一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

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二十三話

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 紗英は、この楽しい時間が、ずっと続いてくれたらいいなと思い始めていたから。
「また近いうちにデートしよう。きみと一緒に過ごしたい」
「はい……私も、悠司さんと一緒にいたいです」
 ふたりのこの関係は、まだこの先も続くのだ。
 そう思うと、ふたりの関係がどうなっていくのかという不安もあるけれど、たとえ仮であっても一応は恋人なのだという誇らしさが胸に湧いた。
 やがて車は待ち合わせをした駅の近くに辿り着く。紗英のアパートはすぐそこだ。
「ありがとうございました。ここで降ろしてください」
「こんな真っ暗な道で女性を降ろせないよ。家の前まで送る」
「あ……それじゃあ、お願いします。すぐそこなんです」
 ややあってアパートが見えてくると、ふと紗英は思った。
 今夜は、しないのかな……?
 でもまさか、「セックスしないんですか?」なんて聞けない。
 それとも、送ってくれて紗英の部屋にあがり、そこで……とか、そういう流れなのだろうか。
 紗英の胸に期待と戸惑いが入り混じる。
 ついに、アパートの真横に車が着いてしまった。
 紗英は勇気を出して、悠司に声をかける。
「あの、部屋でコーヒーでも飲んでいきませんか?」
 セックスに誘っているわけではない。送ってもらったので、部屋に誘うのは礼儀的なことだった。
 だが悠司は薄い笑みを浮かべて、首を横に振る。
「今日は遠慮しておくよ。きみの思い出を、美しいままで残しておきたいから」
「……え?」
 目を瞬かせる紗英に、悠司は微笑みを向けた。
「きみの部屋で狼になって、嫌われたくない。自制できる自信がないんだ」
 紗英は目を見開いた。
 彼は紗英とセックスしたいと望んでいるのだ。
 それを、初デートなので自制すると彼は言っている。
 抱いてくれてもいいのに……。
 ふとそう思ってしまった紗英は、慌てて自分の思いを打ち消す。
 どうしてそんなことを思ってしまったのだろう。
 紗英だって決して、セックスしたいなんて思っているわけじゃないのに。これではまるで好色な女みたいだ。
「わかりました。それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
 悠司の言い分を受け止め、あくまでも平静に挨拶をした。
 車を降りると、紗英は車内の悠司に手を振る。
 悠司も手を振り返してくれた。
 車は音もなく滑り出し、道の向こうへ消えていく。その後ろ姿を、紗英はずっと見送っていた。
 甘酸っぱい想いで、胸がいっぱいになっていた。
 紗英が髪を結っているピンクのシュシュが、月明かりにきらりと光った。

三、出張の淫靡な夜

 悠司とのデートから二週間ほどが経過した。
 営業部は伊豆の新規施設の仕事で手一杯になっていた。
 問い合わせの電話に答えて顧客を獲得するだけではなく、施設がオープンしたら販売の目玉となるイベントなども考えなくてはならない。
 ただ現地視察を行って、メインに販売するのは、『ベストシニアライフ伊豆』のチームリーダーである桐島課長と山岡の二名だ。中年の山岡はいくつもの地方施設を手がけてきたベテランである。
 ほかの営業部員は、自分の手持ちの顧客の契約などもあるので、新規施設への問い合わせに対する電話応対くらいしか手伝えないのが現状である。それでも広告を打つと、一日中電話が鳴りやまないほどの問い合わせがかかってくる。伊豆の施設は工事中なので、入居できるのはまだ先なのだが、契約がまとまり出していた。
 そういうわけで新規施設のチームではなくとも、状況を知っておくのは営業として常識だった。
「伊豆の人気は好調ですね。この調子なら、すぐに販売枠が埋まってしまうんじゃないでしょうか」
 デスクの電話を置いた紗英は、課長のデスクに座る悠司に声をかけた。
 今の電話も、「ぜひ伊豆の新しい施設を見学したい」というお客様からの電話だった。紗英は仮の担当となり、コンタクトを取ることを約束した。いずれは伊豆担当の営業に案件を預けることになる。おそらく山岡が担当者になるだろうが、紗英が請け負った仮担当だけで十件ほどに上っていた。
 悠司は書類を眺めながら、平静に言った。
「立地がいいからな」
 その悠司を、気まずそうな顔をした山岡がデスクから見やった。
 なにかあるのだろうか。
 施設の成約は好調なはずなのに、両者の空気はなぜか冷えている気がする。
 小首をかしげた紗英がパソコンでデータを作成していると、フロアに本部長が顔を出した。
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