とある小さな村のチートな鍛冶屋さん

トランキル帝国編

本能

ーーん？なんだ？やるのかぁ！？

レグルスが警戒するように構えたのを見て、ジェードは新しいオモチャを見つけたようにゴロォゴロォとご機嫌に喉を鳴らした。
ハラハラとしながらレグルスをよく見ると震えてる？呼吸も浅く、目の焦点が合ってない。

「ジェード、ダメだよ！その人はお客さま！」
ーーちぇー。
「レグルスも。この子は私の家族の1人だよ！」
「………… す、すまない」

ジェードをとめて、レグルスに向き合うと乱れた呼吸も、目の焦点も徐々に戻ってくる。
カランと棍を落として顔を下げるレグルスに首を傾げた。
そうだ、ニハルは？と見てみると、青白い顔ではあるがこちらも我に帰ったようだ。

「一体、どうしたっていうの？」
「眷属様なのはわかっているのだが……」

レグルスが言うには、獣人の獣のとしての本能的なものらしい。
自分よりも強い者を見ると、好戦的になってしまい我を忘れてしまうんだとか。
私がジェードを叱り、ジェードの目線が自身から外れたことで今の状況を思い出したそうだ。
ニハルの方も本能的な部分で、自分が敵わないとわかっているから怯えていたらしい。

ーー獣人の奴らはいつもそうなんだよなぁ。
「いつも？」
ーーおぅ。お前のとこに遊びによく来る猫のやつもよく尻尾をブワァっとさせて怯えているぞぉー
「猫のって、ジャンさん！？」

そういえば、たまに遊びにきてくれた時、笑顔が引き攣ってたような……
とりあえず、ジェードがいると2人とも普通ではいられないってことはわかった。

「ジェード」
ーーんー？なんだよぉー
「家の中でゆっくりしててくれる？少ししたらご飯作るから」
ーー早くしろよな、ノロマ！！

ご飯という言葉に耳をピンと立てて嬉しそうに家へと入るジェード。

「でも、眷属って他の子達も眷属だよ？」
「元となる生き物は草等を食べ、好戦的ではないだろ……牛とかは」
「ニハル」
「俺みたいな兎族だと、レグルスとかの獅子族だって本当は怖いんだ」
「もしかして、レグルスにやけに突っかかってたのは……」
「怖かったからだよ！！」

やけを起こしたかのように叫ぶニハルに、レグルスは苦笑する。
あー、だからニハルの態度にレグルスは怒ったりしなかったんだ。

「でも、ジェードは私の家族だからたびたび来るよ？」

その度に、あんな感じになるのは避けたい。
レグルスとニハルの武器は作りたいけど、私にとっては眷属のほうが大事だ。

「すまない。初めて会ったから、あんな態度をとってしまったがもう大丈夫だ。多分」
「お、俺も……」

……多分って本当に大丈夫なんだろうか？

その時、ひょっこりとジェードが顔を出しだ。

ーーおい、ノロマァ！！まだかよー！
「もう少ししたらいくから！！」
ーー早くしろよー！お腹、ペコペコなんだからなぁー

ぶつぶつと言いながらまた家へと入ったジェードを見送り、レグルスとニハルを見る。
目を見開いて、明らかに緊張している。
……獣人の本能って理性で止められるものなのかな……？