一途な御曹司の甘い溺愛~クズ男製造機なのでお付き合いできません!~

沖田弥子

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五十一話

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 強い意志を持つことができたのも、悠司のおかげだ。
 彼と接した日々がなければ、きっと今も依存されて、利用されるばかりの女でいただろう。
 街の明かりが次々に通り過ぎる。
 ハンドルを握った悠司は、力強い声でひとこと放った。
「俺が、きみを守る」
「悠司さん……」
 でも、彼は叔父の勧めた見合い相手がいるはずだ。婚約したなら、もう紗英との関係を続けることはできないだろう。
 うつむいた紗英は、小さな声で問いかけた。
「どうして私のところに来てくれたんですか……? 叔父さんが勧める令嬢と顔合わせがあったんじゃないんですか?」
「俺がきみを放って、ほかの女性と会うわけがないだろう」
「でも、悠司さんは令嬢と結婚する未来がありますよね? 私とはかりそめの恋人なんだし……」
「それについてなんだが、マンションに戻ったら、きちんと話をしよう」
「……わかりました」
 依存するクズ男を撥ねのけることができたように、悠司とのことについても、きちんと向き合わなければならないと、紗英は心に決めた。
 もう、『強い子』の仮面を被ったままの弱い自分ではないから。

六、愛する彼からのプロポーズ

 やがて車はマンションのある高級住宅街へ辿り着いた。
 マンション地下の駐車場に入庫すると、ふたりは車を降りる。
 きゅっと、悠司は手をつないできた。
 彼の体温が伝わり、これまで不安だった紗英の胸には安堵が広がる。
 エレベーターで三階の角部屋へ着くと、カードキーで解錠した悠司は室内へ招き入れた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
 またこの部屋を訪れることができるなんて、嬉しい。
 リビングの窓に広がる夜景を眺めた紗英は、とりあえず紙袋をそっと床に置いた。
 ジャケットを脱いだ悠司は、キッチンに入る。
「紅茶でも淹れよう。紗英は座ってて」
「あ、紅茶は……」
 茶葉を買ってあるのだが、ティーポットなどのこし器がなければ飲めない。
 ひしゃげてしまった紙袋から中身を取り出した紗英は、商品の状態を確認した。
 茶葉の缶は無事だが、ティーポットと、ふたつのマグカップは無残に割れてしまっている。これでは捨てるしかない。
 落胆を隠せない紗英の前に、マグカップをふたつ持ってやってきた悠司は、破壊された陶器を見て眉を寄せた。
「ひどいな。買ったばかりだったんだろ?」
「……はい。あ、でも、この猫のマグカップは悠司さんと使うつもりだったわけじゃなくて、可愛かったので、飾るために買っただけですけども……」
 言い訳めいたことを呟く紗英に、悠司は温かい湯気が立ち上るマグカップを手渡した。彼は口元に弧を描いている。
「ふうん。俺と使うつもりじゃないんだ。ふたつ合わせると猫がキスしてるなんて、恋人用じゃないか」
「……だって、私たちは、かりそめの恋人でしょう?」
 ソファに腰を下ろした悠司は、テーブルに無地のマグカップを置いた。彼は真摯な双眸を、紗英に向ける。
「もとは勝負のことを俺が言い出したから始まったようなものだな。『俺がクズ男になったら、俺の負け。きみのことは諦める。ただし、きみが俺に惚れて甘えられたら、俺の勝ち。俺の言うことを聞いてもらう』その勝負のために、仮の恋人という関係になろうと、俺は提案した」
「そうでしたね……」
 今さらだが、すでに勝負はついたようなものだ。
 悠司がクズ男になることなどなかった。それどころか、彼はクズ男から紗英を守ってくれた。そして紗英は何度も悠司に甘えて、彼に惚れることになった。
 勝負は完全に悠司の勝ちである。
 だが、そうなったときに、悠司の言うことに従わないといけないらしいが、それはなんだろう。
「きみの判定結果としては、どうだった? 俺はクズ男に変わったか?」
 紗英は大きく首を横に振る。
「とんでもないです。悠司さんはクズ男なんかじゃありません。私があなたをクズ男に変えてしまうなんて思ったのは、傲慢でした。自立している悠司さんが、自堕落に変わってしまうなんてことがあるわけなかったんです。私はあなたと接していて、それがはっきりわかりました」
「それじゃあ、紗英は俺に甘えてくれたかな?」
「……そうですね。私は悠司さんに教わるまで、甘えるという正しい意味を知らなかったんですけど、それは依存とは違って、小さなことをお願いするとか、手をつなぐとか、肩にもたれるとか……そういうことだと知りました。私は悠司さんにたくさん甘えられました」
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