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第弐章──過去と真実──
死せる君と。最終話
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然し、敢え無く舞子の細い首は断ち切られ、転がった。
とめどなく切断面から血を流す舞子の首を鳴子は抱き抱え
「これでもう離れないね」
と頭を撫でる。頭が真っ白になった。
如何して舞子が殺されなければならないのか、何も悪いことはしていないでは無いか。
目の前が涙で滲んで見えなくなった。大切な人を目の前で喪ったというのに涙を流す事しか出来ない自分と、最愛の妹を自身の独り善がりによって手に掛けた彼女に心底腹が立った。
やっとの思いで舞子の元まで辿り着いたが、身体はもう人の温かさは無く、心臓の鼓動すら聞こえて来る事は無かった。
体力を振り絞って身体を起こすと、鮮血を辺りに撒き散らし真っ青になった亡骸を膝の上に乗せ、血で濡れるのも厭わず強く抱擁した。
「……目の前にいたのに助けられなくて本当にすまない。私の役目は……もう終わったみたいだ。最期まで私は何も守る事は出来なかったな」
顔を隠していた女から奪い取ったナイフで力一杯自分の喉仏を突くと、舞子を抱き抱えた儘地面に倒れた。
途切れ行く意識の中、舞子との日々が頭を駆け巡る。
気付けば、舞子と出会った時から再びエヴィと過ごした様な気分であった。性格もよく似ており、不器用な所も直ぐ熱を出す所も元気良く話す姿も同じだった。
舞子は自殺未遂を繰り返し廃人同然だった私を救う為に現れた、エヴィの生まれ変わりだったのかもしれないと今では思う。
それなのに二度に渡り助けられずに死んでしまった。
目の前の大事な人を救えもしない様な人間が、生きる意味を見つけるなど、最初から間違っていたのだ。
本当に私という人間は、最期まで如何しようも無い憐れな奴だった。
『もっと早く死ぬべきだったのに何故今まで生きていたのだろう』
唐突に或る作品の一節が脳内で繰り返された。
作者はこの話を如何思いながら書いていたのかは分からないが、少なくとも私の様な者が計り知れるものでは無いだろう。
私は正に自分の存在意義とやらが分からなくなっていた。
涙で霞んでいるのか、死に際で視力が落ちているのか分からないが、天を仰いでも何も見えない。
最期まで惨めな人生だった。
過去の柵に囚われていた私も、普通の人間として生きて行けると思っていた。
恋した相手と結ばれ、家庭を築き、家族に看取られながら死んで行く。
そんな考えは、幸せを夢見た者の唯の妄想でしかないと、惨状を目の前にして感じた。
人を殺め、他者の人間関係をも破壊する事しか出来なかった男が天に還るなど、烏滸がましいにも程があったのだ。
もう逢う事も無い最愛の人に永遠の別れを告げ、次第次第に眼を閉じた。
──完──
とめどなく切断面から血を流す舞子の首を鳴子は抱き抱え
「これでもう離れないね」
と頭を撫でる。頭が真っ白になった。
如何して舞子が殺されなければならないのか、何も悪いことはしていないでは無いか。
目の前が涙で滲んで見えなくなった。大切な人を目の前で喪ったというのに涙を流す事しか出来ない自分と、最愛の妹を自身の独り善がりによって手に掛けた彼女に心底腹が立った。
やっとの思いで舞子の元まで辿り着いたが、身体はもう人の温かさは無く、心臓の鼓動すら聞こえて来る事は無かった。
体力を振り絞って身体を起こすと、鮮血を辺りに撒き散らし真っ青になった亡骸を膝の上に乗せ、血で濡れるのも厭わず強く抱擁した。
「……目の前にいたのに助けられなくて本当にすまない。私の役目は……もう終わったみたいだ。最期まで私は何も守る事は出来なかったな」
顔を隠していた女から奪い取ったナイフで力一杯自分の喉仏を突くと、舞子を抱き抱えた儘地面に倒れた。
途切れ行く意識の中、舞子との日々が頭を駆け巡る。
気付けば、舞子と出会った時から再びエヴィと過ごした様な気分であった。性格もよく似ており、不器用な所も直ぐ熱を出す所も元気良く話す姿も同じだった。
舞子は自殺未遂を繰り返し廃人同然だった私を救う為に現れた、エヴィの生まれ変わりだったのかもしれないと今では思う。
それなのに二度に渡り助けられずに死んでしまった。
目の前の大事な人を救えもしない様な人間が、生きる意味を見つけるなど、最初から間違っていたのだ。
本当に私という人間は、最期まで如何しようも無い憐れな奴だった。
『もっと早く死ぬべきだったのに何故今まで生きていたのだろう』
唐突に或る作品の一節が脳内で繰り返された。
作者はこの話を如何思いながら書いていたのかは分からないが、少なくとも私の様な者が計り知れるものでは無いだろう。
私は正に自分の存在意義とやらが分からなくなっていた。
涙で霞んでいるのか、死に際で視力が落ちているのか分からないが、天を仰いでも何も見えない。
最期まで惨めな人生だった。
過去の柵に囚われていた私も、普通の人間として生きて行けると思っていた。
恋した相手と結ばれ、家庭を築き、家族に看取られながら死んで行く。
そんな考えは、幸せを夢見た者の唯の妄想でしかないと、惨状を目の前にして感じた。
人を殺め、他者の人間関係をも破壊する事しか出来なかった男が天に還るなど、烏滸がましいにも程があったのだ。
もう逢う事も無い最愛の人に永遠の別れを告げ、次第次第に眼を閉じた。
──完──
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