31 / 56
三十一話
しおりを挟む
「はあはあ……悠司さん、疲れませんか?」
「少しね。でも、役得だから平気だよ」
「え? 役得って、なにがですか?」
紗英が首をかしげると、悠司は誰もいないのにこっそりと囁いた。
「きみの胸が背中に押しつけられていたから、嬉しくて何度も往復したんだ」
かぁっと顔が熱くなる。
裸なのをすっかり忘れていた。それくらい泳ぐのに熱中していたから。
悠司の背中に乗るような格好だったので、紗英の胸は、ぎゅうっと押しつけられていたのだ。
「もう、悠司さんったら! エッチなんだから」
顔を真っ赤にした紗英は掬い上げた水を、ばしゃりと悠司にかける。
水をかぶった悠司は軽やかに笑いながら、てのひらで掬った水を紗英にかけた。
「やったな、お返しだ」
「あはは!」
ふたりは子どものような笑い声を上げながら、夢中になって水をかけ続ける。
まるで童心に返ったようだった。
やがて、紗英の手が止まった隙に、悠司にしっかりと体を抱き留められる。
逞しい腕に囚われてしまい、もう手を動かせない。
笑いが止まらない紗英は、悠司の腕の中でいやいやと体を捩った。
「あはは……もう、降参です」
すると、ふいに真摯な表情をした悠司にくちづけられる。
チュ、と唇が触れ合うと、悠司は少しだけ顔を離す。間近からふたりは見つめ合った。
悠司の双眸に、きらきらと七色の光が映り込んでいる。
それを紗英は、天国のように美しいと思った。
惹かれ合ったふたりは、ゆっくりと唇を重ねる。
キスはまるで神聖な儀式のごとく、長く続けられた。
くちづけのあと、ふたりはプールで愛を交わし合った。
プールサイドのチェアに並んで体を休めていると、悠司は優しく紗英の髪を撫でてくる。
「すごく可愛かったよ」
「ん……」
紗英は曖昧に頷いた。
まだ体の火照りが収まらない。
プールで行為に及ぶなんて初めてだ。屋外の解放感に溢れ、夢中で彼を求めてしまった。
星空の下で悠司と愛し合うのは、最高だった。
互いの髪や手に触れて、事後の戯れに興じていると、掠れた甘い声で悠司は聞いた。
「紗英は、俺に甘えられたかな?」
「あ……」
はっとした紗英は、彼を頼っていたことを知らされる。
泳ぎの不得意な紗英を、悠司は優しく導いてくれた。
それから、今の行為も、今までもずっと、リードしてくれたのは悠司だ。
それは、甘えたということなのだろうか。
考え込む紗英に、悠司は微苦笑を見せた。
「ごめん。難しいことを考えないで、のんびりしようと言ったのは俺だったね」
「ううん……私のほうこそ、ごめんなさい。いろいろ考えてしまって……悠司さんとのことを真剣に考えようと思うほど、私はどうせクズ男の製造機なんだ、って――」
言いかけた紗英の唇を、悠司はキスでふさぐ。
目を見開いた紗英は、濃厚なくちづけを受け止めた。
唇を離した悠司が、間近から見つめてくる。彼は、こつんと額を合わせた。
「きみはそんな女じゃないって言ったろ。マイナスなことを言って自分を責めるたびに、キスするよ」
「じゃあ、もう言いません」
「ん? それは、俺にキスされたくないみたいに聞こえるけど?」
悪戯めいた顔をした悠司の、少し長い前髪から滴る水滴が、色香を醸し出す。
くすっと笑った紗英は、悠司の瞳の奥にある煌めく光を覗き込んだ。
「キスは、されたいです」
そう言うと、彼はまた、チュとくちづける。
悠司のキスは甘くて優しくて、極上の幸福の味がした。
チュ、チュ、とキスの合間に、彼は囁く。
「好きだよ。離さないよ」
「ん……悠司さん……」
星の瞬きが燦爛と降ってくる。
奇跡が煌めくような夜に、ふたりは何度もキスを交わす。
静謐な空間には、くちづけの艶めいた音だけが響いていた。
五、御曹司とおうちデート
伊豆の施設が完成に近づくにつれ、仕事はいっそう忙しくなった。
紗英は悠司と仕事でしか会話を交わさず、休日出勤もあるので、デートの時間すら取れなかった。
少し寂しいとは思ったけれど、今は仕事が多忙なので仕方ない。
そんなときも、悠司はメッセージで『おはよう』『今日もがんばろうな』『おやすみ』など、まめに気遣ってくれるので、紗英の心はほっこりと温まっていた。それに返信するのも簡単なメッセージばかりだけれど、仕事だけでなく悠司とつながっているのだと思えて、心強かった。
「少しね。でも、役得だから平気だよ」
「え? 役得って、なにがですか?」
紗英が首をかしげると、悠司は誰もいないのにこっそりと囁いた。
「きみの胸が背中に押しつけられていたから、嬉しくて何度も往復したんだ」
かぁっと顔が熱くなる。
裸なのをすっかり忘れていた。それくらい泳ぐのに熱中していたから。
悠司の背中に乗るような格好だったので、紗英の胸は、ぎゅうっと押しつけられていたのだ。
「もう、悠司さんったら! エッチなんだから」
顔を真っ赤にした紗英は掬い上げた水を、ばしゃりと悠司にかける。
水をかぶった悠司は軽やかに笑いながら、てのひらで掬った水を紗英にかけた。
「やったな、お返しだ」
「あはは!」
ふたりは子どものような笑い声を上げながら、夢中になって水をかけ続ける。
まるで童心に返ったようだった。
やがて、紗英の手が止まった隙に、悠司にしっかりと体を抱き留められる。
逞しい腕に囚われてしまい、もう手を動かせない。
笑いが止まらない紗英は、悠司の腕の中でいやいやと体を捩った。
「あはは……もう、降参です」
すると、ふいに真摯な表情をした悠司にくちづけられる。
チュ、と唇が触れ合うと、悠司は少しだけ顔を離す。間近からふたりは見つめ合った。
悠司の双眸に、きらきらと七色の光が映り込んでいる。
それを紗英は、天国のように美しいと思った。
惹かれ合ったふたりは、ゆっくりと唇を重ねる。
キスはまるで神聖な儀式のごとく、長く続けられた。
くちづけのあと、ふたりはプールで愛を交わし合った。
プールサイドのチェアに並んで体を休めていると、悠司は優しく紗英の髪を撫でてくる。
「すごく可愛かったよ」
「ん……」
紗英は曖昧に頷いた。
まだ体の火照りが収まらない。
プールで行為に及ぶなんて初めてだ。屋外の解放感に溢れ、夢中で彼を求めてしまった。
星空の下で悠司と愛し合うのは、最高だった。
互いの髪や手に触れて、事後の戯れに興じていると、掠れた甘い声で悠司は聞いた。
「紗英は、俺に甘えられたかな?」
「あ……」
はっとした紗英は、彼を頼っていたことを知らされる。
泳ぎの不得意な紗英を、悠司は優しく導いてくれた。
それから、今の行為も、今までもずっと、リードしてくれたのは悠司だ。
それは、甘えたということなのだろうか。
考え込む紗英に、悠司は微苦笑を見せた。
「ごめん。難しいことを考えないで、のんびりしようと言ったのは俺だったね」
「ううん……私のほうこそ、ごめんなさい。いろいろ考えてしまって……悠司さんとのことを真剣に考えようと思うほど、私はどうせクズ男の製造機なんだ、って――」
言いかけた紗英の唇を、悠司はキスでふさぐ。
目を見開いた紗英は、濃厚なくちづけを受け止めた。
唇を離した悠司が、間近から見つめてくる。彼は、こつんと額を合わせた。
「きみはそんな女じゃないって言ったろ。マイナスなことを言って自分を責めるたびに、キスするよ」
「じゃあ、もう言いません」
「ん? それは、俺にキスされたくないみたいに聞こえるけど?」
悪戯めいた顔をした悠司の、少し長い前髪から滴る水滴が、色香を醸し出す。
くすっと笑った紗英は、悠司の瞳の奥にある煌めく光を覗き込んだ。
「キスは、されたいです」
そう言うと、彼はまた、チュとくちづける。
悠司のキスは甘くて優しくて、極上の幸福の味がした。
チュ、チュ、とキスの合間に、彼は囁く。
「好きだよ。離さないよ」
「ん……悠司さん……」
星の瞬きが燦爛と降ってくる。
奇跡が煌めくような夜に、ふたりは何度もキスを交わす。
静謐な空間には、くちづけの艶めいた音だけが響いていた。
五、御曹司とおうちデート
伊豆の施設が完成に近づくにつれ、仕事はいっそう忙しくなった。
紗英は悠司と仕事でしか会話を交わさず、休日出勤もあるので、デートの時間すら取れなかった。
少し寂しいとは思ったけれど、今は仕事が多忙なので仕方ない。
そんなときも、悠司はメッセージで『おはよう』『今日もがんばろうな』『おやすみ』など、まめに気遣ってくれるので、紗英の心はほっこりと温まっていた。それに返信するのも簡単なメッセージばかりだけれど、仕事だけでなく悠司とつながっているのだと思えて、心強かった。
1
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる