淫神の孕み贄

沖田弥子

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神の末裔たちの策略 3

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 セナは怒りを漲らせたラシードの腕に、そっと手を添える。

「ラシードさま、僕は平気です。どうか、リガラ城砦に行かせてください。神馬の儀を行わせてください」
「セナ……待つのだ。安易に考えてはいけない。ベルーシャ国の問題だけではない。神馬の儀は非常に過酷な儀式だ。私も文献で見知っているだけだが、セナにはとても耐えられないだろう」

 そんなにも大変な儀式なのだろうか。どういった内容なのかはわからないが、前回の儀式は無事に遂行できたのだ。神馬の儀といえども、イルハーム神の司る淫神の儀式のうちのひとつには変わりない。
 セナは決意を固めて、ごくりと息を飲んだ。

「でも……子を孕むためです。それがトルキア国の将来のためなら、僕はどんなことでも耐えられます」
「セナ……だが、しかし……」

 ラシードはひどく迷っている。
 だがすぐに顔を上げて、一同に告げた。

「良いだろう。神馬の儀を執り行うことを許す。ただし、そのための前提を置こうではないか」

 微妙な含みに、ファルゼフは顎を引いて疑問を投げる。

「前提とは、どういった内容でしょうか。陛下」
「要するに、前回の儀式と同程度に淫紋が動けば、リガラ城砦へ赴く必要はなくなる」
「そういうことになりますね」
「そこで、もっとセナの発情を促し、淫紋の活動を活発にさせるのだ」
「それができれば妊娠の可能性は高まるかと思われますが……何かお考えがございますか」
「趣向を凝らして、性の悦びを高めるのだ。常々考えていたのだが、行為の最中にハリルが余計なことを喋るのでセナの気が散っている。その邪魔さえなければ、もっと快楽を感じることができるはずなのだ」

 唐突にハリルは席を立ち上がった。
 鬼の形相でラシードに詰め寄る。間にはセナが座っているので、彼の強靱な胸が押しつけられてしまう。

「ちょっと待てよ! そこで俺のせいか⁉」
「そうだ。セナが懐妊しないのも、元を正せばハリルが邪魔をしているせいだな」
「だったら言わせてもらうけどな、ラシードこそ邪魔なんだよ。ベッドでいちいちセナに命令してるから気が散って妊娠しないんだろうが」

 ゆらりと、ラシードは席から立ち上がった。
 ただしその手には、セナの右手が握られている。

「私がいつ、ベッドで命令を下したのだ」
「言ってるだろうが。舐めさせろとか、舐めるなとか、うんざりするくらいにな」

 ハリルもセナの左手を掬い上げる。
 セナの両手はふたりの男にしっかりと握られた。

「それは貴様の思い違いだ。私は愛の言葉しか使っていない」
「はあ? それが勘違いなんだよ。下手くそだなと俺は毎晩思ってたんだよな」
「下手なのは貴様のほうだ。激しくすればそれで良いと思っているだろう。馬鹿者め」
「俺には俺のやり方がある。ラシードがぬるいんだよ。そうやって因縁つけるなよ」

 ふたりに挟まれながら、セナは冷や汗を流した。
 真向かいでは冷静な目をしたファルゼフが聞いているというのに、この場で言い争いを始めるのはやめてほしい。
 神の末裔たちは睨み合い、セナを軸として互いを詰り合う。
 やがてラシードは溜息を零した。

「私はこの言い争いに決着を付けねばならないと常々考えていた」
「ああ、俺もだ」
「良い機会だ。それぞれ一週間、セナを独占して愛するというのはどうだ。互いの邪魔が入らないところで発情を促し、より淫紋を動かしたほうが今後もセナを愛し続ける。動かせなかったほうはセナから手を引く」

 なんと、淫紋を動かすための勝負がラシードから提案されてしまった。
 ハリルは目を見開いたけれど、すぐに不敵な笑みを口端に乗せる。

「望むところだ。じゃあ勝負の決着が付けば、ラシードは永遠にセナに触れることができなくなるわけだな」
「果たしてそうかな? ハリルが土下座して謝る姿が目に浮かぶ。どうかセナを抱かせてくださいとな。これで邪魔者を葬り去ることができると思えば清々する」
「その言葉、そのまま返すぜ。どっちが先に独占の一週間を始める?」
「あとから文句を付けられてはかなわないからな。公平にコインの裏表で決めよう」

 召使いが持ってきたコインを握らされたセナは、必死の形相で裏だ表だと叫ぶ神の末裔たちを見やる。
 どうしよう……本当にこれで決着が付くのかな?
 この勝負により、どちらかひとりのものになってしまうのだろうか。
 ラシードとハリルは真剣な面持ちだけれど、ふたりはこのやり取りを楽しんでいるようにも見えた。
 公平さを重視した結果、ラシードが初めの一週間にセナを独占することに決まった。その期間、ハリルはセナに触れられないことになる。
 事態を見守っていたファルゼフは淡々と告げた。

「では、合計二週間の勝負を行うわけですが、双方とも淫紋を動かせなかった場合は、神馬の儀を執り行います。それでよろしいですね?」

 わかっている、と投げやりに返事をした神の末裔たちは、まだセナの手を解放してくれない。

「さっさとセナの手を離さぬか。貴様はもう、セナに触れられないのだからな」
「一週間だけだろ。ラシードこそ離せよ。趣向を凝らすとか言ってたよな。どうせパーティーでも開くんだろ。さっさと準備してこい」

 ふたりに手を取られ、ぎゅうと抱きしめられながら、セナは困り果てた。
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