死せる君と。

木蔦空

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第弐章──過去と真実──

死せる君と。肆話

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 小さい頃から欲しいものは何でも手に入ったが、唯一手に入らないものがあった。れは幼馴染おさななじみ円谷つぶらや舞子まいこという女だ。普通の女なら興味を引くために誘惑したり、嫌という程話しかけてきたりするものだが、舞子には其れが無かった。常に姉と過ごし、常に姉と笑い合う。僕には見せない顔。羨ましかった。

 だが、僕は同い年である姉の鳴子めいこの性格を知っている。る時手に持った包丁で鳥らしき物を滅多刺めったざしにしているのを見てしまった。其の時鳴子の顔は笑っており、恐ろしさとむごたらしさで動物が嫌いになったのを覚えている。だから心を寄せる舞子と何時も一緒に居るのは見ていて不安だった。

 姉の本性を知らない舞子に、知らないまま姉から離そうと思った僕は父に懇願こんがんして舞子に嫁に来るよう説得させた。下心が無かったかと言われればそうでは無いが、かく舞子の身を守りたかったのだ。しかし、舞子は縁談を嫌がった。不安と恐怖で心の余裕が無かった僕は気づくと舞子の首を絞めていた。ままだと鳴子の様になってしまうのに手が細い首を捉えて離さない。すると、舞子の悲鳴を聞き付けた両親が飛び込んできた。僕は動揺どうようして有りもしない嘘をでっち上げると父親は舞子を平手打ち、母親は舞子をののしり始める。自分の保身ほしんの為に想い人を傷付けるなんてくずみたいな男だと、目の前で虐げられる舞子を見ながら思った。ただ好きな人を守りたかっただけなのに、自分の傲慢ごうまんさと身勝手な行為が更に舞子を苦しめているのをこの時まで気づくことが出来なかったのだ。

 舞子が意識を失った時身体の震えが止まらなかった。殺してしまったのではないか、家族に知られればどうなるか。この状況でも自分の事しか考えていない自分に腹が立った。落ち着いてから全てを両親に打ち明けると、怒鳴られるのを覚悟していたのに二人は泣き出し舞子の安全を保障ほしょうすると言ってくれた。これも立場上仕方無いのだ。僕を責めれば築き上げた歴史を全て失うと思っているのだろう。実際、父親の方は手を膝の上で握り締めぷるぷると震えていたし、母親は顔がやつれていた。
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