淫神の孕み贄

沖田弥子

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黄金の羽根 1

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 翌日、セナはひとりきりのベッドで目覚めた。
 ラシードとハリルの仕事が忙しいときはどちらかがいないこともあるけれど、ひとりきりになるのは覚えがない。このベッドはこんなにも広かったのだろうかと、シーツを掴んで寂寥感が込み上げる。
 昨日はセナを懐妊させるための話し合いから発展して、ラシードとハリルが勝負することになってしまった。淫紋を動かしたほうが勝者で、負けたほうはセナから手を引かなければならない。
 昨夜からハリルは王宮ではなく、自分の所有する屋敷で寝泊まりすると言っていた。
 ラシードは何やら準備が忙しいようで、寝室に戻ってきていない。

「ひとりは、寂しいな……」

 いつもふたりから愛されて、最中に口論が始まったりするけれど、その賑やかさがないのは灯火を失ったかのような心許なさを覚えた。
 ラシードとハリルはお互いを邪魔だと罵っていたけれど、心からそう思っているわけではないと思う。ただ雄としての独占欲が発揮されてしまうので、時折衝突してしまうのだ。
 なんとか仲直りしてほしいのだけれど、どうしたら良いのだろう。
 考えあぐねていると、部屋のカーテンを開ける音がした。

「おはようございます。永遠なる神の末裔のつがい様」

 溌剌とした声音は、いつも世話をしてくれる召使いの少年だ。
 ラシードは寝室に入室できる召使いを厳選しており、数名の少年と老齢の女性しか許可していない。いずれも王族の世話に慣れている身元のしっかりした者たちだ。
 天蓋付きのベッドから垂らされたカーテンは主人がいるときには開けてはならない、浴室で主人の体を洗うときは直接体に触れてはならないなど、非常に細かい規律があるらしい。ラシードが定めたこの規律における主人とは王だけでなく、もちろんセナも含まれている。正直に言えば堅苦しいと感じることもあるのだけれど、ラシードは厳しい目をして、セナのためだと言う。
 そうしてセナはラシードに身も心も拘束されている。
 たとえその形が歪んだ愛情だとしても、セナは寵愛に溺れるばかりだ。
 ベッドのカーテンを開けたセナは、寝台から足を下ろした。
 自分でカーテンを開けるのは、とても久しぶりだ。
 いつもはラシードとハリルに抱き竦められたまま目覚めるので、どちらかがカーテンを開けているから。
 召使いの少年は水の入ったグラスを盆に乗せて差し出した。

「どうぞ、お水で喉を潤してください」
「ありがとう」

 召使いから、主人にグラスを直接手渡すことは許されていない。
 以前、盆を持ってくるのを忘れた少年はグラスを渡せなかったので、持ち場を異動させられてしまった。そこまで厳しく規律を守ることもないとセナは思うのだけれど、ラシードは召使いが間違いを起こしたら困ると言って、慎重な姿勢を崩さない。
 間違いとはなんだろう……
 もしかして、召使いがセナに淫らなことをするとでも、ラシードは心配しているのだろうか。そんなことあるわけないのに。
 冷たい水が喉を流れる感触が心地好い。
 飲み干したグラスを、少年が持っている盆に戻す。
 次に少年は、顔を洗うための銀製のボウルに大きな水差しから水を注ぎ入れた。

「今夜は王が、特別な舞踏会を開いてくださるそうですよ」
「舞踏会……じゃあ、もしかして昨夜お戻りにならなかったのは、舞踏会の準備をしていたためでしょうか?」

 ボウルの水で顔を洗ったセナに、少年は微笑みながら清潔なタオルを差し出す。無論、盆に乗せて。

「そのようです。王が考案した舞踏会だそうで、会場の宮殿には様々な家具が設置されているようです。舞踏会の参加者も大勢集まっていて、王と直々に面接のようなものを行っていましたね」
「ふうん……」

 通常の舞踏会とは異なるようだ。一体どんなことが行われるのか、セナには想像もつかない。
 ラシードとハリルの勝負はもう始まっている。
 今日から一週間、ラシードはセナを独占して、淫紋を動かすための趣向を凝らすというのだ。きっと今夜の舞踏会も、その一環なのだろう。
 ラシードが懸命に準備してくれているのだから、喜んで舞踏会に参加させてもらおう。
 けれどその前に、ラシードの顔を見て、安心したかった。
 たった一晩触れられていないだけなのに、こんなにも心と体は飢えている。
 セナはそわそわしながら着替えを手伝ってもらい、純白のローブに袖を通した。
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