バージン・クイーン -強面のイケメンのところに、性欲解消目的で呼ばれるデリヘル嬢の話-

福守りん

文字の大きさ
168 / 206
15.スイート・キング7

2-3

しおりを挟む
 部屋に帰った時には、午後六時を過ぎていた。
 急いで、ごはんの支度をしないと……。
 カフェで、のんびりしすぎたかもしれない。

 一昨日……。礼慈さんから、礼慈さんが好きだった人の話を聞いた。
 みどりさんのことを聞かせてもらって、よかったと思ってる。
 わたしが傷ついていたから、わたしを選んでくれたんだって、わかったから。
 歌穂だって、消えない痛みを抱えてる。でも、それを、人からわかるようには表さない。だから、礼慈さんには、わからなかった。歌穂が抱えてるものが、見えなかった。
 あの時のわたしは、ぼろぼろだったんだと思う。
 初対面の礼慈さんに、あぶないって、思わせてしまうくらいに。
 礼慈さんは、わたしのことをほうっておけなかった。かわいそうだと思ってくれたんだと思う。
 死にかけてるわたしを、礼慈さんが引き戻してくれた。そのことに、感謝しよう……。
 いつか、離れてしまうことがあるとしても。あたたかい気持ちだけ、持っていたい。
 過去の礼慈さんじゃなくて、今の礼慈さんと向きあっていたい。
 そうしていれば、もしかしたら……。
 礼慈さんと、結婚できるかもしれない。
 思った瞬間に、ぞくっとした。
 わたし、どうかしてる。自分がこわい……。
 礼慈さんを刺した人みたいに、なってない?
 思いこまないように、しないと。
 礼慈さんの、本当の気持ちを、ちゃんと感じとっていたい。わたしの、勝手な願望じゃなくて……。

「ただいま」
「あっ……。おかえりなさい」
 礼慈さんが、帰ってきていた。
 わたしが気づいた時には、もうリビングにいた。スーツから、ルームウェアに着がえてる。
 ガスの火を止めて、手を洗った。
 礼慈さんに近づいて、抱きついたら、ぎゅっとしてくれた。
 そのまま抱き上げられて、「きゃっ」と声が出た。
「高い……」
「ごめん」
「下ろしてください」
 足が床についた。礼慈さんが屈みこんできて、ふれるだけのキスをしてくれた。
「会いたかった」
 わたしに笑いかけてくる。きれいな顔に、見とれてしまった。
「祐奈?」
「あっ、はい。夕ごはん、できてます」
「ありがとう」
「ちがいます。うそついちゃった……。
 まだ、もうちょっと、かかるの」
「うん。分かった」
 礼慈さんの笑顔は、かわいい。ぽうっとなって、見つめていた。
「祐奈。魂が抜けかけてる」
「たいへん。戻してください」
「……どうやって?」

 夕ごはんができた。お皿によそって、テーブルに出そうとした時に、白い箱に気づいた。テーブルの上に、ちょこんとのってる。
 見覚えのある箱だった。
「礼慈さん。これ……」
「ケーキ」
「えっ」
「だめ?」
「だめじゃないけど。食べましたよね? 一昨日」
「レアチーズとチョコは、食べてない」
「ああ……」
 歌穂と沢野さんに、先に選んでもらったから?
「えー。えー……。うれしいです。ありがとう……」
「うん。デザートにしよう」
 白い箱を両手で持って、礼慈さんが歩いていく。冷蔵庫にしまってくれた。
「なあ。祐奈」
「うん?」
「うちには、冷蔵庫が二つあるけど。そろそろ、一つにしない?」
「……いいの?」
「うん」
 わたしが引っ越してきた時に、それまで使っていた冷蔵庫を持ってきた。
 最初の頃は、片方をわたしが、もう片方を礼慈さんが使うようにしていた。
 それから、何ヶ月か暮らしているうちに、料理のための食材、調味料、スパイスはわたしの方に入れて、飲みものとデザートは礼慈さんの方に入れるようになっていった。
「急いで、買わないといけないの? 邪魔ですか?」
「そこまでじゃないけど。スペースがもったいない気がする」
「ですよね……」
「二つにしたかった理由は、小さいからだったよな」
「はい。礼慈さんのも、わたしのも、単身者用……ですよね。
 二人で使うには、足りないかなって、思って」
「そうだよな。必要最低限の機能しか、ついてないし。
 今は、もっと高機能なものがあるから。週末に、買いに行こう」
「それって……。それって、わたしへの、プレゼントですか?」
「うん。だから、君が選んで」
「ちょっと、飛び上がってもいいですか?」
「いいけど。なんで?」
「天にものぼる気持ちを、わたしの体で実感したいです」
「さっき、したよ。『高い』って言われた」
「そうでした……」
「せっかくだから、飛んでみせて」
「はいっ」
 思いっきり、飛び上がった。
 十センチくらいしか、上がれなかった。……ううん。十センチも、上がれなかったかもしれない。
 礼慈さんが、ぶふっとふきだした。
「ひどい。傷つきました」
「ごめん。笑ったら、お腹が空いた。
 君が作ってくれたごはんを食べよう」
「はあい」

 ごはんを食べて、お皿を洗ってから、テーブルに戻った。
 スマートフォンで、冷蔵庫を検索した。とりあえず、画像で。
「冷蔵庫?」
「そうです。だって、ちゃんと決めないと……」
 せっかく、礼慈さんが買ってくれるんだから。週末までに、冷蔵庫について、全力で調べるつもりだった。
「気合いが入ってるな。どんな気分?」
「わくわくしてます」
「そうか」
「予算のこととか、相談してもいい?」
「いいよ。いつでも」
 礼慈さんが、わたしを見つめる。見つめかえした。
 ふっと視線がずれた。礼慈さんの方が、ずらした。
「……礼慈さん?」
「君が好きだよ」
 ひとりごとみたいに、ぼそっと言った。
 赤くなった頬が、かわいかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...