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第壱章──出逢いと別れ──
死せる君と。伍話
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いざ、彼と過ごしてみると、家では出来なかった事を沢山経験した。
冬に向けて、暖を取るために薪を割ったり、不器用だからと避けて一度もして来なかった料理と向き合ったり。
だが、当然上手くいく筈もなく、全身が悲鳴を上げて動けないなんて事は日常茶飯事で、野菜を切る作業で二、三時間費やすこともあった。
毎日熟す
此の様な事をしていると、ふと思う事がある。それは、野菜や米、服などは何処で揃えているのかということ。斧等は彼の言っていた親切な人達から譲り受けるだろう。然し、ほぼ自給自足に近い生活をしているというのに如何して米や服等を手に入れているのか。初冬が過ぎた頃、思い切って聞いてみることにした。
「貴方の身につけている服や、料理の材料等は如何しているの?」
「今は寒いからほぼ使っていないが、野菜は畑で作り、米や服なんぞは森を抜けた小さな村で手に入れている。」
驚いた。畑なんて見たこと無く、こんな森の近くに村が有るとは知らなかった。
「私は此処で育てている野菜を村に売って収入を、その収入で服を手に入れたりしているよ。後は此処からは少し遠くなるが街に出向く事もある。」
「此の周辺に人は居ないと思っていたけど…意外ね。」
「興味があるなら、丁度上着が欲しいと思っていたから舞子も来るか?」
余りにも魅力的なお誘いだった為に、私は少し食い気味に頷いた。
軟禁に近かった円谷家での生活では街に出ることは殆ど無かった。有るとしても幼い頃、姉が私に社会勉強だと言ってこっそり連れて行ってくれた時位だ。帰ってきてから涙が混じりの声の母様に一日中説教され、押し入れに幽された時に二度と行かないと決めたものだが、またこうして憧れの地に行けると聞くと、胸が踊るようだった。
翌日、私達は長い時間をかけてやっとの事で、少し栄えた街に辿り着いた。幼い頃行った場所とは違ったが、目に映るもの全てが私の好奇心を刺激する。辺りをキョロキョロと見渡している私に彼は「早く行くぞ」と声をかけた。度々出向いているとはいえ、此の様な容姿じゃ目立って仕方がないのだろう。其れを察し、足早に目的地へ向かう。或る呉服屋に着くや否や彼は「好きなのを選ぶと良い」と黒いインバネスコート持って店主らしき人の元へ向かった。すると、店主の女性が彼を見て小声の悲鳴を上げる。彼は立っているとかなり大きく、其れに驚いてしまったように見えた。呆気に取られる私を他所に、コートを羽織った彼は「此なんて舞子に似合うんじゃないか?」と薄紅色のケープを渡してくる。見たところ丈夫で今着ている杏色の袴と良く似合う。私は直ぐに気に入り、お勘定を済ませると、呉服屋を後にした。
冬に向けて、暖を取るために薪を割ったり、不器用だからと避けて一度もして来なかった料理と向き合ったり。
だが、当然上手くいく筈もなく、全身が悲鳴を上げて動けないなんて事は日常茶飯事で、野菜を切る作業で二、三時間費やすこともあった。
毎日熟す
此の様な事をしていると、ふと思う事がある。それは、野菜や米、服などは何処で揃えているのかということ。斧等は彼の言っていた親切な人達から譲り受けるだろう。然し、ほぼ自給自足に近い生活をしているというのに如何して米や服等を手に入れているのか。初冬が過ぎた頃、思い切って聞いてみることにした。
「貴方の身につけている服や、料理の材料等は如何しているの?」
「今は寒いからほぼ使っていないが、野菜は畑で作り、米や服なんぞは森を抜けた小さな村で手に入れている。」
驚いた。畑なんて見たこと無く、こんな森の近くに村が有るとは知らなかった。
「私は此処で育てている野菜を村に売って収入を、その収入で服を手に入れたりしているよ。後は此処からは少し遠くなるが街に出向く事もある。」
「此の周辺に人は居ないと思っていたけど…意外ね。」
「興味があるなら、丁度上着が欲しいと思っていたから舞子も来るか?」
余りにも魅力的なお誘いだった為に、私は少し食い気味に頷いた。
軟禁に近かった円谷家での生活では街に出ることは殆ど無かった。有るとしても幼い頃、姉が私に社会勉強だと言ってこっそり連れて行ってくれた時位だ。帰ってきてから涙が混じりの声の母様に一日中説教され、押し入れに幽された時に二度と行かないと決めたものだが、またこうして憧れの地に行けると聞くと、胸が踊るようだった。
翌日、私達は長い時間をかけてやっとの事で、少し栄えた街に辿り着いた。幼い頃行った場所とは違ったが、目に映るもの全てが私の好奇心を刺激する。辺りをキョロキョロと見渡している私に彼は「早く行くぞ」と声をかけた。度々出向いているとはいえ、此の様な容姿じゃ目立って仕方がないのだろう。其れを察し、足早に目的地へ向かう。或る呉服屋に着くや否や彼は「好きなのを選ぶと良い」と黒いインバネスコート持って店主らしき人の元へ向かった。すると、店主の女性が彼を見て小声の悲鳴を上げる。彼は立っているとかなり大きく、其れに驚いてしまったように見えた。呆気に取られる私を他所に、コートを羽織った彼は「此なんて舞子に似合うんじゃないか?」と薄紅色のケープを渡してくる。見たところ丈夫で今着ている杏色の袴と良く似合う。私は直ぐに気に入り、お勘定を済ませると、呉服屋を後にした。
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