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1.異世界から飛ばされてきたのでいす
いせとば、ミエちゃんと出会う(3)
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ミエちゃんの話をよく聞いていったら、こんなことがわかった。
ニポン村の祠をお参りしていたら、気分が悪くなって倒れてしまった。目が覚めたら、ここにいた。来た時は、まっ暗だった。
明るくなってから、見かけた人に話しかけたけれど、誰とも言葉が通じなかった。
この世界に飛ばされてきた気がする。こころぼそい。
お手洗いに行きたい。
「トイレか! それは、急いだ方がええな」
ミエちゃんの手を引いて、あわててトイレを探した。
「そんでね、パンツを下ろして……。って、わかるよね?」
「すそよけのことですかい?」
「すそよけ?」
「パンツ……」
「う、うーん? ごめん。わからんわ。……ええと、おしっこしたら、手を洗って、出ておいでね。鍵のかけ方はわかる?」
「わかります」
「じゃあね。外で、待っとるから」
トイレの外には、困ったような顔をした伊勢くんがいた。
「どう思う? ミエちゃんのこと……」
「うーん……。おれの正直な感想は、『いせかいてんせい』っぽいなあー、やな」
「いせかいてんせい?」
「『異世界』と、『転生』な」
「あー。『異世界転生』。そういう言葉があるん?」
「言葉っちゅうか、ジャンルやな。違う世界へ飛ばされたり、違う世界から飛ばされたり……」
「それにしては、日本語うますぎとちゃう?」
「せやな」
「あと、言葉がぜんぜん通じんかったっていうけど。あたしたち、ちゃんと会話できとるよね?」
伊勢くんの返事はなかった。遠くを見るような目をして、なにか考えているみたいだった。
「伊勢くん?」
「あーっ。そうか!」
「うん?」
「伊勢は観光地や。外国の人がようけおるやろ。ミエちゃんが日本語で話しかけても、外国の人には通じんかったんや!」
「なーる。日本語がわかる人に話しかけへんかったから、ってことやね」
「ほんまの迷子かもしれんし、ゆっくりお参りしよか。その間に、保護者の人がミエちゃんを見つけるかもわからん」
「そやね」
トイレから出てきたミエちゃんと合流して、正宮に向かった。
ミエちゃんは、きょろきょろとまわりを見回している。
「ニポン村にある、お社さんに似てますねい……」
「そっちにも、同じようなもんがある?」
「ありますねい」
伊勢くんの質問に、まじめな顔でうなずく。嘘をついているようには見えなかった。
「ここからは、静かにお参りしようか」
「せやな」
「あい」
長い階段をのぼって、一人ずつお参りをした。
「厳かやったね」
「な。ほんまやな」
「伊勢くんは、伊勢にはしょっちゅう来とるん?」
「どやろな。年に数回くらい……やな。おかんがおとんとデートする時に、よう伊勢に行ってたいう話を、こどものころから聞かされててん。
家族で来る機会は、多かったかもな」
内宮の中をゆっくり歩きまわってから、伊勢神宮を出ることになった。
宇治橋を渡って、鳥居をくぐる。駐車場に止まってる観光バスを見て、ミエちゃんが「うわーっ」と声を上げた。
「鉄のイノシシがいるですよい!」
「おかんが持っとる、昔の漫画で見た言葉や!」
「もっと近くで見たいですねいー」
「やめときなさい。ぶつかったら、死んでまう」
「えっ。おそろしいですねい……」
「おかげ横町で、ごはんにしよか」
「うん。ええよ。
ミエちゃん。おなかすいとる? お昼ごはん、食べようか」
「いいんですかい?」
「うん」
「ふわあー。ありがたいですねいー」
風がでてきた。白い雲が、すごい早さで動いていく。
ミエちゃんが、くしゅんとくしゃみをした。
「寒そうやな。上着、買うたるわ」
「ええの?」
「うん。ジャンパーみたいなん、あるかな」
雑貨屋さんで、こども用のはんてんを買った。色や柄は、ミエちゃんが自分で選んだ。
お昼は、伊勢くんが探してくれた定食屋さんで食べた。
その後は赤福の本店に行って、三人分の赤福を頼んだ。
「これ、できたて?」
「やと思うで」
「う、うみゃーい! うみゃい。うみゃいぃー」
「泣いとるわ。大丈夫?」
「三重県人としては、うれしいことやな」
伊勢くんは、にこにこしている。
それから、伊勢くんは家族に、あたしは美夏ちゃんに、お土産の赤福を買った。
「ちょっと、ええかな。ついてきて」
「うん?」
あたしたちをうながした伊勢くんが、伊勢神宮の方に向かって歩きだした。
どこまで戻るのかなと思いながらついていった。伊勢くんが足を止めたのは、参宮案内所の前だった。
「迷子の届けって、出てますか?」
「いいえ。今日は、ありませんね。そちらのお子さん?」
「いや。この子は、ちゃいます。いとこの子です」
「なにか、お心当たりが?」
「この子くらいの年の外国の女の子が、五十鈴川の御手洗場のところにおって。一人で泣いとったんです。おれらについてきたんで、迷子なんかなと思うて、気にしとったんですが。途中で見失ってしまいました」
「そうでしたか。わざわざ、ありがとうございます」
「これ、おれの電話番号です。もし、その子を探しとる人がいて、見つけられへんようなことがあったら、どういう状況やったかくらいは、お話できると思います」
手作りの名刺を案内所のスタッフの人に渡すと、あたしに「行こう」と言った。
ニポン村の祠をお参りしていたら、気分が悪くなって倒れてしまった。目が覚めたら、ここにいた。来た時は、まっ暗だった。
明るくなってから、見かけた人に話しかけたけれど、誰とも言葉が通じなかった。
この世界に飛ばされてきた気がする。こころぼそい。
お手洗いに行きたい。
「トイレか! それは、急いだ方がええな」
ミエちゃんの手を引いて、あわててトイレを探した。
「そんでね、パンツを下ろして……。って、わかるよね?」
「すそよけのことですかい?」
「すそよけ?」
「パンツ……」
「う、うーん? ごめん。わからんわ。……ええと、おしっこしたら、手を洗って、出ておいでね。鍵のかけ方はわかる?」
「わかります」
「じゃあね。外で、待っとるから」
トイレの外には、困ったような顔をした伊勢くんがいた。
「どう思う? ミエちゃんのこと……」
「うーん……。おれの正直な感想は、『いせかいてんせい』っぽいなあー、やな」
「いせかいてんせい?」
「『異世界』と、『転生』な」
「あー。『異世界転生』。そういう言葉があるん?」
「言葉っちゅうか、ジャンルやな。違う世界へ飛ばされたり、違う世界から飛ばされたり……」
「それにしては、日本語うますぎとちゃう?」
「せやな」
「あと、言葉がぜんぜん通じんかったっていうけど。あたしたち、ちゃんと会話できとるよね?」
伊勢くんの返事はなかった。遠くを見るような目をして、なにか考えているみたいだった。
「伊勢くん?」
「あーっ。そうか!」
「うん?」
「伊勢は観光地や。外国の人がようけおるやろ。ミエちゃんが日本語で話しかけても、外国の人には通じんかったんや!」
「なーる。日本語がわかる人に話しかけへんかったから、ってことやね」
「ほんまの迷子かもしれんし、ゆっくりお参りしよか。その間に、保護者の人がミエちゃんを見つけるかもわからん」
「そやね」
トイレから出てきたミエちゃんと合流して、正宮に向かった。
ミエちゃんは、きょろきょろとまわりを見回している。
「ニポン村にある、お社さんに似てますねい……」
「そっちにも、同じようなもんがある?」
「ありますねい」
伊勢くんの質問に、まじめな顔でうなずく。嘘をついているようには見えなかった。
「ここからは、静かにお参りしようか」
「せやな」
「あい」
長い階段をのぼって、一人ずつお参りをした。
「厳かやったね」
「な。ほんまやな」
「伊勢くんは、伊勢にはしょっちゅう来とるん?」
「どやろな。年に数回くらい……やな。おかんがおとんとデートする時に、よう伊勢に行ってたいう話を、こどものころから聞かされててん。
家族で来る機会は、多かったかもな」
内宮の中をゆっくり歩きまわってから、伊勢神宮を出ることになった。
宇治橋を渡って、鳥居をくぐる。駐車場に止まってる観光バスを見て、ミエちゃんが「うわーっ」と声を上げた。
「鉄のイノシシがいるですよい!」
「おかんが持っとる、昔の漫画で見た言葉や!」
「もっと近くで見たいですねいー」
「やめときなさい。ぶつかったら、死んでまう」
「えっ。おそろしいですねい……」
「おかげ横町で、ごはんにしよか」
「うん。ええよ。
ミエちゃん。おなかすいとる? お昼ごはん、食べようか」
「いいんですかい?」
「うん」
「ふわあー。ありがたいですねいー」
風がでてきた。白い雲が、すごい早さで動いていく。
ミエちゃんが、くしゅんとくしゃみをした。
「寒そうやな。上着、買うたるわ」
「ええの?」
「うん。ジャンパーみたいなん、あるかな」
雑貨屋さんで、こども用のはんてんを買った。色や柄は、ミエちゃんが自分で選んだ。
お昼は、伊勢くんが探してくれた定食屋さんで食べた。
その後は赤福の本店に行って、三人分の赤福を頼んだ。
「これ、できたて?」
「やと思うで」
「う、うみゃーい! うみゃい。うみゃいぃー」
「泣いとるわ。大丈夫?」
「三重県人としては、うれしいことやな」
伊勢くんは、にこにこしている。
それから、伊勢くんは家族に、あたしは美夏ちゃんに、お土産の赤福を買った。
「ちょっと、ええかな。ついてきて」
「うん?」
あたしたちをうながした伊勢くんが、伊勢神宮の方に向かって歩きだした。
どこまで戻るのかなと思いながらついていった。伊勢くんが足を止めたのは、参宮案内所の前だった。
「迷子の届けって、出てますか?」
「いいえ。今日は、ありませんね。そちらのお子さん?」
「いや。この子は、ちゃいます。いとこの子です」
「なにか、お心当たりが?」
「この子くらいの年の外国の女の子が、五十鈴川の御手洗場のところにおって。一人で泣いとったんです。おれらについてきたんで、迷子なんかなと思うて、気にしとったんですが。途中で見失ってしまいました」
「そうでしたか。わざわざ、ありがとうございます」
「これ、おれの電話番号です。もし、その子を探しとる人がいて、見つけられへんようなことがあったら、どういう状況やったかくらいは、お話できると思います」
手作りの名刺を案内所のスタッフの人に渡すと、あたしに「行こう」と言った。
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