淫神の孕み贄

沖田弥子

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淫蕩な仮面舞踏会 1

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 宮殿の舞踏会は煌びやかな光が溢れていた。
 黄金の燭台に灯された幾千もの明かりが、幻想的に揺らめいている。それらは磨き上げられた大理石の床に映り込み、円舞を描く紳士たちの足元を妖しく、艶やかに飾り立てた。
 彼らはラシードが指名した王侯貴族のアルファと、その愛人のオメガたちだ。
 ゆったりとした音楽が演奏される中、皆は楽しそうに踊っている。
 ちらりと円舞を目にしたセナは、椅子の上で身を縮めていた。隣には正装のシャルワニを纏ったラシードが、ゆるりとグラスを傾けている。光り輝く白銀のシャルワニは、ラシードの気品をさらに引き立てていた。

「どうした、セナ。もっと胸を張って、そなたの身につけた黄金と宝玉を彼らに見せてあげたらよいだろう」
「……それは、その……」

 胸を張れるわけがない。
 セナは裸なのである。
 一糸纏わぬ体に、ラシードが選んでくれた宝飾品のみを身につけているのだ。
 大粒の翡翠が付いた黄金の首飾り。鳥の羽根を思わせる長い金の鎖は、腰と手首に繫がれている。それに幾つもの金剛石が付いた足輪。
 それだけである。
 肌を覆い隠すものは何もないので、乳首も、花芯すら丸見えの状態だ。
 身を縮めて、できるだけ人の目に触れないようにするしかなかった。

「恥ずかしがることはない。今宵は特別な舞踏会だ。招待客は、私が指名した信用のおけるアルファとオメガたちなのだから。皆はそなたの特別な衣装を楽しみにしている」

 ラシードが開催した特別な舞踏会とは、こういうことだったのだと理解した。
 淫蕩な仮面舞踏会――
 そこではセナだけでなく、オメガの青年たちは全員が裸だった。
 ただし彼らは仮面を被り、装身具は付けていない。
 仮面を付けられれば、この羞恥も和らぐのかもしれないのに。裸の上に素顔なのはセナひとりだ。装身具で着飾ったセナだけが特別なオメガであると、ラシードは位置づけたいのかもしれない。
 アルファたちも仮面を装着しているが、服は各々の正装を身につけていた。
 セナとラシードのふたりだけが素顔で、あとの者は皆、仮面で踊っている。
 招待客のアルファとオメガたちは二人一組になり、華麗な円舞を描き続けていた。
 裸であることを気にしているのはセナだけのようで、オメガたちはアルファの手を取りながら、堂々とステップを踏んでいる。彼らの揺れる花芯がどうしても目に入ってしまい、セナは赤くなりながら視線を彷徨わせた。
 すい、とセナの手が掬い上げられる。
 手首を飾る黄金の鎖が、しゃらりと玲瓏に鳴り響いた。

「さあ、セナ……踊ろう」

 ラシードに誘われ、輪の中央に歩み出る。
 王の相手をさせていただくのだから、猫背ではいけない。セナは羞恥を押し殺して、精一杯に胸を張った。
 向かい合わせになり、互いの手を組む。ラシードの空いた片手は、セナの腰に回された。
 やや頤を上げて、漆黒の双眸を見つめる。
 ラシードの深い眼差しは、セナだけに注がれていた。
 兄さまが、僕を見ている……
 それだけでもう、セナの胸はときめいて甘く高鳴る。
 リードに任せて足首を踊らせ、ステップを刻む。そうすると足輪の金剛石が光を受けて、きらきらと煌めいた。
 くるりと回転するたびに、身につけた黄金の鎖は音高く鳴り、華麗に躍る。そのたびに、セナのささやかな花芯もふるりと揺れる。まるで唯一の、宝玉のように。
 シャラン、シャラン……

「愛しい、私の弟……」

 ふいに呟かれた熱の籠もった台詞に、どきりと胸を弾ませる。
 セナは潤んだ翡翠色の瞳で、愛する兄を見上げた。

「僕もです。愛しています、兄さま……」
「私が、どんな男でもか?」
「もちろんです。どんな兄さまでも、僕の心が変わることはありません」

 どうしてそんなことを訊ねるのだろう。毎晩ラシードと愛を交わしているのだから、彼の知らない面などあるわけがないのに。
 ラシードは口端に意地の悪そうな笑みを刻む。
 常に王としての威厳を崩さないラシードがそんな悪辣な表情を見せてくれるのも、セナにだけだ。
 繫いだ手がラシードの口元に引き寄せられる。ちゅ、とセナの手の甲に、くちづけがひとつ落とされた。
 内輪の舞踏会ではあるけれど、王が乞うような仕草を公の場で見せたことに、セナは驚きを隠せない。

「そんなこと、いけませ……あっ」

 ふいに繫いだ手を掲げられ、パッとその手が離される。
 突然のことに体勢を崩してしまったセナだが、その体は背後にいたアルファの紳士に、しっかりと抱き留められた。
 腰を抱かれて、くるりと向き合わされ、紳士に手を取られる。
 そのままセナは紳士と踊る。ラシードは踵を返すと、先程まで座っていた椅子に戻った。
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