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4.スイート・キング2

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 大みそかの日の朝。
 遅くに起きたら、歌穂から、LINEがきていた。
 『お正月が終わってからでいいから、会いたい』って。
 心配になって、すぐに電話をした。昨日の電話は、歌穂の方から切られてしまったような感じだったから。大丈夫なんだろうかって、気になっていた。

「歌穂? 大丈夫?」
「うん」
「LINE、見たよ。今からでも、行けるし。来てもらっても、いいし」
「それは、悪いよ」
「ううん。……困ってるの?」
「ちがう。あー、わかんない。あたし、大学に行く。受かれば、だけど」
「えぇええええー?」
「そういう反応になるよね。やっぱり」
「どうして、急に? やりたいことがあるって、大学だったの? それなら、言ってくれれば。少しでも、手伝えることが……」
「ちがう、ちがう。昨日までは、考えたこともなかった」
「じゃあ、どうして?」
「沢野さんが……。行けば、って。お金、出してくれるって」
「えっ、えっ? よ、よかったね……」
「よくないよ。準備なしで受かる大学なんて、あんの?」
「一月半ばまで、受けつけてるところがあるはず……。今日が三十一日だから、あと……二週間くらいは、準備期間が」
「なんで、乗り気なの……。受かるわけ、ないじゃん」
「ばかなこと、いわないのっ。ちゃんと選べば、受かるんだから……」
「祐奈。一緒に、考えてくれる?」
「もちろん! ねえ、歌穂。今日から、うちに……。うちは、まずいか……。
 わたしが、そっちに行こうか?」
「いいの?」
「うん。あ、でも。礼慈さんに相談は、したい」
「それは、そうでしょ。急すぎるもん」
「待っててくれる? 返事は、今日中にする」
「いいよ。急がなくて」
「ううん。大事なことだから……」
「わかった。ありがとう」

 趣味の部屋まで、走っていった。
 がらっと、引き戸を開ける。
 礼慈さんは、こたつのテーブルの上で、ティラノサウルスとトリケラトプスを戦わせていた。わからない。戦わせてるんじゃなくて、遊ばせてるだけかもしれない。
 どっちにしても、いらいらすることに、変わりはなかった。
「もう、もうっ。大変な時、なのにー」
「えっ? 何が?」
「わたし、出かけます! ……今日は、帰れないです」
 礼慈さんの顔色が、さっと変わって、なにか、とんでもない失敗をしたような気がした。
「ちがいます……。言い方が、おかしくなっちゃった」
 礼慈さんの横に膝をついて、座った。
 わたしが、勝手にパニックになってるだけ。ティラノサウルスとトリケラトプスは、なんにも悪くなかった。もちろん、礼慈さんも。
「どこに行くの? 俺のせい?」
「歌穂のところです。ぜんぜん、あなたの問題とかじゃ、ないです」
「……そうなの?」
「そうです」
「行くのは構わないし、送るけど。もしかして、紘一が。何か」
「それも、ちがいます。あぁ、ちがわなかった」
「何があったの?」
「歌穂、大学に行くって! 沢野さんの、お金で!」
「はあ?」
「わけがわからないですよね。わたしも、わかりません。
 ……あっ。言っちゃ、いけなかったかも。忘れて。忘れてください」
「いや。無理だろ」
「ですよねー……」
「俺も行くよ。むしろ、ここに来てもらった方が……」
「いいんですか? でも、だめです。
 時間がかかって、遅くなったら、歌穂に、泊まってもらうことになるし……。
 わたしと歌穂がいて、そこに礼慈さんがいるって。すごい、へんです」
「変かな」
「へんですよ! わたしたち、あなたの……あなたのっ、いっ……言えないー」
「むしろ、はっきり言ってほしかった。そこは」
「へんたいっ! えっち!」
「否定はしない。……で? どうするの。歌穂さんの家まで、送ればいい?」
「歌穂と電話して、決めます……」
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