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永遠のつがい 1
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「そうか、そうだったな……」
医師にそれぞれ宥められているラシードとハリルの焦りように、セナはくすりと笑みを零す。身籠もったと分かっただけで、産まれるのはまだ先のことなのに。
「ふたりとも気が早すぎますよ。焦らなくても月日が経てば会えますから」
セナは遅れてきた神の子として、数奇な運命を辿った。生まれつき下腹に淫紋の欠片があったことは、初代国王から連なる血がオメガのセナに救いの手を伸べようとしてくれたのだと思う。
これから産まれてくる子がアルファであってもオメガでも、そして淫紋の有無にかかわらず、大切に育てたい。この子を授けてくれたイルハーム神とラシードとハリルに、深く感謝した。
医師が退出すると、早速ハリルはセナを抱きしめてくる。儀式が終わってもふたりに毎晩のように抱かれているので、体は乾く暇がない。どうやらふたりの男たちは協定を結びながらも競い合ってセナを愛しているようだった。
「体に負担がかかるから、今夜からは優しくしないといけないな。若干な」
激しく抱くハリルの若干が如何ほどか知れないが、セナは微苦笑を零した。
すかさず反対側に腰を下ろしたラシードはセナの腰に手を回す。
「セナは神の子の母となる。先代までは神の贄は儀式が終了した後も同じ身分のまま王宮の敷地内に住んでいたが、私はセナに最高の位を与えたい」
「そんな。僕は今のままで充分です」
ふたりに愛されて子を授かり、この身に受けきれないほどの幸せを与えられた。これ以上は望まないというのに、ラシードは首を横に振る。
「いいや。私たちの運命のつがいとして、明確な地位を授ける。子を産めば役目は終わりという神の贄を踏襲させてはならない」
「そうだな。セナがひどい境遇に置かれたのは、先代の贄が不遇だったせいもある。セナには今までの分も贅沢をさせてやらなきゃな。専用の王宮に馬車に、召使いは千人揃えるか」
話が大きくなりそうなので、慌てて手を振る。ふたりは常にセナを甘やかそうとするので、放っておくと国庫が破綻してしまう危険がある。
「待ってください。僕は贅沢したいなんて思ってませんから。……母さまのことを考えて、神の贄ではない地位はお受けしますけど、王宮や馬車は必要ありません」
「なんと。地位ある者が何も望まないのは怠慢であるのだ。私は王として兄として、何でもそなたの望みを叶える。申してみよ」
「そうだぞ、セナ。俺たちが叶えてやろう」
ふたりに迫られたセナは困り果てたが、とある願いを口にした。
それは大いに、神の末裔たちを呻らせるものだった。
王宮の広間では、祭典が行われている。神の贄であったセナの新たな地位を授ける式典と、王子の誕生を祝う行事だ。
懐妊したセナはやがて、双子の王子を出産した。ふたつのゆりかごの中で眠っている王子はまだ産まれたばかりで、すやすやと寝息を立てている。
ふたりの王子は、どちらにも淫紋はなかった。それだけ淫紋の一族のいにしえの血が薄れたのだろうと考えられた。アルファかオメガかはまだ不明だが、性にかかわらず己の力を信じて新しいトルキアを築いていってほしい。
淫紋を持つ神の贄がいなければ、もう儀式は行われることはないかもしれない。セナが最後の神の贄となるのかもしれない。それでも良いと思えた。
この子たちも好きな人を娶り、子を成してくれればそれが幸せなことだと思う。ラシードとハリルともそのように話し合い、王子の成長を末永く見守ろうと決めた。
玉座の前に跪いたセナは、儀式用のローブを身に纏っていた。もはや神の贄の衣装は脱ぎ捨てている。これからは新たな地位を王より授かる。
正装したラシードの手により、幾重にも羽織る薄いローブの上に、繊細な刺繍が施されたガウンがかけられた。
「神の子を産み落とした偉業を讃え、セナに『永遠なる神の末裔のつがい』の称号を与える」
「謹んで、お受けいたします」
祭典に参列した臣下や異国の使者たちから、拍手で迎えられる。
神の贄を卒業したセナは新しい地位を賜り、もはやイルハーム神のものではなくなった。永遠なる神の末裔のつがい、とは事実上、ラシードとハリルふたりの妻ということになる。
子どもたちはイルハーム神の加護を受けた神の子という地位だが、母はセナで、ラシードとハリルが父と定められた。これからは三人で手を取り合い、双子の王子を育てていく。
祭典を終えて王宮のテラスへ出れば、大勢の市民が歓迎してくれた。
セナはラシードとハリルの間に立ち、人々に手を振る。
「みんなは王子の誕生を喜んでくれるんですね」
「それだけじゃないだろ。ほら、セナ。解放されたオメガたちも来てるぞ」
ハリルの指摘に見渡してみれば、アルファとベータだけではなく、奴隷だったオメガたちもお祝いに駆けつけてくれていた。
何でも望みを叶えると言われたセナが望んだことは、奴隷制度の廃止だった。
自由に住む場所を選んで、仕事を選び、好きな人と結婚する。もう奴隷の身分を誰も嘆くことはない。
オメガをひとりの人として認めて奴隷の地位から解放することが、セナの胸にあった強い願いだ。
医師にそれぞれ宥められているラシードとハリルの焦りように、セナはくすりと笑みを零す。身籠もったと分かっただけで、産まれるのはまだ先のことなのに。
「ふたりとも気が早すぎますよ。焦らなくても月日が経てば会えますから」
セナは遅れてきた神の子として、数奇な運命を辿った。生まれつき下腹に淫紋の欠片があったことは、初代国王から連なる血がオメガのセナに救いの手を伸べようとしてくれたのだと思う。
これから産まれてくる子がアルファであってもオメガでも、そして淫紋の有無にかかわらず、大切に育てたい。この子を授けてくれたイルハーム神とラシードとハリルに、深く感謝した。
医師が退出すると、早速ハリルはセナを抱きしめてくる。儀式が終わってもふたりに毎晩のように抱かれているので、体は乾く暇がない。どうやらふたりの男たちは協定を結びながらも競い合ってセナを愛しているようだった。
「体に負担がかかるから、今夜からは優しくしないといけないな。若干な」
激しく抱くハリルの若干が如何ほどか知れないが、セナは微苦笑を零した。
すかさず反対側に腰を下ろしたラシードはセナの腰に手を回す。
「セナは神の子の母となる。先代までは神の贄は儀式が終了した後も同じ身分のまま王宮の敷地内に住んでいたが、私はセナに最高の位を与えたい」
「そんな。僕は今のままで充分です」
ふたりに愛されて子を授かり、この身に受けきれないほどの幸せを与えられた。これ以上は望まないというのに、ラシードは首を横に振る。
「いいや。私たちの運命のつがいとして、明確な地位を授ける。子を産めば役目は終わりという神の贄を踏襲させてはならない」
「そうだな。セナがひどい境遇に置かれたのは、先代の贄が不遇だったせいもある。セナには今までの分も贅沢をさせてやらなきゃな。専用の王宮に馬車に、召使いは千人揃えるか」
話が大きくなりそうなので、慌てて手を振る。ふたりは常にセナを甘やかそうとするので、放っておくと国庫が破綻してしまう危険がある。
「待ってください。僕は贅沢したいなんて思ってませんから。……母さまのことを考えて、神の贄ではない地位はお受けしますけど、王宮や馬車は必要ありません」
「なんと。地位ある者が何も望まないのは怠慢であるのだ。私は王として兄として、何でもそなたの望みを叶える。申してみよ」
「そうだぞ、セナ。俺たちが叶えてやろう」
ふたりに迫られたセナは困り果てたが、とある願いを口にした。
それは大いに、神の末裔たちを呻らせるものだった。
王宮の広間では、祭典が行われている。神の贄であったセナの新たな地位を授ける式典と、王子の誕生を祝う行事だ。
懐妊したセナはやがて、双子の王子を出産した。ふたつのゆりかごの中で眠っている王子はまだ産まれたばかりで、すやすやと寝息を立てている。
ふたりの王子は、どちらにも淫紋はなかった。それだけ淫紋の一族のいにしえの血が薄れたのだろうと考えられた。アルファかオメガかはまだ不明だが、性にかかわらず己の力を信じて新しいトルキアを築いていってほしい。
淫紋を持つ神の贄がいなければ、もう儀式は行われることはないかもしれない。セナが最後の神の贄となるのかもしれない。それでも良いと思えた。
この子たちも好きな人を娶り、子を成してくれればそれが幸せなことだと思う。ラシードとハリルともそのように話し合い、王子の成長を末永く見守ろうと決めた。
玉座の前に跪いたセナは、儀式用のローブを身に纏っていた。もはや神の贄の衣装は脱ぎ捨てている。これからは新たな地位を王より授かる。
正装したラシードの手により、幾重にも羽織る薄いローブの上に、繊細な刺繍が施されたガウンがかけられた。
「神の子を産み落とした偉業を讃え、セナに『永遠なる神の末裔のつがい』の称号を与える」
「謹んで、お受けいたします」
祭典に参列した臣下や異国の使者たちから、拍手で迎えられる。
神の贄を卒業したセナは新しい地位を賜り、もはやイルハーム神のものではなくなった。永遠なる神の末裔のつがい、とは事実上、ラシードとハリルふたりの妻ということになる。
子どもたちはイルハーム神の加護を受けた神の子という地位だが、母はセナで、ラシードとハリルが父と定められた。これからは三人で手を取り合い、双子の王子を育てていく。
祭典を終えて王宮のテラスへ出れば、大勢の市民が歓迎してくれた。
セナはラシードとハリルの間に立ち、人々に手を振る。
「みんなは王子の誕生を喜んでくれるんですね」
「それだけじゃないだろ。ほら、セナ。解放されたオメガたちも来てるぞ」
ハリルの指摘に見渡してみれば、アルファとベータだけではなく、奴隷だったオメガたちもお祝いに駆けつけてくれていた。
何でも望みを叶えると言われたセナが望んだことは、奴隷制度の廃止だった。
自由に住む場所を選んで、仕事を選び、好きな人と結婚する。もう奴隷の身分を誰も嘆くことはない。
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