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波乱 3
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遅れて入室してきた天に非難の眼差しが注がれる。天は戸口に膝を着いた。
「遅れて申し訳ございません!」
靴音を鳴らしてこちらにやってきたルカスは、跪いた天を冷淡に見下ろす。
「遅刻により、同室六名に懲罰を与えます。懲罰の内容は刑務庭送り。妃候補の資格も剥奪します」
「えっ……」
無情に宣告された懲罰の内容に呆然とする。
刑務庭とは王宮で罪を犯した者が送られるところで、定められた期間を服役しなければならないと聞く。牢獄もあり、罪が重ければ死を賜るという。さらに妃候補の資格を剥奪されるということは、もう復帰できないことを示していた。
これまでの懲罰は正座や追加の掃除といった内容だったのに、あまりにも重すぎるのではないだろうか。
「そんな……では、僕たちはもう王宮にいられないのですか?」
「今回は妃候補を選別する大事な試験です。それに遅刻するような者は元から必要ありません。あなたがたは王宮にいても無用ですから、刑務庭で反省したあと故郷へ帰るのがよろしいでしょう」
王宮に、いられなくなる。
そのとき天の脳裏を掠めたのは、エドに二度と会えなくなるという憂慮だった。
それがいかに身勝手な思いであるかということを、黎の叫びが証明した。
「待ってください! 俺たちは今まで協力して勉学や舞の稽古に励んできました。それなのに一回の遅刻で同室者全員を事実上追放にするなんて、ひどすぎます」
黎や皆は、妃になるために必死で頑張ってきたのだ。それなのに天は始めから妃になる気もなく、エドと逢瀬を重ねたゆえに大切な告知を聞き逃した。身勝手な己の行為で皆の将来を奪おうとしている。
僕のせいだ。僕がみんなを裏切ったんだ。
天の隣に跪いて懇願する黎へ、ルカスは冷徹に扇子の切っ先をむけた。
「あなたがたは、いかなる結果を出しましたか? 王家は善意であなたがたに勉学を教え、日々の糧を与えているわけではありません。どうしても妃候補の資格を失いたくないのなら、己は役に立つ存在だとまずは私に示しなさい」
ルカスの台詞に、隅に立っていた恵が微笑みながら前へ進み出る。
「ルカスさまにご報告がございます。天は毎日こっそり川辺に出かけて、獣人と密会していました。私は宮殿の裏にある通路から何度か目撃してしまったのです。今日遅刻したのも、逢い引きしていたからでしょう」
「なんですって? 本当ですか、天」
眉を跳ね上げたルカスは鋭く詰問した。
背筋を冷たいものが流れる。やはり恵には知られていたのだ。彼はこの切札を匂わせていたが、今こそ出すべきだと判断した。
室内がざわめきだす。ぎゅっと心臓を掴まれるような苦しさに喘ぎながら、天は正直に肯定した。
「……はい。本当です」
「その獣人は何者です。逢い引きだなんて、王に対する重大な裏切り行為ですよ。事実だとしたら数日の刑務庭送りでは済まされません」
「……言えません。でも、逢い引きではありません。彼とは友人です」
自らの罪は認めなければならないが、エドに非はない。天が彼に会いたいと希ったのだ。すべて自分の責任だ。エドの名を出せば、彼が降格などに処されてしまいかねない。それだけは避けなければならなかった。
友人だなんて白々しい、ひとりで罪を被るべきだと同室者から口々に罵られる。
エドと特別な関係になりたいという望みはなかったと、明言できなかった。だから誰にも言えなかったのだ。
涙ぐむ天と、告発した恵を交互に見遣った黎は声を上げた。
「おい、仲間を売るのはよせよ。恵が遅刻したときも、天は一緒に懲罰を受けてくれただろ。自分が助かりたいからって、ひとを突き落とすなよ!」
恵は視線を彷徨わせた。役に立つことを示せば妃候補を剥奪しないという条件をルカスが提示したので、天を密告して懲罰を逃れようという算段なのは明らかだった。
けれど恵の行いを責めることなど天にはできない。恵の告白はすべて事実なのだから。
憤然とした恵は黎を睨みつける。
「私はなにも悪くない。王への裏切りを報告するのは妃候補としての義務だ。そんなに仲間が大事なら、仲良く刑務庭に堕ちて慰め合えばいいさ」
「おまえみたいな腹黒が妃に見初められるわけないんだからな。勘違いするなよ!」
「なんだと!? 下級役人の家柄のくせに、私を侮辱するな!」
激昂した恵は手を振り上げた。平手打ちを食らわそうとしたその腕を押さえつけた黎と掴み合いになり、場は騒然となる。
「おやめなさい!」
ルカスの苛烈な一喝が轟く。
しんと静まり返る室内で靴音を響かせたルカスは、天の前にやってきた。
「すべての元凶はあなたです。選びなさい。六名で罪を分け合い、ひと月の刑務に服したあと故郷に戻るか。あなたひとりで罪を負い、一生を刑務庭で過ごすか」
一生という時間の重みに絶望感が増す。六名分の服役を足せば半年になると思うのだが、それだけ天自身の罪が重いということなのだろう。
「遅れて申し訳ございません!」
靴音を鳴らしてこちらにやってきたルカスは、跪いた天を冷淡に見下ろす。
「遅刻により、同室六名に懲罰を与えます。懲罰の内容は刑務庭送り。妃候補の資格も剥奪します」
「えっ……」
無情に宣告された懲罰の内容に呆然とする。
刑務庭とは王宮で罪を犯した者が送られるところで、定められた期間を服役しなければならないと聞く。牢獄もあり、罪が重ければ死を賜るという。さらに妃候補の資格を剥奪されるということは、もう復帰できないことを示していた。
これまでの懲罰は正座や追加の掃除といった内容だったのに、あまりにも重すぎるのではないだろうか。
「そんな……では、僕たちはもう王宮にいられないのですか?」
「今回は妃候補を選別する大事な試験です。それに遅刻するような者は元から必要ありません。あなたがたは王宮にいても無用ですから、刑務庭で反省したあと故郷へ帰るのがよろしいでしょう」
王宮に、いられなくなる。
そのとき天の脳裏を掠めたのは、エドに二度と会えなくなるという憂慮だった。
それがいかに身勝手な思いであるかということを、黎の叫びが証明した。
「待ってください! 俺たちは今まで協力して勉学や舞の稽古に励んできました。それなのに一回の遅刻で同室者全員を事実上追放にするなんて、ひどすぎます」
黎や皆は、妃になるために必死で頑張ってきたのだ。それなのに天は始めから妃になる気もなく、エドと逢瀬を重ねたゆえに大切な告知を聞き逃した。身勝手な己の行為で皆の将来を奪おうとしている。
僕のせいだ。僕がみんなを裏切ったんだ。
天の隣に跪いて懇願する黎へ、ルカスは冷徹に扇子の切っ先をむけた。
「あなたがたは、いかなる結果を出しましたか? 王家は善意であなたがたに勉学を教え、日々の糧を与えているわけではありません。どうしても妃候補の資格を失いたくないのなら、己は役に立つ存在だとまずは私に示しなさい」
ルカスの台詞に、隅に立っていた恵が微笑みながら前へ進み出る。
「ルカスさまにご報告がございます。天は毎日こっそり川辺に出かけて、獣人と密会していました。私は宮殿の裏にある通路から何度か目撃してしまったのです。今日遅刻したのも、逢い引きしていたからでしょう」
「なんですって? 本当ですか、天」
眉を跳ね上げたルカスは鋭く詰問した。
背筋を冷たいものが流れる。やはり恵には知られていたのだ。彼はこの切札を匂わせていたが、今こそ出すべきだと判断した。
室内がざわめきだす。ぎゅっと心臓を掴まれるような苦しさに喘ぎながら、天は正直に肯定した。
「……はい。本当です」
「その獣人は何者です。逢い引きだなんて、王に対する重大な裏切り行為ですよ。事実だとしたら数日の刑務庭送りでは済まされません」
「……言えません。でも、逢い引きではありません。彼とは友人です」
自らの罪は認めなければならないが、エドに非はない。天が彼に会いたいと希ったのだ。すべて自分の責任だ。エドの名を出せば、彼が降格などに処されてしまいかねない。それだけは避けなければならなかった。
友人だなんて白々しい、ひとりで罪を被るべきだと同室者から口々に罵られる。
エドと特別な関係になりたいという望みはなかったと、明言できなかった。だから誰にも言えなかったのだ。
涙ぐむ天と、告発した恵を交互に見遣った黎は声を上げた。
「おい、仲間を売るのはよせよ。恵が遅刻したときも、天は一緒に懲罰を受けてくれただろ。自分が助かりたいからって、ひとを突き落とすなよ!」
恵は視線を彷徨わせた。役に立つことを示せば妃候補を剥奪しないという条件をルカスが提示したので、天を密告して懲罰を逃れようという算段なのは明らかだった。
けれど恵の行いを責めることなど天にはできない。恵の告白はすべて事実なのだから。
憤然とした恵は黎を睨みつける。
「私はなにも悪くない。王への裏切りを報告するのは妃候補としての義務だ。そんなに仲間が大事なら、仲良く刑務庭に堕ちて慰め合えばいいさ」
「おまえみたいな腹黒が妃に見初められるわけないんだからな。勘違いするなよ!」
「なんだと!? 下級役人の家柄のくせに、私を侮辱するな!」
激昂した恵は手を振り上げた。平手打ちを食らわそうとしたその腕を押さえつけた黎と掴み合いになり、場は騒然となる。
「おやめなさい!」
ルカスの苛烈な一喝が轟く。
しんと静まり返る室内で靴音を響かせたルカスは、天の前にやってきた。
「すべての元凶はあなたです。選びなさい。六名で罪を分け合い、ひと月の刑務に服したあと故郷に戻るか。あなたひとりで罪を負い、一生を刑務庭で過ごすか」
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