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宰相の裏切り 1
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コツコツと、寝室の扉がノックされた。
「失礼いたします、アポロニオス王」
はっとしたセナは硬直する。
聞き覚えのある怜悧な声音は、ファルゼフのものだ。
「入れ」
情事の最中にもかかわらず、アポロニオスはあっさりと入室を許可してしまう。
セナは慌てて男の膝から下りようと体を捻らせるが、大きな掌に腰を掴まれて叶わない。
「たいした用事ではない。君は私の言いつけどおり、そのまま腰を動かしていなさい。止めてはいけないと言っただろう?」
「は、はい。わかりました」
命令なので仕方なく、おずおずと腰を揺らす。
入室してきたファルゼフはベッドで繰り広げられている痴態を見ても一切動揺せず、平然としていた。
彼は濃い紫色のローブを纏い、縄をかけられているわけではない。眼鏡の奥の双眸は常日頃と変わらず理知的で、冷徹な色を湛えている。
ファルゼフに監視のための兵士などはついておらず、代わりに弟のシャンドラを伴っていた。シャンドラもいつもの黒衣に身を固め、無表情を浮かべていた。
ふたりが無事だったとわかり、セナは胸を撫で下ろす。
だが、全裸のセナがアポロニオスの腰に跨がり、雄芯を慰めている恰好は彼らから丸見えである。いたたまれないセナは顔を真っ赤にして、うろうろと視線をさまよわせた。
ファルゼフは、セナなどまるで目に映っていないかのように、ゆったりとした薄い笑みを浮かべて、アポロニオスに語りかけた。
「お楽しみ中のところ申し訳ございません。我が王に確認しておきたい事項がいくつかございまして」
『我が王』という台詞に、セナは目を見開く。
ファルゼフにとって、我が王と呼べるのはラシードだけのはずなのに。
「かまわないよ。トルキアの神の贄は素晴らしい使い心地だ。これを献上した功績として、君たちの処遇は望み通りにしよう。ベルーシャ国において上級王族の地位を与える」
「ありがとうございます、我が王」
「確認したい事項とは、どうせそのことだろう。せっかくだから、神の贄が悶える姿を見ていってはどうかな」
両者のやり取りを聞いたセナは驚愕する。
セナをアポロニオスに献上したのはファルゼフなのだ。彼から薬のようなものを嗅がされて意識を失ったところまでは覚えているが、まさか宰相であるファルゼフが裏切るような真似をするなんて、信じられない。
しかもその功績として、彼らにはベルーシャ国の上級王族の地位が与えられる。
そういえば、彼ら兄弟の祖母はベルーシャ国王の娘だそうだが、王族の地位は得られなかったゆえに、孫の彼らもベルーシャ国との縁はないと話していた。
彼らが手にして然るべき地位を得ることは大切かもしれないが、この状況はトルキア国を裏切り、アポロニオスに寝返ったということではないか。
ファルゼフとシャンドラは、僕たちを売った……?
たまらずセナは声を上げた。
「どういうことなんですか⁉ ファルゼフとシャンドラはまさか、もうトルキア国へ帰らないつもりなんですか? ラシードさまや騎士団のみんなを裏切るんですか?」
目に涙を溜めて必死に訴える。
だがファルゼフは瞬きをひとつ返すと、淡々と説明を始めた。まるで講義のように。
「何か問題がございますか? 我々は正当な地位を得たまでです。そのためには手ぶらというわけにはいきませんから、我が王に手土産として、神の贄とリガラ城砦を献上したわけです。セナ様としても王の妃という地位が約束されているわけですから、不自由はないでしょう。これまでとは少々着る衣服と食べる物が変わる程度とお思いになればよろしい」
理屈のみを説かれ、慄然とする。
裏切られ、命を奪われる者のことなど、彼は虫けらほどのものとしか考えていないのか。
もしファルゼフの裏切りがなければ、戦況は変わっていたかもしれない。気を失ったセナを盾に取られたから騎士団は降伏したのだ。ファルゼフはセナと百人のアルファたちの命を、敵に捧げたことになる。
シャンドラは膝をつき、目線を床に落として黙然としている。
どこまでもシャンドラは兄の言いなりらしく、彼自身の意見は望めない。
「そんな……! どうしてですか。あなたがたはトルキア国でも王族です。それに、宰相の地位を捨てるのですか?」
必死に説得しようと言葉を尽くすが、アポロニオスに膝を叩かれる。
「こら。腰が止まっているよ。口を動かすのはよいが、腰も動かしなさい」
「う……はい」
恥ずかしくてたまらないが、命令通りに腰を前後させる。
淫らなさまを見たファルゼフは、満悦したように笑みを浮かべた。
「セナ様はそうして快楽を享受しているのが一番よろしいのですよ。あなた様は難しいことを考えなくていいのです。抵抗さえしなければ、怪我をすることもないでしょう」
「教えてください、ファルゼフ。戦況が悪化したから、僕をアポロニオス王に献上しようと考えたのですか?」
「失礼いたします、アポロニオス王」
はっとしたセナは硬直する。
聞き覚えのある怜悧な声音は、ファルゼフのものだ。
「入れ」
情事の最中にもかかわらず、アポロニオスはあっさりと入室を許可してしまう。
セナは慌てて男の膝から下りようと体を捻らせるが、大きな掌に腰を掴まれて叶わない。
「たいした用事ではない。君は私の言いつけどおり、そのまま腰を動かしていなさい。止めてはいけないと言っただろう?」
「は、はい。わかりました」
命令なので仕方なく、おずおずと腰を揺らす。
入室してきたファルゼフはベッドで繰り広げられている痴態を見ても一切動揺せず、平然としていた。
彼は濃い紫色のローブを纏い、縄をかけられているわけではない。眼鏡の奥の双眸は常日頃と変わらず理知的で、冷徹な色を湛えている。
ファルゼフに監視のための兵士などはついておらず、代わりに弟のシャンドラを伴っていた。シャンドラもいつもの黒衣に身を固め、無表情を浮かべていた。
ふたりが無事だったとわかり、セナは胸を撫で下ろす。
だが、全裸のセナがアポロニオスの腰に跨がり、雄芯を慰めている恰好は彼らから丸見えである。いたたまれないセナは顔を真っ赤にして、うろうろと視線をさまよわせた。
ファルゼフは、セナなどまるで目に映っていないかのように、ゆったりとした薄い笑みを浮かべて、アポロニオスに語りかけた。
「お楽しみ中のところ申し訳ございません。我が王に確認しておきたい事項がいくつかございまして」
『我が王』という台詞に、セナは目を見開く。
ファルゼフにとって、我が王と呼べるのはラシードだけのはずなのに。
「かまわないよ。トルキアの神の贄は素晴らしい使い心地だ。これを献上した功績として、君たちの処遇は望み通りにしよう。ベルーシャ国において上級王族の地位を与える」
「ありがとうございます、我が王」
「確認したい事項とは、どうせそのことだろう。せっかくだから、神の贄が悶える姿を見ていってはどうかな」
両者のやり取りを聞いたセナは驚愕する。
セナをアポロニオスに献上したのはファルゼフなのだ。彼から薬のようなものを嗅がされて意識を失ったところまでは覚えているが、まさか宰相であるファルゼフが裏切るような真似をするなんて、信じられない。
しかもその功績として、彼らにはベルーシャ国の上級王族の地位が与えられる。
そういえば、彼ら兄弟の祖母はベルーシャ国王の娘だそうだが、王族の地位は得られなかったゆえに、孫の彼らもベルーシャ国との縁はないと話していた。
彼らが手にして然るべき地位を得ることは大切かもしれないが、この状況はトルキア国を裏切り、アポロニオスに寝返ったということではないか。
ファルゼフとシャンドラは、僕たちを売った……?
たまらずセナは声を上げた。
「どういうことなんですか⁉ ファルゼフとシャンドラはまさか、もうトルキア国へ帰らないつもりなんですか? ラシードさまや騎士団のみんなを裏切るんですか?」
目に涙を溜めて必死に訴える。
だがファルゼフは瞬きをひとつ返すと、淡々と説明を始めた。まるで講義のように。
「何か問題がございますか? 我々は正当な地位を得たまでです。そのためには手ぶらというわけにはいきませんから、我が王に手土産として、神の贄とリガラ城砦を献上したわけです。セナ様としても王の妃という地位が約束されているわけですから、不自由はないでしょう。これまでとは少々着る衣服と食べる物が変わる程度とお思いになればよろしい」
理屈のみを説かれ、慄然とする。
裏切られ、命を奪われる者のことなど、彼は虫けらほどのものとしか考えていないのか。
もしファルゼフの裏切りがなければ、戦況は変わっていたかもしれない。気を失ったセナを盾に取られたから騎士団は降伏したのだ。ファルゼフはセナと百人のアルファたちの命を、敵に捧げたことになる。
シャンドラは膝をつき、目線を床に落として黙然としている。
どこまでもシャンドラは兄の言いなりらしく、彼自身の意見は望めない。
「そんな……! どうしてですか。あなたがたはトルキア国でも王族です。それに、宰相の地位を捨てるのですか?」
必死に説得しようと言葉を尽くすが、アポロニオスに膝を叩かれる。
「こら。腰が止まっているよ。口を動かすのはよいが、腰も動かしなさい」
「う……はい」
恥ずかしくてたまらないが、命令通りに腰を前後させる。
淫らなさまを見たファルゼフは、満悦したように笑みを浮かべた。
「セナ様はそうして快楽を享受しているのが一番よろしいのですよ。あなた様は難しいことを考えなくていいのです。抵抗さえしなければ、怪我をすることもないでしょう」
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