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第壱章──出逢いと別れ──
死せる君と。参話
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「紹介が遅れた。私の名はウィーリ。ウィーリ・サミュエルズ・ディーテだ。言い辛いだろうから、ビルとでも呼んでくれ」
「ご紹介有難う。私は円谷舞子よ。先刻から気になってたんだけど、貴方この国じゃ見ない顔ね。異邦人なの?」
「ああ、数年前の戦争の傭兵だったんだよ。その戦争が原因で左眼も失ったのさ。ほら」
そう言うと左手に丸い物をぽろりと落とした。
「!?」
息が詰まるほど驚き、思わず腰掛けていた椅子から音を立てて立ち上がった。
「義眼と言ってな、此奴が無いと腫れ物の様に扱われるんだよ。初めて他の人に見せたが、中々いい反応をするな」
フッと鼻で笑う彼を私は睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでくれよ」
「誰だってそんな物を見たら驚くわよ。そう言えば貴方やけにこの国の言葉が上手いのね。異国の言葉って話すのは難しいと聞いたわよ」
「終戦から数年も経ってるんだ、其の間に言葉を覚えるのなんて造作も無い。此の辺りに住んでいた人達から色々教わっててな、こんな何時襲い掛かって来るかも分からない様な男にも親切にしてくれたのさ。君と今話が出来ているのは彼らのお陰と言っても過言では無いな」
取り出した義眼を元の位置に嵌め込みながら彼はそう言った。
「えっ……? でも此処まで来るのに誰にも会わなかったわよ? だからこそ此の森を死に場所に決めたというのに」
私が反論すると彼は少し俯いて口を開いた。
「……彼等は一年前に流行病で全員亡くなった」
私は何も言えなかった。
「私の周りの人は何時も私を置いて死んで逝く。此の本を読むのも忌々しい己を清めるためだ。だから今日、舞子を引き止めることが出来て良かった」
手元の本を撫でながら真っ直ぐ私を見た。
「舞子は思い詰めて此の場所に来たようだが、舞子に家族は居ないのかい?居るならば森の出口まで送るから帰りなさい」
「……家族なんて消えたわ」
「……そうか、ならば私と同じだな。行く宛てが無いのなら此処に居ればいい」
「貴方も家族がいない……の……?」
「妻が居たが、別の流行病で死んでしまったよ」
憂いを含んだ笑みで答える彼に、私は胸を締め付ける思いに駆られた。
私は家族から縁を切られたに過ぎないが、彼は死別し家族の存在そのものが居ないのだ。
「こんなに大切な人が周りで死んでると、貴方は死にたくならないの?」
「……死にたいさ。……舞子を迎え入れようとしているというのに、今こうして話している瞬間も」
彼の言葉に唯ならぬ重みを感じた。屹度心からそう思っているのだろう。
「……何故思い止まれるの?」
「妻の遺言の所為さ」
先程よりも重みの増した言葉に私は固まった。
「さて、この話題はもう止めよう。この戸を出て裏手に大きな桶があるからそこで身体を暖めなさい。……女性がそんな身なりでは笑われてしまうからね」
そう言うと、彼は綺麗に畳まれたタオルを手渡してきた。着崩れ、傷と泥に塗れた私を気遣ったのだろう。
他人が使ったかもしれないため少し気は引けるが、今は我慢するしかない。
「有難う」
一言だけ口にし、私は戸を開けた。
「ご紹介有難う。私は円谷舞子よ。先刻から気になってたんだけど、貴方この国じゃ見ない顔ね。異邦人なの?」
「ああ、数年前の戦争の傭兵だったんだよ。その戦争が原因で左眼も失ったのさ。ほら」
そう言うと左手に丸い物をぽろりと落とした。
「!?」
息が詰まるほど驚き、思わず腰掛けていた椅子から音を立てて立ち上がった。
「義眼と言ってな、此奴が無いと腫れ物の様に扱われるんだよ。初めて他の人に見せたが、中々いい反応をするな」
フッと鼻で笑う彼を私は睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでくれよ」
「誰だってそんな物を見たら驚くわよ。そう言えば貴方やけにこの国の言葉が上手いのね。異国の言葉って話すのは難しいと聞いたわよ」
「終戦から数年も経ってるんだ、其の間に言葉を覚えるのなんて造作も無い。此の辺りに住んでいた人達から色々教わっててな、こんな何時襲い掛かって来るかも分からない様な男にも親切にしてくれたのさ。君と今話が出来ているのは彼らのお陰と言っても過言では無いな」
取り出した義眼を元の位置に嵌め込みながら彼はそう言った。
「えっ……? でも此処まで来るのに誰にも会わなかったわよ? だからこそ此の森を死に場所に決めたというのに」
私が反論すると彼は少し俯いて口を開いた。
「……彼等は一年前に流行病で全員亡くなった」
私は何も言えなかった。
「私の周りの人は何時も私を置いて死んで逝く。此の本を読むのも忌々しい己を清めるためだ。だから今日、舞子を引き止めることが出来て良かった」
手元の本を撫でながら真っ直ぐ私を見た。
「舞子は思い詰めて此の場所に来たようだが、舞子に家族は居ないのかい?居るならば森の出口まで送るから帰りなさい」
「……家族なんて消えたわ」
「……そうか、ならば私と同じだな。行く宛てが無いのなら此処に居ればいい」
「貴方も家族がいない……の……?」
「妻が居たが、別の流行病で死んでしまったよ」
憂いを含んだ笑みで答える彼に、私は胸を締め付ける思いに駆られた。
私は家族から縁を切られたに過ぎないが、彼は死別し家族の存在そのものが居ないのだ。
「こんなに大切な人が周りで死んでると、貴方は死にたくならないの?」
「……死にたいさ。……舞子を迎え入れようとしているというのに、今こうして話している瞬間も」
彼の言葉に唯ならぬ重みを感じた。屹度心からそう思っているのだろう。
「……何故思い止まれるの?」
「妻の遺言の所為さ」
先程よりも重みの増した言葉に私は固まった。
「さて、この話題はもう止めよう。この戸を出て裏手に大きな桶があるからそこで身体を暖めなさい。……女性がそんな身なりでは笑われてしまうからね」
そう言うと、彼は綺麗に畳まれたタオルを手渡してきた。着崩れ、傷と泥に塗れた私を気遣ったのだろう。
他人が使ったかもしれないため少し気は引けるが、今は我慢するしかない。
「有難う」
一言だけ口にし、私は戸を開けた。
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