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瘡蓋 #11
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彼女は、ドアに鍵をかけた私を不思議そうな顔をして見上げた。
今から何をされるのか、全く予想がつかないというのだろうか。
『菜々さん。絵は、描き始めましたか?快楽に溺れる人の、絵。』
そう問いかけると、彼女は少し気まずそうな顔をして首を横にゆっくりと振った。
「何だかこう…。虚無感みたいなものが拭えなくて。彼氏と別れた、というのも原因かもしれないんですけど…。」
彼氏。
それは、彼女が以前言っていた、現場を目撃したという彼のことだろうか。
彼女は少し落ち込んだような、力ない笑顔で話を続けた。
「別れ際に、私は空っぽだ、と言われました。
その言葉がずっと引っかかっていて…。
でも、その通りだな、と思いました。
私には、私自身の気持ちもよくわからなければ、
相手の気持ちもよくわかりません。
…芸術は、やはり感情がないと、想いを込められないと思っているから。
今の私は、本当に、何もない。」
『でも、描きたい、と思っているじゃないですか。
描きたい、と思う気持ちがとても強いから、焦っている。』
そう伝えると、彼女は顔をあげて、じっと私の目を見つめた。
不安げな眼の中に、反射した蛍光灯の色が揺らめいている。
彼女は、真っ白なのだ。
本来あるはずの個性や欲求という自分の色に、上から最後に真っ白な絵の具をかけられたような、そんな白さだ。
その白い絵の具を削り取り、下に埋もれた色を見つけ出すのか。
それとも、別の色を上から塗り潰すのか。
いずれにせよ、自分が彼女に色を与えようとしているということは間違いない。
それは、罪悪感を孕んだ、支配欲。
『焦ることなんて、ない。
今まで自分の気持ちを押し殺してきた分、
自分が少しでもやりたい、と思う気持ちを大切にしてください。
そうすれば自然と、自分の中から気持ちが湧き上がってくる。
空っぽなんかじゃ、ない。』
座る彼女に近づき、頬にそっと触れると、反射的にびくりと体を震わせる。
先ほどまでの不安げな表情が、少しずつ恥ずかしがる乙女のような表情に変わっていく様が愛らしい。
『菜々さんは綺麗だ、と教えたはずです。それを理解していないようなので、もう一度教える事にします。』
「ど、どういう意味でしょうか…っふっ…!」
戸惑う彼女の唇を塞ぐと、ふわりと服から甘やかな花の匂いが香る。
口付けをしたまま彼女を椅子から立ち上がらせて腰を引き寄せると、頼りない細い腕が背中に回された。
2週間ぶりというのに、なんだかつい先日の事のように思い出される体。
徐々に深くなるキスに酔いしれて、彼女の口内をゆっくりと味わっていく。
大学校舎内で、キスを交わす教授と生徒。
背徳感が、理性を溶かし、欲情を加速させる。
「教授、待ってください。ここでそんな事をしたら…」
『名前、なんて呼ぶんだっけ?』
唇を離すと、すぐに抵抗の台詞を述べる彼女に、間髪を入れずに制する言葉を重ねる。
彼女は私の目を見ると、耳まで赤く色付き、恥ずかしそうに私のシャツに顔を寄せた。
「晴一さん…。」
名前を呼ぶ声に、スイッチが入る。
『おいで。』
彼女の腕をゆっくりと引くと、私はある場所へ導いた。それは、研究室の奥の隅に置いてある、デッサンや作品を作る際に使用する大きな鏡の前。
自分の身長よりも大きいその鏡は、2人分の体を鮮明に映し出す。
鏡越しに彼女を見ると、その目は、緊張と恥ずかしさからか、少し涙を浮かべていた。
『自分の姿を、よく見ていてください。とても官能的だという事がわかるから。』
首筋にキスを落とし、鎖骨へと舌を這わせる。
膝丈のスカートの上から、ゆっくりと太ももをなぞっては往復する。
それだけで、上がっていく息遣い。
言われた通りに、彼女は真っ直ぐ鏡を見る。
その眼の色は自分が刺激を与えるごとに、どんどん女の色に変化していく。
少しずつ快感が深まるにつれて、脚にも力が入り、内股気味になって震えてくる。
『脚、力を抜いて。』
間に手を割り入れると、震えながらも、素直に従う姿が愛おしくて。
少しずつ上へと指を這わせていくと、中心に向かって熱気が溢れ、辿り着いた行き止まりの下着越しに、ぬるりとした感触が指に伝わる。
「あっ…」
『欲情しているね。』
彼女は、自分の口元を自分の手で押さえては、ふるふると首を横に振った。
「晴一さん…、すごい、恥ずかしくて…。他の生徒が来たらと思うと…。」
必死に小さな声で訴えかけるその目は、言葉とは裏腹に、物欲しそうで。
思わず笑みがこぼれる。
『鍵を締めてあるし、ブラインドも降ろしてあるから大丈夫です。
…後は、菜々さんが声を出さなければ、ね。』
今から何をされるのか、全く予想がつかないというのだろうか。
『菜々さん。絵は、描き始めましたか?快楽に溺れる人の、絵。』
そう問いかけると、彼女は少し気まずそうな顔をして首を横にゆっくりと振った。
「何だかこう…。虚無感みたいなものが拭えなくて。彼氏と別れた、というのも原因かもしれないんですけど…。」
彼氏。
それは、彼女が以前言っていた、現場を目撃したという彼のことだろうか。
彼女は少し落ち込んだような、力ない笑顔で話を続けた。
「別れ際に、私は空っぽだ、と言われました。
その言葉がずっと引っかかっていて…。
でも、その通りだな、と思いました。
私には、私自身の気持ちもよくわからなければ、
相手の気持ちもよくわかりません。
…芸術は、やはり感情がないと、想いを込められないと思っているから。
今の私は、本当に、何もない。」
『でも、描きたい、と思っているじゃないですか。
描きたい、と思う気持ちがとても強いから、焦っている。』
そう伝えると、彼女は顔をあげて、じっと私の目を見つめた。
不安げな眼の中に、反射した蛍光灯の色が揺らめいている。
彼女は、真っ白なのだ。
本来あるはずの個性や欲求という自分の色に、上から最後に真っ白な絵の具をかけられたような、そんな白さだ。
その白い絵の具を削り取り、下に埋もれた色を見つけ出すのか。
それとも、別の色を上から塗り潰すのか。
いずれにせよ、自分が彼女に色を与えようとしているということは間違いない。
それは、罪悪感を孕んだ、支配欲。
『焦ることなんて、ない。
今まで自分の気持ちを押し殺してきた分、
自分が少しでもやりたい、と思う気持ちを大切にしてください。
そうすれば自然と、自分の中から気持ちが湧き上がってくる。
空っぽなんかじゃ、ない。』
座る彼女に近づき、頬にそっと触れると、反射的にびくりと体を震わせる。
先ほどまでの不安げな表情が、少しずつ恥ずかしがる乙女のような表情に変わっていく様が愛らしい。
『菜々さんは綺麗だ、と教えたはずです。それを理解していないようなので、もう一度教える事にします。』
「ど、どういう意味でしょうか…っふっ…!」
戸惑う彼女の唇を塞ぐと、ふわりと服から甘やかな花の匂いが香る。
口付けをしたまま彼女を椅子から立ち上がらせて腰を引き寄せると、頼りない細い腕が背中に回された。
2週間ぶりというのに、なんだかつい先日の事のように思い出される体。
徐々に深くなるキスに酔いしれて、彼女の口内をゆっくりと味わっていく。
大学校舎内で、キスを交わす教授と生徒。
背徳感が、理性を溶かし、欲情を加速させる。
「教授、待ってください。ここでそんな事をしたら…」
『名前、なんて呼ぶんだっけ?』
唇を離すと、すぐに抵抗の台詞を述べる彼女に、間髪を入れずに制する言葉を重ねる。
彼女は私の目を見ると、耳まで赤く色付き、恥ずかしそうに私のシャツに顔を寄せた。
「晴一さん…。」
名前を呼ぶ声に、スイッチが入る。
『おいで。』
彼女の腕をゆっくりと引くと、私はある場所へ導いた。それは、研究室の奥の隅に置いてある、デッサンや作品を作る際に使用する大きな鏡の前。
自分の身長よりも大きいその鏡は、2人分の体を鮮明に映し出す。
鏡越しに彼女を見ると、その目は、緊張と恥ずかしさからか、少し涙を浮かべていた。
『自分の姿を、よく見ていてください。とても官能的だという事がわかるから。』
首筋にキスを落とし、鎖骨へと舌を這わせる。
膝丈のスカートの上から、ゆっくりと太ももをなぞっては往復する。
それだけで、上がっていく息遣い。
言われた通りに、彼女は真っ直ぐ鏡を見る。
その眼の色は自分が刺激を与えるごとに、どんどん女の色に変化していく。
少しずつ快感が深まるにつれて、脚にも力が入り、内股気味になって震えてくる。
『脚、力を抜いて。』
間に手を割り入れると、震えながらも、素直に従う姿が愛おしくて。
少しずつ上へと指を這わせていくと、中心に向かって熱気が溢れ、辿り着いた行き止まりの下着越しに、ぬるりとした感触が指に伝わる。
「あっ…」
『欲情しているね。』
彼女は、自分の口元を自分の手で押さえては、ふるふると首を横に振った。
「晴一さん…、すごい、恥ずかしくて…。他の生徒が来たらと思うと…。」
必死に小さな声で訴えかけるその目は、言葉とは裏腹に、物欲しそうで。
思わず笑みがこぼれる。
『鍵を締めてあるし、ブラインドも降ろしてあるから大丈夫です。
…後は、菜々さんが声を出さなければ、ね。』
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