異世界行っても喘息は治らなかった。

万雪 マリア

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ミッドガルド国からの出立

三十一話・小さなりんご

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 休み時間になっても、ミカ様に言われた言葉がぐるぐると頭をめぐっていた。
 わからない。なぜ神様は、この世界を作ったのだろう。こんな、ひとりひとりに役目がある、不思議な世界を。
 やがて次の授業も終わった。内容は頭に残っていない。
 冷たいものが飲みたくて、りんごジュースをパラノイア・ワールドで生成する。
 しかし、おかしい。味がしない。ちょっと甘味が強めのりんごジュースは、簡単に想像できた。でも、舌先が麻痺したように味がしない。
 前世では、こんな事一度もなかった。大好物のりんごの味が、全く感じられないなんて。
 喉を通る感覚も、さわやかなりんごの香りも、全くしないのだ。
 不調だろうか。最初も最初、りんごのコンポートを生成した時はちゃんとできたのだから、「りんごなんてなかった」なんてオチではないはずだ。
 じゃあ、なんで?
 そう考えているうちに、次の授業が始まる。
 あわててジュースを隠して、講義に取り組む。



 講義の内容は、魔物と精霊について。
 精霊は、単体魔子の塊__と言われると混乱するかもしれない。ミシュで例えると、ミシュは大量の「水魔子」だけでできた塊、という事だ。しかしいまだに謎は多く、単体魔子がどうのこうのも、言ってしまえば仮説の一つに過ぎない。
 魔物は、さまざまな要因で、混沌魔子が体を構成する魔子の大半をしめるようになった元生物。生まれつき魔物だったのは、魔人と呼ばれる。
 どちらも物語でしか出ない種族だと言われているが__私、精霊みちゃったから。しかも精霊王を。
 だから、多分、魔人もいるんだろうな。
 __魔王って、魔人なのかな?
 と考えているうちに、講義は終わった。
 そして、気づいたのだ。


 __パラノイア・ワールドを使えば、魔王が今どこで何しているか見えるんじゃね?



 そうと決まれば善は急げ。トイレっぽいとこにかけこんで、なんとなく水晶っぽいものを作り出して、のぞき込む。
 まずは__嫌な予感しかしないが__ステータスから。




 【魔王】 118歳? 女? レベル257
 詳細ステータス 本人が望んでいるため未開示
 使用可能魔法
 本人が望んでいるため未開示
 使用可能特技
 本人が望んでいるため未開示
 称号
 【魔王】
 説明
 本人が望んでいるため未開示



 はてなマークばっかりだ。思ってたよりひどかった。
 それに、なんだよ、この「本人が望んているため未開示」って。パラノイア・ワールドはいつからこんなになったんだよ。
 次は容姿。
 真っ黒なストレートヘアを腰まで伸ばし、それを上で一つに結んでいる。瞳もやはり黒いが、肌は病んでいるように生白い。顔立ちは、誰もの目を惹きつけるような、華のある美人ではないが、少なくとも嫌悪感を表すタイプのものではなく、電車で隣に座られていたら、同性だとしてもラッキーと思うぐらいの、中性的な美人だ。
 服装は、体系を覆い隠すような大きいサイズの黒いローブを着ている。そのため、女? とついていることからも、性別はわからない。
 ぱっと見でわかるのはこんな所だ。
 でも、結局大した収穫はない。肩を落とした。
 そしてトイレ的なとこから出て、授業に戻った。




「あれ、エッちゃん、どこ行ってたの? うにゃが探してたよ」
 と言われ、一瞬「うにゃって誰だっけ」となる。でも、すぐ「そういえばウルナって子がいたな」と思い出す。たしか、魔法騎士コースの、ミカ様の妹(暫定)だったはず。
 接点がないどころか嫌われかけてるはずなのに、何の用だろうか。
 疑問に思いながらも、とりあえず、うにゃ__こと、ウルナさんを探す事にしよう。




 いた。
 わりとすぐそこにいた。
 具体的には、さっきまで入ってたトイレっぽいところにいた。
「あ」
 私を視界に入れると、こちらに向かって走ってくる。
「エルノアさん」
 顔には、若干の疲労が浮かんでいる。私を探して走り回ったんだろう。そうかんがえると、入れ違いになったなんて、ちょっとかわいそうだ。
「すいません、少し話があるんですが」
「なんですか」
 いったん息を整えると、うにゃ__こと、ウルナさんはこう言った。
「神殿の宝飾品を盗んだ、との噂が、底辺コース……いえ、魔術具制作コースであがっています。早めに払拭された方がよろしいかと」
 ……んー?
「ちょっとその話、詳しくお願いします」



 話によると、私が、神殿にある神器である、「四神果」と呼ばれる宝石を盗んだという噂が立っているらしい。
 マンダリンガーネットの蜜柑。
 アメジストの葡萄。
 ヘソナイトガーネットの林檎。
 ペリドットの梨。
 この四つだ。
 ……身に覚えがなさ過ぎて困るんだけど。
 にしても神殿? 魔術具制作? もしかして、懐かしのイザベラだろうか?
「何はともあれ、貴方は公爵家の養女です。いざとなれば、身分を笠に着る事も、大切ですよ」
 それだけ言うと、うにゃ__じゃなくてウルナさんは去っていった。
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