デキナイ男と病気の女

Yachiyo

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12 鈴木隼人

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弥生の家への帰り道

見慣れた景色がにじんで見える

歩く度に何とも言えない悔しさと悲しみがこみ上げてきてそれが増す

(こんなはずじゃなかったのに…。何でよ…何でガンになんかなっちゃったの…)

健康な葵(ひとみ)がやけに眩しい。ポジティブだった自分が懐かしい

とぼとぼとやっとの思いで家にたどり着く

ゆっくりと玄関のドアを開けると部屋に入ってキッチンに行く

薬を一気に飲み込むとインスタント珈琲を入れる

いつものベンチチェアに座る。遠くを見つめながら珈琲を飲む

どこかで和茂からの連絡を待つ弥生

携帯をチラチラみるが連絡はない

「まーいいわ。あんなオヤジ!!」

弥生は自分に言い聞かせる

すると携帯がなったので

「和茂さん!?」

一瞬明るくなる弥生

携帯を覗くと意外な人からの通知が目に入ってきた

【もしかして、弥生さんですか?】

の文字

「隼人(はやと)君?」


鈴木隼人(すずきはやと)。23歳(当時)

7年前

弥生、35歳。離婚して自分を変える為の一人旅

行き先は大好きなロサンゼルス。そこで偶然出会った、LAの大学に通う日本人留学生だった

出会ったその日に関係を持つと滞在中の予定が全く決まっていなかった弥生をボロボロのキャデラックで「ビバリーヒルズ」「メルローズ」「サンタモニカ」に「スラム街」までくまなく案内してくれた隼人

普通の女なら体目当ての行動だと疑るのだが弥生は違っていた

会ったその日に関係を持つ事も弥生にとっては当然の事だった

全く無防備な女である

弥生もただの火遊びのつもりだった

そんな弥生でもまさかあんな展開になるとは思ってもみなかった

滞在3日目の夜

グリフィス天文台

弥生が夜景を眺めていると後ろに立っていた隼人が弥生を引き寄せキスをする

弥生は振り向き、隼人の背中をギュッと抱きしめる

2人は恋に落ちていた

抱擁しあったあと隼人が自分のボタンダウンのシャツの胸ポケットから万年筆を取り出して弥生の前にそれをサッとちらつかせた

「何?それ?」
「僕が大学に合格した時に祖母からもらったお祝いですよ」
「格好良いわね?」
「あげますよ」
「えっ?そんな大切な物もらっていいの?」
「弥生さんっ。一生僕の宝物になって下さい」

会って3日目で受けた隼人からのプロポーズ

人生で2回目のプロポーズだった

弥生は悩んだ挙げ句、断腸の思いでそれを断り帰国

成田に着くと隼人からのメールが携帯に入る

【このメールを見ていると言う事は無事に日本に着いたという事ですね?授業が早く終わったので空港迄送ろうとHotelまで迎えに行ったのですが弥生さんはもうチェックアウトの後でした

*追伸*僕の車は弥生さんが帰ったあと、動かなくなりました。まるで弥生さんを案内する為に動いていたみたいです】

それ以来の隼人からの連絡だった

インスタで弥生を見付けた隼人が連絡してきたのだ

実は弥生がインスタを始めたのはこの隼人を見つける為だったのだ

【今電話番号教えます】

弥生が返信すると弥生の携帯が鳴った

「弥生さん?」
「隼人君?」
「今、どこで何してるの?」
「日本で天文学者やってます」

隼人と再会するのに時間はかからなかった

ギクシャクしていた和茂との関係も隼人と会っている間は忘れられた

丁度良い事に和茂からもあれ以来連絡はなかった

六本木ヒルズのオープンカフェ

「隼人君、今幾つになった?」
「30です」
「隼人君、結婚は?」
「独身です」

2人は六本木プリンスに消えて行った

年下。イケメン。誠実な男。隼人は葵(ひとみ)の理想の条件とおおよそ合致する

弥生は何だか葵(ひとみ)に対する優越感に浸り浮かれていた

隼人と再会を果たし2ヶ月が経った梅雨時。弥生の携帯が鳴る

「もしもし?弥生ちゃん?」
「和茂さん」

弥生は和茂に対して、罪悪感で一杯だった

「今から家来ない?旨い肉有るんだ」

和茂が言うので弥生は誘われるがままに和茂の家に出向いた

和茂のマンション

ドアが開くと

「ようっ」

和茂が出てきた

何故か心地良い懐かしさを感じる弥生。

「久しぶりね。足治ったの?」
「あぁ、治ったよ。有り難う」

和茂が言って弥生もリビングに上がり込む

テーブルの椅子に座ると弥生の目に衝撃的な物が飛び込んできた

万年筆

それも、Hayatoの文字が刻まれた…







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