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第弐章──過去と真実──
死せる君と。伍話
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鳴子の危険性を案じて舞子は元いた遠い親戚の所へ帰されることになった。鳴子の事を悟られぬ様、勘当という形で舞子を鳴子から安全に離そうというのだ。だが、その計画はある一人の女によって悪化の一途を辿ることになるとはこの時気づきもしなかった。
舞子は物心着く前に円谷の分家である姫城家から引き取られたため、鳴子とは実の姉妹では無い事は知らない。実際は姫城家は男系の家系であったために、舞子を厄介払いとして、鳴子の妹を欲しがっていた円谷家に養子として送った。だが、何も分からない舞子は円谷家に直ぐ馴染み円谷家の次女として成長した。そして鳴子を姉として慕い、彼女の奇行を知らず知らずの内に止めてきた。鳴子の猟奇的性格を抑えるため養女を迎えている事を何としても隠そうとした円谷家は、跡継ぎにと男を養子として迎えたと周囲に言っていた為、舞子は今まで軟禁状態だった。然し、鳴子の嗜虐癖が治まった今、危険を冒してまであの家に留まる必要が無いのだ。
舞子は嫌がるかもしれないが、縁談を断ったことを理由に姫城家へ送れば僕だけが悪者で済む。保身の為に舞子を傷付けた僕は聢と罰を受けねばならないのだ。舞子が死ぬのと僕の元から離れるのと何方がいいか聞かれたら絶対に今は後者を選ぶ。其れ程までに覚悟は決めていた。
両親からは舞子に絶縁を告げる辛い役務を任せてしまうが、其れとは別に或る人物に重大な役務を任せた。其れは桃と言う名の円谷家に仕える女中に、密かに姫城家までの道程を書いた地図を舞子に手渡すというものだ。
だが、僕のこの選択が間違っている事に気付いたのは翌日、舞子が円谷家を出た直後だった。
翌日、不安だった僕は父親に言って舞子の様子を見守るべく、円谷家から少し離れた所に身を潜めていた。舞子が扉を開け出てきたが、手に竜胆らしき何かを持っており、僕は背筋が凍るような感覚に襲われた。竜胆は「正義」という舞子から見た鳴子を表すような花言葉があるのだが、その反面「悲しんでいる貴方を愛する」という狂気に満ちた花言葉もある。間違いない、あれは鳴子が舞子に対して渡した物だ。純粋で何も知らない舞子はきっと喜んで受け取っただろう。それならば鳴子はもう帰ってきているという事ではないか。計画は鳴子がいない間を狙ったはずなのだが不覚だった。焦りと恐怖で吐き気が襲い思わず口を押さえる。すると突然円谷家から鼓膜を貫くが如く、女性の悲鳴が聞こえて来た。
急いで駆け付けると、居間に血塗れの女性と男性が倒れていた。恐らく舞子の両親だろう。母親の方は両眼とも抉り出され、父親の方は首と胸元に大きな刺傷があり、二人とも既に絶命していた為に、僕はその場から動けなくなってしまった。そして不運な事に返り血を浴びたのか、服や顔を紅く染めた鳴子が右手に刃物らしき物を持って僕の直ぐ後ろに立っていた。
気配も感じさせずそこに立つ彼女に僕の身体は言うこと聞かない。何の躊躇いもなく鳴子の右手は僕の腹部を貫き、白い肌着と灰黄色の外套を真紅に染め上げる。畳に倒れ込んだ僕に跨り背中を何度も刺す鳴子は笑っていた。
「ねぇ、私がこういう人間だって知ってたのでしょう?心配しなくても良いわ、苦しいのは一瞬だから!!」
鳴子の喜々として叫ぶ様子で僕は計画の全てが鳴子に漏れていたと悟った。ならば舞子が危ない。
「舞子…逃げろ……鳴子に見つからない程…遠くに………」
姿は無い想い人に声を振り絞り訴える。最後まで言い終わるや否や両手を振りかぶった鳴子は深紅の刃物を頭に思い切り突き刺した。
舞子は物心着く前に円谷の分家である姫城家から引き取られたため、鳴子とは実の姉妹では無い事は知らない。実際は姫城家は男系の家系であったために、舞子を厄介払いとして、鳴子の妹を欲しがっていた円谷家に養子として送った。だが、何も分からない舞子は円谷家に直ぐ馴染み円谷家の次女として成長した。そして鳴子を姉として慕い、彼女の奇行を知らず知らずの内に止めてきた。鳴子の猟奇的性格を抑えるため養女を迎えている事を何としても隠そうとした円谷家は、跡継ぎにと男を養子として迎えたと周囲に言っていた為、舞子は今まで軟禁状態だった。然し、鳴子の嗜虐癖が治まった今、危険を冒してまであの家に留まる必要が無いのだ。
舞子は嫌がるかもしれないが、縁談を断ったことを理由に姫城家へ送れば僕だけが悪者で済む。保身の為に舞子を傷付けた僕は聢と罰を受けねばならないのだ。舞子が死ぬのと僕の元から離れるのと何方がいいか聞かれたら絶対に今は後者を選ぶ。其れ程までに覚悟は決めていた。
両親からは舞子に絶縁を告げる辛い役務を任せてしまうが、其れとは別に或る人物に重大な役務を任せた。其れは桃と言う名の円谷家に仕える女中に、密かに姫城家までの道程を書いた地図を舞子に手渡すというものだ。
だが、僕のこの選択が間違っている事に気付いたのは翌日、舞子が円谷家を出た直後だった。
翌日、不安だった僕は父親に言って舞子の様子を見守るべく、円谷家から少し離れた所に身を潜めていた。舞子が扉を開け出てきたが、手に竜胆らしき何かを持っており、僕は背筋が凍るような感覚に襲われた。竜胆は「正義」という舞子から見た鳴子を表すような花言葉があるのだが、その反面「悲しんでいる貴方を愛する」という狂気に満ちた花言葉もある。間違いない、あれは鳴子が舞子に対して渡した物だ。純粋で何も知らない舞子はきっと喜んで受け取っただろう。それならば鳴子はもう帰ってきているという事ではないか。計画は鳴子がいない間を狙ったはずなのだが不覚だった。焦りと恐怖で吐き気が襲い思わず口を押さえる。すると突然円谷家から鼓膜を貫くが如く、女性の悲鳴が聞こえて来た。
急いで駆け付けると、居間に血塗れの女性と男性が倒れていた。恐らく舞子の両親だろう。母親の方は両眼とも抉り出され、父親の方は首と胸元に大きな刺傷があり、二人とも既に絶命していた為に、僕はその場から動けなくなってしまった。そして不運な事に返り血を浴びたのか、服や顔を紅く染めた鳴子が右手に刃物らしき物を持って僕の直ぐ後ろに立っていた。
気配も感じさせずそこに立つ彼女に僕の身体は言うこと聞かない。何の躊躇いもなく鳴子の右手は僕の腹部を貫き、白い肌着と灰黄色の外套を真紅に染め上げる。畳に倒れ込んだ僕に跨り背中を何度も刺す鳴子は笑っていた。
「ねぇ、私がこういう人間だって知ってたのでしょう?心配しなくても良いわ、苦しいのは一瞬だから!!」
鳴子の喜々として叫ぶ様子で僕は計画の全てが鳴子に漏れていたと悟った。ならば舞子が危ない。
「舞子…逃げろ……鳴子に見つからない程…遠くに………」
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