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第壱章──出逢いと別れ──
死せる君と。漆話
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姉は私と再び別れるのを嫌がった。
「私ね、もうすぐで円谷家の当主になるの。今日こうして街に来て居るのも最後の時間を過ごそうと思ってたから。でも、そんな事よりも、舞子にまた逢えるかもしれないと少し期待していたのかもしれない。だから今、此処で舞子の手を離してしまったら絶対私は後悔する。私が当主になれば舞子に寂しい思いはさせない。其処に居る殿方の事が心残りなら、一緒に家に来ても良い。だから…お願いだから…私の元に戻って来て…」
一言も噛まず、私の手を握ったままそう言った姉は、私に縋り付く。正直悩んだ。此の儘姉について行けば両親を気にすることも無く、生活は保障されるだろう。だが、私は柄にもなく今の生活を楽しいと、心地良いと感じる様になってしまった。姉と過ごせるのは嬉しい。でも覚悟を決めて家を出た私の気持ちを自分で踏み躙るのを、然して此の生活を手放してしまうのを、私は如何しても許せなかった。
「御免なさい、姉さん。私は姉さんの期待には答えられそうにありません」
私は二度目の姉さんとの決別を告げ、握られていた手を弾く様に離した。
「舞子…如何して…私の事嫌いになってしまったの…?」
眉を下げ、まるで捨てられた仔犬のような表情を見せる姉に心が痛んだ。
「姉さんを嫌いになった訳ではありません。唯、私は姉さん以外の居場所を見つけたのです」
「私は舞子を誰よりも愛しているのよ…?」
「分かっています。これ迄姉さんに感謝しなかった日はありませんから。其処で私から提案が有るのですが」
「何かしら」
「『文通』というものをしてみませんか。私も元は貴族の娘、字の読み書き位は習っています」
「良いわよ。でも、私は今の舞子の住所を知らないわ」
「心配には及びません。彼処に郵便局が見えるでしょう。其処の人に頼んで、中継として活用すれば手紙のやり取りは出来る筈です」
「流石私の妹ね!…でも住所さえ教えてくれたら其れで良かったのに」
「此処から遠いですから姉さんの手を煩わせたくなかったのです」
言ってしまえば、今の住居を姉に見られたら卒倒して、私を連れ戻そうとするに違いない。其れは嫌だった為に事実を織り交ぜて敢えて申し入れを断ったのだ。
「其処迄言うなら仕方が無いわ。郵便局には私が言っておくわね。其れよりももうすぐで日が暮れてしまうから徐々帰路に着いた方が…」
空を見上げると、街に着いた時は真ん中にあったお天道様が、紅い環をゆらゆらと靡かせて消えていく所だった。今から戻るならきっと日付を跨ぐだろう。
「私達はここらの宿を取るから安心して欲しい」
先程迄黙っていた彼が口を挟んだ。正直今から歩いて帰るのは、身体が拒絶していたから助かった。
「ウィーリさんが居るなら大丈夫ね。では二人共気を付けるのよ」
少し顔を綻ばせた姉は踵を返し、女中と共に人混みに消えて行く。
街はもう街灯に照らされていた。
「私ね、もうすぐで円谷家の当主になるの。今日こうして街に来て居るのも最後の時間を過ごそうと思ってたから。でも、そんな事よりも、舞子にまた逢えるかもしれないと少し期待していたのかもしれない。だから今、此処で舞子の手を離してしまったら絶対私は後悔する。私が当主になれば舞子に寂しい思いはさせない。其処に居る殿方の事が心残りなら、一緒に家に来ても良い。だから…お願いだから…私の元に戻って来て…」
一言も噛まず、私の手を握ったままそう言った姉は、私に縋り付く。正直悩んだ。此の儘姉について行けば両親を気にすることも無く、生活は保障されるだろう。だが、私は柄にもなく今の生活を楽しいと、心地良いと感じる様になってしまった。姉と過ごせるのは嬉しい。でも覚悟を決めて家を出た私の気持ちを自分で踏み躙るのを、然して此の生活を手放してしまうのを、私は如何しても許せなかった。
「御免なさい、姉さん。私は姉さんの期待には答えられそうにありません」
私は二度目の姉さんとの決別を告げ、握られていた手を弾く様に離した。
「舞子…如何して…私の事嫌いになってしまったの…?」
眉を下げ、まるで捨てられた仔犬のような表情を見せる姉に心が痛んだ。
「姉さんを嫌いになった訳ではありません。唯、私は姉さん以外の居場所を見つけたのです」
「私は舞子を誰よりも愛しているのよ…?」
「分かっています。これ迄姉さんに感謝しなかった日はありませんから。其処で私から提案が有るのですが」
「何かしら」
「『文通』というものをしてみませんか。私も元は貴族の娘、字の読み書き位は習っています」
「良いわよ。でも、私は今の舞子の住所を知らないわ」
「心配には及びません。彼処に郵便局が見えるでしょう。其処の人に頼んで、中継として活用すれば手紙のやり取りは出来る筈です」
「流石私の妹ね!…でも住所さえ教えてくれたら其れで良かったのに」
「此処から遠いですから姉さんの手を煩わせたくなかったのです」
言ってしまえば、今の住居を姉に見られたら卒倒して、私を連れ戻そうとするに違いない。其れは嫌だった為に事実を織り交ぜて敢えて申し入れを断ったのだ。
「其処迄言うなら仕方が無いわ。郵便局には私が言っておくわね。其れよりももうすぐで日が暮れてしまうから徐々帰路に着いた方が…」
空を見上げると、街に着いた時は真ん中にあったお天道様が、紅い環をゆらゆらと靡かせて消えていく所だった。今から戻るならきっと日付を跨ぐだろう。
「私達はここらの宿を取るから安心して欲しい」
先程迄黙っていた彼が口を挟んだ。正直今から歩いて帰るのは、身体が拒絶していたから助かった。
「ウィーリさんが居るなら大丈夫ね。では二人共気を付けるのよ」
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街はもう街灯に照らされていた。
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