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その後の伝説の妃 3
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レオニートは皇帝なのに、ふたりきりのときは自らお茶を淹れてくれる。
銀製のサモワールからティーポットを取り、精緻な模様が描かれた陶器のティーカップにお茶を注ぎながら、レオニートは物憂げな顔を見せた。
「結羽が天を見上げるたびに、星に攫われてしまうのではないかと心配になるのだ」
「ふふ。そんなわけありませんよ。レオニートは詩人みたいですね」
ティーカップを傾けながら、結羽は笑った。
チヤーガと呼ばれる白樺茸のお茶はノンカフェインで、健康に良いものだ。
愛する人の淹れてくれたお茶は体に染み渡り、身も心もほっとさせてくれる。
レオニートも優雅な所作でティーカップのお茶を含む。すると、彼は深い溜息を零した。
「やはり結羽は遠い世界の人だから、いずれ帰ってしまうのではないかという憂慮が私の胸の裡から拭えないのだ。君が私たちを置いてどこかへ行ってしまうわけがないと、わかってはいるのだが……」
レオニートは不安なのだ。
改めて、自分が異世界人であることを申し訳なく思い、結羽は目を伏せた。
だがレオニートは不安を吐露すると、あっさりそれを覆す。
「まあ、結羽がどこへ行こうとも、霊峰まで追いかけたときと同じように、どこまでも迎えに行くだけなのだが。たとえ異世界だろうが違う星だろうがね」
「霊峰のときは、すみませんでした……今後は必ず相談しますから」
謝罪すると、レオニートはきらりと紺碧の瞳を煌めかせる。
「では、昼間のことを話し合いたいのだが。君は孕まなければ私の妃にはならなかったと言ったな?」
「え、ええ……そうなったかなと……思いますけど……」
「つまり、偶然孕んだから、私が妃に指名したと思っているのか?」
「ええと……そういうことじゃなかったんですか……?」
レオニートが何を言いたいのかわからず、目を瞬かせながら答える。
すっとティーカップをソーサーに戻したレオニートは、まっすぐに紺碧の双眸を向けてきた。
「私は、君を愛しているから妃にした。孕ませた責任を取るためなどと思われては、大変心外だ」
純粋な想いを受けた結羽は、かぁっと頬を染める。
結羽を妃にした理由はあくまでも愛しているからだと、レオニートは明確にしておきたいのだ。
「ぼ、僕も、レオニートを愛しています。孕ませた責任を取ってもらっただなんて、思っていません。ただ、その、妊娠したタイミングがですね……」
「確かに、そう思われても仕方のないタイミングではあったな。そのとおりだ。今だから懺悔しよう。私は別荘の一夜で、結羽が孕めばよいと願っていた」
「……はい?」
驚きのあまり、茫然とした結羽はティーカップを持ったまま固まってしまう。
レオニートは淡々と暴露を始めた。
「君の体の奥に精を注ぎながら、結羽が孕めば堂々と妃に迎えられると画策していたのも事実だ。もちろん、愛しているから中に出したいという気持ちもあった。私の浅慮により、そのあと君に多大な心労を与えてしまったことを謝罪しよう。一生をかけて償わせてもらう」
レオニートがそのような想いを抱いていたとは全く気づかなかった。
しかも中に出すだとか、彼の口から堂々と恥ずかしいことを告げられ、結羽は唖然として端麗な相貌を眺めることしかできない。
「そ、そうだったんですね。……ということは、レオニートは孕ませた責任をわざと作ったということでしょうか……?」
「そうだな。私は孕ませた責任を取りたかったのだ」
「……ついさっき、孕ませた責任を取るためなんて思われるのは心外だとか耳にしたような気がしますけど」
形ばかり唇を尖らせて指摘すると、まるで降参とでも言うような仕草で、レオニートは両手を掲げる。
「すまない。結局、私はどんな手段を用いてでも君と結婚したかったのだ。傍にいてほしかった。私を汚い男と罵ってくれていい。だが、君を愛しているのは誓って真実だ」
くすりと微笑みが零れた。
普段は威厳に満ちている皇帝のレオニートも、夫婦の部屋では困り切ったような表情を見せてくれる。
孕むことを願っていたという告白には驚いたけれど、それも結羽を愛してくれているゆえなのだ。
あのときから、愛されていた。
別荘での一夜はもしかしたら、ひとときの戯れかもしれないと思っていたのに。
「罵ったりしませんよ。レオニートは僕の大切な夫です。結婚してくれて、とても感謝しています」
その答えに、紺碧の双眸が悪戯めいて輝く。
「うん? そうか? 許してくれるのか」
「もちろんです。レオニートがどんなことを画策していようと、僕はすべて許します」
「ほう……そうか。すべてを許してくれるのか」
銀製のサモワールからティーポットを取り、精緻な模様が描かれた陶器のティーカップにお茶を注ぎながら、レオニートは物憂げな顔を見せた。
「結羽が天を見上げるたびに、星に攫われてしまうのではないかと心配になるのだ」
「ふふ。そんなわけありませんよ。レオニートは詩人みたいですね」
ティーカップを傾けながら、結羽は笑った。
チヤーガと呼ばれる白樺茸のお茶はノンカフェインで、健康に良いものだ。
愛する人の淹れてくれたお茶は体に染み渡り、身も心もほっとさせてくれる。
レオニートも優雅な所作でティーカップのお茶を含む。すると、彼は深い溜息を零した。
「やはり結羽は遠い世界の人だから、いずれ帰ってしまうのではないかという憂慮が私の胸の裡から拭えないのだ。君が私たちを置いてどこかへ行ってしまうわけがないと、わかってはいるのだが……」
レオニートは不安なのだ。
改めて、自分が異世界人であることを申し訳なく思い、結羽は目を伏せた。
だがレオニートは不安を吐露すると、あっさりそれを覆す。
「まあ、結羽がどこへ行こうとも、霊峰まで追いかけたときと同じように、どこまでも迎えに行くだけなのだが。たとえ異世界だろうが違う星だろうがね」
「霊峰のときは、すみませんでした……今後は必ず相談しますから」
謝罪すると、レオニートはきらりと紺碧の瞳を煌めかせる。
「では、昼間のことを話し合いたいのだが。君は孕まなければ私の妃にはならなかったと言ったな?」
「え、ええ……そうなったかなと……思いますけど……」
「つまり、偶然孕んだから、私が妃に指名したと思っているのか?」
「ええと……そういうことじゃなかったんですか……?」
レオニートが何を言いたいのかわからず、目を瞬かせながら答える。
すっとティーカップをソーサーに戻したレオニートは、まっすぐに紺碧の双眸を向けてきた。
「私は、君を愛しているから妃にした。孕ませた責任を取るためなどと思われては、大変心外だ」
純粋な想いを受けた結羽は、かぁっと頬を染める。
結羽を妃にした理由はあくまでも愛しているからだと、レオニートは明確にしておきたいのだ。
「ぼ、僕も、レオニートを愛しています。孕ませた責任を取ってもらっただなんて、思っていません。ただ、その、妊娠したタイミングがですね……」
「確かに、そう思われても仕方のないタイミングではあったな。そのとおりだ。今だから懺悔しよう。私は別荘の一夜で、結羽が孕めばよいと願っていた」
「……はい?」
驚きのあまり、茫然とした結羽はティーカップを持ったまま固まってしまう。
レオニートは淡々と暴露を始めた。
「君の体の奥に精を注ぎながら、結羽が孕めば堂々と妃に迎えられると画策していたのも事実だ。もちろん、愛しているから中に出したいという気持ちもあった。私の浅慮により、そのあと君に多大な心労を与えてしまったことを謝罪しよう。一生をかけて償わせてもらう」
レオニートがそのような想いを抱いていたとは全く気づかなかった。
しかも中に出すだとか、彼の口から堂々と恥ずかしいことを告げられ、結羽は唖然として端麗な相貌を眺めることしかできない。
「そ、そうだったんですね。……ということは、レオニートは孕ませた責任をわざと作ったということでしょうか……?」
「そうだな。私は孕ませた責任を取りたかったのだ」
「……ついさっき、孕ませた責任を取るためなんて思われるのは心外だとか耳にしたような気がしますけど」
形ばかり唇を尖らせて指摘すると、まるで降参とでも言うような仕草で、レオニートは両手を掲げる。
「すまない。結局、私はどんな手段を用いてでも君と結婚したかったのだ。傍にいてほしかった。私を汚い男と罵ってくれていい。だが、君を愛しているのは誓って真実だ」
くすりと微笑みが零れた。
普段は威厳に満ちている皇帝のレオニートも、夫婦の部屋では困り切ったような表情を見せてくれる。
孕むことを願っていたという告白には驚いたけれど、それも結羽を愛してくれているゆえなのだ。
あのときから、愛されていた。
別荘での一夜はもしかしたら、ひとときの戯れかもしれないと思っていたのに。
「罵ったりしませんよ。レオニートは僕の大切な夫です。結婚してくれて、とても感謝しています」
その答えに、紺碧の双眸が悪戯めいて輝く。
「うん? そうか? 許してくれるのか」
「もちろんです。レオニートがどんなことを画策していようと、僕はすべて許します」
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