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第弐章──過去と真実──
死せる君と。拾壱話
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薬物の作用で動けない私を横目に、見せつけるように彼女はナイフを舞子の首に当てる。切れた皮膚からさらさらと血が流れ始め、私は体中の血管が切れるが如く怒りに沸いた。
「何故貴女は……! 平然と妹の命を奪おうとするんだ……!」
「貴方こそ幾ら戦場とはいえ、何故あんなに人を殺せたの?」
反論出来なかった。
「……何故其の事を知っている」
「あら図星なの? やっぱり貴方人殺しだったのね! ……昔貴方の父親を名乗る人にお世話になったのよ。貴方の母国では酒で酔っていたら人に手を上げても咎められないのね。あの日貴方の名前を聞いてピンと来たわ」
意味が分からない。
父の事を知っているのか……?
「貴方……ウィーリ・サミュエルズ・ディーテ……って名前でしたっけ? ……うふふ、とんだ大嘘つきじゃない!」
彼女は恰も滑稽な物を見たかの如く笑い出し心がざわつく。それ以上は聞きたくは無い。
「貴方の本当の名前は、オスカー・ウィーリ・ディーテ。そうでしょ?」
目を見開く。全てが筒抜けだったことを知り、何も口に出せなかった。
まるで心の身包みを全て剥がされた様な気分であった。
「良いお父様ね……。大変酒に酔っていらした様だけど、貴方の名前と共に『国の為に人を殺した英雄だ』って自慢する様に叫んでたわ。あまりにも迷惑だったから注意したら殴られたのよ。此処に旅行にでも来てたのかしら。……まぁ、もう貴方が姿を見る事は無いでしょうけど」
衝撃だった。まさか自分の父親と面識があったなんて思わなかったからだ。エヴィの元で奉公し始めてから関わりは殆ど無かったというのに如何して……
「今頃、完全な骨となった貴方のお父様の屍は、燃え盛る私の家で共に灰になってるでしょうねぇ……」
狂っている。
矢張り、彼女の行動は最早人間の為せる業では無い。
人を手に掛けているというのに、動揺もせず平然と話しているのも恐ろしい。
私が言えた事では無いが、彼女は人を殺す事に抵抗が無い様に見えた。
「これだけ大事にしてしまうと私も危ういわ。そろそろこの悲劇も仕舞いにしましょう?」
そう言って彼女は舞子の首に当てたナイフに力を入れた。
首からの出血により生気を失い青白くなった舞子の肌に、銀色に光るナイフが沈んで行く。
「やめろと……言っているだろう……!」
「……少し黙っててくれないかしら? 同じ言葉は聞き飽きたわ。それとも……早くお父様の所へ行きたいの?」
興が冷めたとでも言わんばかりに、更に首に刃を食い込ませていく。此処まで自分が無力だとは思わなかった。
彼女の持つ刃が舞子の肉や骨を断つのも時間の問題だろう。
もう助からないかも知れないと分かっていても、抵抗する様に這って舞子の元へ向かう。
其処迄の道程は、酷く辛く永いものであった。
「何故貴女は……! 平然と妹の命を奪おうとするんだ……!」
「貴方こそ幾ら戦場とはいえ、何故あんなに人を殺せたの?」
反論出来なかった。
「……何故其の事を知っている」
「あら図星なの? やっぱり貴方人殺しだったのね! ……昔貴方の父親を名乗る人にお世話になったのよ。貴方の母国では酒で酔っていたら人に手を上げても咎められないのね。あの日貴方の名前を聞いてピンと来たわ」
意味が分からない。
父の事を知っているのか……?
「貴方……ウィーリ・サミュエルズ・ディーテ……って名前でしたっけ? ……うふふ、とんだ大嘘つきじゃない!」
彼女は恰も滑稽な物を見たかの如く笑い出し心がざわつく。それ以上は聞きたくは無い。
「貴方の本当の名前は、オスカー・ウィーリ・ディーテ。そうでしょ?」
目を見開く。全てが筒抜けだったことを知り、何も口に出せなかった。
まるで心の身包みを全て剥がされた様な気分であった。
「良いお父様ね……。大変酒に酔っていらした様だけど、貴方の名前と共に『国の為に人を殺した英雄だ』って自慢する様に叫んでたわ。あまりにも迷惑だったから注意したら殴られたのよ。此処に旅行にでも来てたのかしら。……まぁ、もう貴方が姿を見る事は無いでしょうけど」
衝撃だった。まさか自分の父親と面識があったなんて思わなかったからだ。エヴィの元で奉公し始めてから関わりは殆ど無かったというのに如何して……
「今頃、完全な骨となった貴方のお父様の屍は、燃え盛る私の家で共に灰になってるでしょうねぇ……」
狂っている。
矢張り、彼女の行動は最早人間の為せる業では無い。
人を手に掛けているというのに、動揺もせず平然と話しているのも恐ろしい。
私が言えた事では無いが、彼女は人を殺す事に抵抗が無い様に見えた。
「これだけ大事にしてしまうと私も危ういわ。そろそろこの悲劇も仕舞いにしましょう?」
そう言って彼女は舞子の首に当てたナイフに力を入れた。
首からの出血により生気を失い青白くなった舞子の肌に、銀色に光るナイフが沈んで行く。
「やめろと……言っているだろう……!」
「……少し黙っててくれないかしら? 同じ言葉は聞き飽きたわ。それとも……早くお父様の所へ行きたいの?」
興が冷めたとでも言わんばかりに、更に首に刃を食い込ませていく。此処まで自分が無力だとは思わなかった。
彼女の持つ刃が舞子の肉や骨を断つのも時間の問題だろう。
もう助からないかも知れないと分かっていても、抵抗する様に這って舞子の元へ向かう。
其処迄の道程は、酷く辛く永いものであった。
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