一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

文字の大きさ
30 / 56

三十話

しおりを挟む
 別荘の壮麗な玄関扉が開かれて、屋内へ導かれた。
 ホールには磨き上げられた大理石の床が広がり、煌めくシャンデリアが吊されている。螺旋階段のある吹き抜けの天井は、とても優雅な空間だ。
「素敵ですね……」
「気に入ってくれたかな? プールはこっちにあるんだ」
 奥へ向かうと、広大なリビングには暖炉が設置されている。冬でも暖かく過ごせる仕様だ。
 フルハイトの窓の向こうには、薄闇にたゆたう水面が見える。
 そのとき、パッと照明が点いた。
 悠司がリモコンを操作したのだ。
 別荘には煌々と明かりが灯る。窓の外のプールは、紫に赤、青など七色に光り輝いた。
「わあ、綺麗!」
 思わず紗英は華やいだ声を上げる。
 プールの中についている照明が、水面を七色に染め上げている。
 周囲には椰子のような大木が植えられており、その隙間にあるライトがプールサイドを照らしていた。
 華やかなのに趣のある幻想的な光景は、非日常の世界だ。
 悠司が窓を開け放つと、心地よい夜風が吹いてきた。
「ここが秘密の場所だ。仕事を頑張っているきみへのご褒美だよ。なにも考えず、プールで泳ごう」
「はい……!」
 気分が盛り上がった紗英は、悠司とともにプールサイドへ出る。
 だが、とあることに気づいてしまった。
「あっ……悠司さん。私、水着を持ってないです」
 プールで泳ぐには水着が必要だ。
 そもそも、紗英は水着を持っていなかった。大人になってから、海やプールなどに出かけたことはないから。
 ところが悠司は驚きもせず、着ていたジャケットを脱ぐ。
「俺もだよ。裸で泳ごう」
「えっ⁉ 裸で?」
 プールで裸で泳ぐという発想がまったくなかったので、紗英は目を見開く。
 だが、ここは別荘のプールだ。しかも、悠司とふたりきり。
 平然とした悠司はシャツを脱ぎ捨てた。
 薄い筋肉をまとった体を、彼は惜しみなく月明かりに晒す。
 名匠が彫り上げた彫刻のような、見事な肉体だ。
「誰も見ていないし、誰も来ないよ。だから裸で泳ぐのも、服を脱ぎ捨てるのも自由だ」
 瞬く間に全裸になった悠司は、ざばりとプールに足から飛び込んだ。
 自由な彼に、紗英は呆気にとられる。
 頭から水をかぶった悠司は、両手で髪をかき上げた。
 そうすると彼の艶めいた魅力が増す。
「紗英もおいでよ。気持ちいいから」
「で、でも……脱ぐところを悠司さんに見られるのは恥ずかしいです」
「じゃあ、見ないから」
 そう言うと、悠司は伸びやかにクロールを始めた。
 華麗な泳ぎを見せる彼を眺めつつ、紗英は柱の陰に隠れて、服を脱ぐ。
 全裸になると、すうすうしてなんだか落ち着かなかった。
 けれど服を着たままプールに入るわけにはいかない。紗英は七色に光るプールに近づくと、そっと足を水面につけた。
 ザブンと首まで水に浸かる。
 水温はちょうどよかった。
 夏の太陽が隠れた夜は、ナイトプールに最適だった。
 ふう、と息を漏らした紗英は心地よさに浸る。
「気持ちいい……」
 少しだけ平泳ぎをしてみるが、もがいたようになってしまう。
 クロールで広いプールを四往復した悠司は、まるで魚のようにするりと泳ぎ、紗英の傍にやってきた。
 裸なので少し恥ずかしいと思ったけれど、悠司は気にしていないようだ。
 それに彼だって裸なのである。
「紗英は泳ぎは得意なの?」
「見ての通り、下手です……。どうやって泳いだらいいのか、わからないんですよね」
「一緒に泳ごう。俺が支えているから、バタ足をしてみて」
 悠司は紗英の肩を支えると、片手で平泳ぎを始めた。
 ほとんど彼の背に乗っているような形になるが、紗英は懸命にバタ足をする。
「すごい……! うまく泳げている気分です」
「上手だよ。泳ぐのは気持ちいい?」
「はい、とっても、気持ちいいです!」
 紗英は泳ぎに夢中になった。
 悠司の背中は大きくて広くて、安心感がある。
 彼のリードはとてもうまくて、あっという間にプールの端まで着いてしまった。
 もう一回、と言った悠司は、また紗英を背負うようにして泳ぐ。
 そうして何度もプールを往復した。
 楽しくて、時間を忘れて過ごした。こんなに無邪気になって泳ぐのは初めてかもしれない。
 やがて泳ぎ疲れたふたりは、プールの縁に掴まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜

yuzu
恋愛
 人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて…… 「オレを好きになるまで離してやんない。」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...