42 / 56
四十二話
しおりを挟む
もし、そんな未来があるのなら……。
紗英は束の間、悠司と結婚して、彼の子を産み育てて……という未来を思い描いた。
それは紗英にとって、希望に満ち溢れた幸せな未来だった。
悠司さんが目の前にいる今だけは、幸せな気持ちでいたい……。
誰かといて、こんなに幸せを感じることができたのは初めてだった。
ふたりの時間を大切にしたいと思えるのも初めて。
悠司といると、初めてという新鮮な喜びでいっぱいになれた。
やがて食事を終えたふたりは、ともに後片付けをした。
そして紗英はシャワーを浴び、悠司に借りた新品のバスローブを身につける。先ほど購入した化粧水は洗面台で使用した。
リビングのソファでどきどきして、入れ替わりにシャワーを浴びている悠司を待つ。
はっとした紗英は、エコバッグに残っていたコンドームの存在を思い出す。
「あ……そうだ。これが必要だよね」
立ち上がった紗英はエコバッグから、長方形のシンプルな箱を取り出した。パッケージを解いて、蓋を開けてみる。
すると、ずらりと連なったコンドームの袋が並んでいた。
これが……悠司さんの中心に……。
想像すると、かぁっと頬が熱くなる。
そのとき、バスルームから出てくる足音がした。
はっとした紗英は箱に蓋をして、ソファに腰を下ろす。
リビングにやってきた悠司は、バスローブをまとい、濡れた髪にタオルをかけていた。
そんな格好をすると、普段は隠れている彼の色気が匂い立つようだ。
彼はコンドームの箱を大事に両手で持っている紗英を目にし、苦笑を浮かべる。
「準備万端だね」
「あっ、これは、その……」
ソファに座った悠司は、長い腕で紗英の体を引き寄せる。
ちゅ、と頬にキスが降ってきた。
「悠司さんの唇、熱いですね……」
「風呂上がりだからね。紗英の頬も、温かいよ」
ぎゅっと紗英の体ごと抱きしめた悠司は、膝裏を掬い上げると、横抱きにする。
紗英は両手で箱を握りしめているので、彼の腕の中におとなしく収まるしかない。
「ベッドに連れていくよ。今夜はその箱の中身がなくなるまで、きみを抱きたい」
「悠司さんったら……」
頬を朱に染めた紗英を、悠司は寝室に連れ去った。
ベッドにそっと下ろされると、情熱的なキスが降ってくる。
ふたりは何度も体をつなげて快楽に溺れた。キスを交わして、きつく抱き合い、夜が白むまで睦み合った。
明けて日曜日の昼になっても、悠司は紗英を離そうとしない。
キスをして愛撫され、紗英は甘く掠れた声を零した。
「あん。悠司さん……お腹が空きません?」
「そうだな。なにか食べたら、またセックスしよう」
「ふふ。絶倫ですね」
「きみが可愛すぎるからだよ」
睦言を交わしながら、いちゃいちゃしていると、時間が経つのを忘れた。
そうしてふたりは愛欲の虜になった。
六、予期せぬ混迷
明けて月曜日――。
悠司のマンションに連泊した紗英は、早朝に自分の部屋に戻ってスーツへの着替えを済ませて出社した。
首回りには紺のスカーフを巻いている。
それも悠司が、首筋にキスマークをつけたからだ。
困るけれど、「紗英は俺のものだから」などと独占欲を滲ませられて、喜んでしまうのはどうしてだろう。
口元を緩ませた紗英はスカーフをいじりながらも、早足でフロアへ赴く。
車で一緒に行こうと悠司からは提案されたけれど、それではお泊まりが露見しかねないので断った。悠司はすでに出社しているだろう。
ところが、営業部のフロアに入ると、異変に気がつく。
電話のコール音が異常に鳴っているのだ。
「おはようございます……」
紗英の挨拶は鳴り響く電話の音でかき消された。
すでに出社している複数の社員が対応にあたっているが、とても手が回りきらない。
すべてのデスクの電話という電話がコール音を鳴らしている。こんなことは初めてだった。いったいなにが起こっているのだろう。
呆然としていた紗英に、木村が怒鳴り込んできた。
「どうするんですか⁉ 海東さんのせいですよ!」
「えっ、なに? なにが起こってるんですか?」
木村は責めるだけで、事情を説明することなく踵を返した。
課長のデスクに目を向けると、悠司も電話で話していた。
紗英は慌てて自分のデスクへ行き、鳴りっぱなしの電話を取る。
「お電話ありがとうございます。ベストシニアライフでございます」
紗英は束の間、悠司と結婚して、彼の子を産み育てて……という未来を思い描いた。
それは紗英にとって、希望に満ち溢れた幸せな未来だった。
悠司さんが目の前にいる今だけは、幸せな気持ちでいたい……。
誰かといて、こんなに幸せを感じることができたのは初めてだった。
ふたりの時間を大切にしたいと思えるのも初めて。
悠司といると、初めてという新鮮な喜びでいっぱいになれた。
やがて食事を終えたふたりは、ともに後片付けをした。
そして紗英はシャワーを浴び、悠司に借りた新品のバスローブを身につける。先ほど購入した化粧水は洗面台で使用した。
リビングのソファでどきどきして、入れ替わりにシャワーを浴びている悠司を待つ。
はっとした紗英は、エコバッグに残っていたコンドームの存在を思い出す。
「あ……そうだ。これが必要だよね」
立ち上がった紗英はエコバッグから、長方形のシンプルな箱を取り出した。パッケージを解いて、蓋を開けてみる。
すると、ずらりと連なったコンドームの袋が並んでいた。
これが……悠司さんの中心に……。
想像すると、かぁっと頬が熱くなる。
そのとき、バスルームから出てくる足音がした。
はっとした紗英は箱に蓋をして、ソファに腰を下ろす。
リビングにやってきた悠司は、バスローブをまとい、濡れた髪にタオルをかけていた。
そんな格好をすると、普段は隠れている彼の色気が匂い立つようだ。
彼はコンドームの箱を大事に両手で持っている紗英を目にし、苦笑を浮かべる。
「準備万端だね」
「あっ、これは、その……」
ソファに座った悠司は、長い腕で紗英の体を引き寄せる。
ちゅ、と頬にキスが降ってきた。
「悠司さんの唇、熱いですね……」
「風呂上がりだからね。紗英の頬も、温かいよ」
ぎゅっと紗英の体ごと抱きしめた悠司は、膝裏を掬い上げると、横抱きにする。
紗英は両手で箱を握りしめているので、彼の腕の中におとなしく収まるしかない。
「ベッドに連れていくよ。今夜はその箱の中身がなくなるまで、きみを抱きたい」
「悠司さんったら……」
頬を朱に染めた紗英を、悠司は寝室に連れ去った。
ベッドにそっと下ろされると、情熱的なキスが降ってくる。
ふたりは何度も体をつなげて快楽に溺れた。キスを交わして、きつく抱き合い、夜が白むまで睦み合った。
明けて日曜日の昼になっても、悠司は紗英を離そうとしない。
キスをして愛撫され、紗英は甘く掠れた声を零した。
「あん。悠司さん……お腹が空きません?」
「そうだな。なにか食べたら、またセックスしよう」
「ふふ。絶倫ですね」
「きみが可愛すぎるからだよ」
睦言を交わしながら、いちゃいちゃしていると、時間が経つのを忘れた。
そうしてふたりは愛欲の虜になった。
六、予期せぬ混迷
明けて月曜日――。
悠司のマンションに連泊した紗英は、早朝に自分の部屋に戻ってスーツへの着替えを済ませて出社した。
首回りには紺のスカーフを巻いている。
それも悠司が、首筋にキスマークをつけたからだ。
困るけれど、「紗英は俺のものだから」などと独占欲を滲ませられて、喜んでしまうのはどうしてだろう。
口元を緩ませた紗英はスカーフをいじりながらも、早足でフロアへ赴く。
車で一緒に行こうと悠司からは提案されたけれど、それではお泊まりが露見しかねないので断った。悠司はすでに出社しているだろう。
ところが、営業部のフロアに入ると、異変に気がつく。
電話のコール音が異常に鳴っているのだ。
「おはようございます……」
紗英の挨拶は鳴り響く電話の音でかき消された。
すでに出社している複数の社員が対応にあたっているが、とても手が回りきらない。
すべてのデスクの電話という電話がコール音を鳴らしている。こんなことは初めてだった。いったいなにが起こっているのだろう。
呆然としていた紗英に、木村が怒鳴り込んできた。
「どうするんですか⁉ 海東さんのせいですよ!」
「えっ、なに? なにが起こってるんですか?」
木村は責めるだけで、事情を説明することなく踵を返した。
課長のデスクに目を向けると、悠司も電話で話していた。
紗英は慌てて自分のデスクへ行き、鳴りっぱなしの電話を取る。
「お電話ありがとうございます。ベストシニアライフでございます」
1
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長
『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。
ノースサイド出身のセレブリティ
×
☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員
名取フラワーズの社員だが、理由があって
伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。
恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が
花屋の女性の夢を応援し始めた。
最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?
財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す
花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。
専務は御曹司の元上司。
その専務が社内政争に巻き込まれ退任。
菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。
居場所がなくなった彼女は退職を希望したが
支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。
ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に
海外にいたはずの御曹司が現れて?!
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる