49 / 153
永遠のつがい 2
しおりを挟む
奴隷の廃止は永遠なる神の末裔のつがいが下した決定として、トルキア国の全土に交付された。各地のオメガ街で行われていた奴隷市場は廃止され、オメガたちは隷属から逃れることができた。市民権を得たオメガは、今後は自らの人生を自由に選ぶことができる。もう無給で働くこともないし、未来に絶望することもない。セナのように家族と会いたいと願っているオメガも、その望みを叶えることができるのだ。
実現してくれたラシードとハリルに感謝しながら、市民となったオメガたちに笑顔を見せれば大歓声が湧き起こる。ラシードは穏やかな笑みを浮かべた。
「階級制度を塗り替えた神の贄か。セナの名は、永久にトルキアの歴史に刻まれるだろう」
ふたりの運命のつがいと、ふたりの王子と共にトルキア国民の歓声に応える。
雲ひとつない蒼穹の空の下、セナはいつまでも人々に手を振り続けた。
丘の上に到着すれば、懐かしさに胸が熱くなる。
セナが昔、奴隷オメガとして食堂で働いていた頃に毎日磨いていたイルハームの神像は、当時と変わらぬ姿のままで鎮座していた。
王宮の祭事や子育てに忙しくて中々訪れる機会が得られなかったが、こうしてまた来ることができてとても嬉しい。セナの出発点は、砂漠を見据えているこのイルハーム神だったから。
「母さま、だれかいるよ」
双子の王子に両手を引かれて神像に近づいてみれば、掃除を行う人影が見えた。
三才になった王子たちは、ひとりは黒髪に漆黒の眸をしていてラシードに瓜二つだ。もうひとりは赤銅色の髪に茶色の眸で、ハリルによく似ている。ふたりともとても腕白でよく喧嘩もするが、健やかに育ってくれた。
掃除をしている男性に見覚えがあったセナは声をかけた。
「あなたは……食堂で一緒に働いていた方ですね」
男性はセナたちに気がつくと、はっとして平伏する。
「失礼いたしました! 永遠なる神の末裔のつがいさま、王子さまがた」
間違いない。食堂の同僚だったオメガの男性だ。彼に皿洗いを言いつけられたり、奴隷市場で横に並んだりしたことも今となっては遠い思い出となった。
「お久しぶりです。顔を上げてください。あなたが僕のいなくなったあと、このイルハームさまを磨いてくれたんですね。ありがとう」
男性は気まずそうに頭を掻いた。ここを訪れるまでは神像がどうなっているか不安だったが、彼が綺麗にしていてくれたことを知って安堵する。
「実は……掃除を始めたのは最近なんです。俺が結婚できたのも、セナさまのおかげなので。奴隷を解放してくれて、ありがとうございました。オメガたちはみんな喜んでいます。俺も食堂の主人と結婚して、結局同じところにいるんです。それでセナさまが丘の上のイルハーム神を掃除していたことを思い出したんです」
「そうだったんですね……。良かった」
彼が幸せになってくれて良かった。縁とは不思議なものだが、やはり初めからつながっているらしい。過去には辛いこともあったけれど、セナのしたことは何ひとつ無駄ではなく、輝かしい未来へ向かっていたのだ。
感無量で涙ぐむセナと男性を不思議そうに見ていた王子たちは、置いてあった箒や布巾を手にして駆けだした。
「いるはーむさま、おそうじする!」
「ぼくも!」
「ああっ……王子さまがたがそのような……」
セナは微笑みながら自らも布巾を手にした。
「みんなでお掃除しましょう。ふたりとも、神像に登っちゃだめだよ」
はあい、と可愛らしい返事が爽やかな風に乗る。
イルハーム神は穏やかな表情で、トルキアのすべてを見守っていた。
実現してくれたラシードとハリルに感謝しながら、市民となったオメガたちに笑顔を見せれば大歓声が湧き起こる。ラシードは穏やかな笑みを浮かべた。
「階級制度を塗り替えた神の贄か。セナの名は、永久にトルキアの歴史に刻まれるだろう」
ふたりの運命のつがいと、ふたりの王子と共にトルキア国民の歓声に応える。
雲ひとつない蒼穹の空の下、セナはいつまでも人々に手を振り続けた。
丘の上に到着すれば、懐かしさに胸が熱くなる。
セナが昔、奴隷オメガとして食堂で働いていた頃に毎日磨いていたイルハームの神像は、当時と変わらぬ姿のままで鎮座していた。
王宮の祭事や子育てに忙しくて中々訪れる機会が得られなかったが、こうしてまた来ることができてとても嬉しい。セナの出発点は、砂漠を見据えているこのイルハーム神だったから。
「母さま、だれかいるよ」
双子の王子に両手を引かれて神像に近づいてみれば、掃除を行う人影が見えた。
三才になった王子たちは、ひとりは黒髪に漆黒の眸をしていてラシードに瓜二つだ。もうひとりは赤銅色の髪に茶色の眸で、ハリルによく似ている。ふたりともとても腕白でよく喧嘩もするが、健やかに育ってくれた。
掃除をしている男性に見覚えがあったセナは声をかけた。
「あなたは……食堂で一緒に働いていた方ですね」
男性はセナたちに気がつくと、はっとして平伏する。
「失礼いたしました! 永遠なる神の末裔のつがいさま、王子さまがた」
間違いない。食堂の同僚だったオメガの男性だ。彼に皿洗いを言いつけられたり、奴隷市場で横に並んだりしたことも今となっては遠い思い出となった。
「お久しぶりです。顔を上げてください。あなたが僕のいなくなったあと、このイルハームさまを磨いてくれたんですね。ありがとう」
男性は気まずそうに頭を掻いた。ここを訪れるまでは神像がどうなっているか不安だったが、彼が綺麗にしていてくれたことを知って安堵する。
「実は……掃除を始めたのは最近なんです。俺が結婚できたのも、セナさまのおかげなので。奴隷を解放してくれて、ありがとうございました。オメガたちはみんな喜んでいます。俺も食堂の主人と結婚して、結局同じところにいるんです。それでセナさまが丘の上のイルハーム神を掃除していたことを思い出したんです」
「そうだったんですね……。良かった」
彼が幸せになってくれて良かった。縁とは不思議なものだが、やはり初めからつながっているらしい。過去には辛いこともあったけれど、セナのしたことは何ひとつ無駄ではなく、輝かしい未来へ向かっていたのだ。
感無量で涙ぐむセナと男性を不思議そうに見ていた王子たちは、置いてあった箒や布巾を手にして駆けだした。
「いるはーむさま、おそうじする!」
「ぼくも!」
「ああっ……王子さまがたがそのような……」
セナは微笑みながら自らも布巾を手にした。
「みんなでお掃除しましょう。ふたりとも、神像に登っちゃだめだよ」
はあい、と可愛らしい返事が爽やかな風に乗る。
イルハーム神は穏やかな表情で、トルキアのすべてを見守っていた。
37
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる