を登る姿を見るエリクの隣に、ケイルは立ちながら問い掛けた。
「――……ちゃんと、話せたか?」
「ああ。……ありがとう、ケイル」
「別に。ただ旅の最中に、また御嬢様が不機嫌になられるのは面倒なだけだ」
「そうか」
「――……二人ともぉ、来ないの? 一緒に見ようよ!」
「ああ、行くよ」
二人はそう話した後、マギルス達を追うように階段を登る。
そして四人は改めて船内に入り、その内部構造を見て回った。
そうした中で、アルトリアは自身が設計し開発した新造艦について説明していく。
「この飛行船は三階立ての構造でね。一階が格納庫と居住区画になってて、二階が重要施設の区画。ちなみにさっきの乗り降り口は二階ね。そして三階が艦橋になってるわ」
「人型の魔導人形がいるな……」
「わー、ガラスが張ってる部屋がいっぱいだぁ」
アルトリアの説明を聞いている他の三人は、廊下を歩きながら通り過ぎる硝子張りの部屋を覗き込む。
そこには黒い魔鋼製の人型魔導人形が見え、飛行船の動力炉や制御機器を扱い管理している様子が見えた。
三人はそうした二階部分を見て回ると、廊下の途中にある扉にアルトリアは近付く。
するとそこにある下側に向く矢印の操作盤を押すと、自動で扉は両脇に収まるように開いた。
扉の先は四方三メートル前後の小部屋だけであり、アルトリアはそこに入る。
そして他の三人も続くように入ると、彼女は部屋の中にある数字の操作盤を押した。
すると扉は自動的に閉まると、その小部屋全体が僅かに揺れながら動き始める。
そうした機構を見ていた三人は、別未来で赴いた同盟国の秘密基地を思い出した。
「……別未来の基地でも使ってた、昇降口って機械か」
「まぁね。階段もあるけど、これで上と下の階は自由に行き来できるわ」
「下に向かっているのか?」
「ええ。まずは、私達がこれから暮らす部屋から見せてあげる。――……さぁ、どうぞ」
話している間に一階へ辿り着いた昇降口は、再び扉を開ける。
そして再び先導するアルトリアに、他の三人も付いて行った。
するとその先で見た景色に、三人は驚愕を浮かべる。
それは昇降口から出た瞬間、そこには土で覆われた地面と太陽の光が見えた。
更には草木や畑なども存在し、その先には幾つかの家も見える。
三人はその光景に驚きを浮かべると、アルトリアはニヤついた表情でその反応を窺いながら説明を始めた。
「ここが、私達が暮らす居住区よ」
「わー、なんか村っぽい!」
「……おい、外じゃねぇかっ!?」
「外じゃないわ、船の一階よ」
「中だと……!?」
「……これは、前にも見たな。魔法でやっているのか?」
「!」
明らかに外としか思えない情景に、ケイルは困惑した様子を浮かべる。
しかしエリクは別未来で見た『黒』や『神』が作り出した空間を思い出して聞くと、それに頷きながらアルトリアは答えた。
「そうよ、時空間魔法で船体内の空間を拡張させてるの。だから船体の外観より、ずっと内部は広いのよ」
「……そういや、『黒』もそんなこと言ってたな。お前も出来んのかよ」
「私というよりも、船体の素材になってる魔鋼を利用して空間を拡張させて維持できてるのよ。私の独力じゃ、この空間を維持するのは無理ね」
「……あと、なんで畑があるんだ?」
「魔大陸に行ったら、人間大陸の食料が確保できないでしょ? あそこでは主だった野菜とか薬味を育てて。ここからじゃ見えないけど、向こうには果物畑もあるのよ。あと別の場所には、小規模だけど牧場もあるわ。牛や山羊もいるから乳が貰えるし、鶏も居るから新鮮な卵が採れるわよ」
「……」
「何よその顔。言ったでしょ、『居住区』だって。私達が暮らす為に必要な物を粗方は揃えてる為には必要でしょ。ほら、家も見せてあげるわ。行きましょ――……」
「……本当に、これから魔大陸に行くんだよな……?」
「あまり、気にするな」
小規模ながらも村規模の環境の船内に作り上げている光景に、ケイルは驚きを超えて呆気を含んだ複雑な表情を浮かべる。
それをエリクは宥めながら、改めて三人は案内をするアルトリアの背中を追うように歩いた。
外と変わらぬ天候と髪を揺らし肌を扇ぐ風を感じながら、四人は幾つかの家が並ぶ場所に訪れる。
合計で六つの様式で建築された中規模の家が並ぶ光景を見ながら、改めてケイルは問い掛けた。
「――……で、この家は?」
「私達の家よ」
「……なんで、こんなに?」
「一人一つの家でいいかなと思って作ったのよ。あっ、ちなみに私の家はそこに決まってるから。アンタ達は他の家を選んでね」
「……」
「だから何よ、その顔。言いたい事があるならはっきり言いなさい」
「……お前、こんな無駄なモンを三年間も掛けて作ったのかよ……?」
「無駄じゃないでしょ、一人の時間は大事だし。……あっ、安心して。別に一人で一つの家を使う必要は無いし。向こうの家は結構広くて部屋も多いし、寝台のサイズも二人用だからエリクと二人で暮らしてもオーケーよ?」
「殴るぞ」
「うわっ、止めなさいよ!」
「わーい! 僕、あの青い家にする!」
『ヒヒィン』
「……フッ」
そうしたやり取りを行う各々の姿を見ながら、エリクは僅かに微笑みを浮かべる。
久し振りに集まった仲間達の光景は、彼に懐かしくも微笑ましい感情を抱かせた。
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