毒華は自らの毒で華を染める

夜船 紡

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泣き止み、ようやく心が落ち着いた時ノックの音が聞こえた。

「はい、どうぞ」
「失礼しますわ」
「!貴女は・・・あの時の」

姿を現したのは、ザクロ様の隣にいた少女だった。
なぜ、今更彼女が?

「ごめんなさい」

身構えたその時、少女が頭を下げた。

「わ、私・・・知らなかったんです。ザクロ様に婚約者がいることも、こんな事になっちゃうことも・・・わかってなくて・・・」

プルプルと震えながら、涙を瞳に溜める少女は可憐だ。
けれども、彼女が言うことが本当ならば、なぜザクロ様はあのような事を言ったのだろう。
それに、如何して私がここにいるのだろう?

「あの時、わ、私、人からの注目に耐えられなくて、アネモネ様の事、違うって言えな、言えなくて・・・私、私、あの後、公爵家に向かっていましたの・・・」

謝罪しに行くために公爵家に向かう途中の道で、私を見つけ、自分の家に連れ帰ったのだという。

「そう・・・」
「ごめんなさい。アネモネ様・・・」

ポロポロと涙を零す少女に私は眉をひそめた。
誰のせいだと思っているのだろう?
泣きたいのはこっちだ。
だいたい、社交界で私とザクロ様の婚約を知らない貴族がいるとは思えない。
だが、この少女にあったのは確かに初めてだった。

「貴女、誰なの?」
「あ・・・そうですよね、私のようなもの、アネモネ様が、知ってるわけ、ないですよね・・・」

ショックを受けたような顔をしながら、自虐げに少女は自身を名乗る。

「私はミュゲ・スノードロップと申します。伯爵家の娘です」

ミュゲ・・・
何処かで聞いたことがある。

「病弱で養生されていた・・・」
「はい、最近になって病気がマシになりこちらに参りましたの・・・」

そうか、それでザクロ様と自身のことを知らなかったのか・・・
でも、なぜそんな彼女を私が虐めたことになったのだろう?
そもそも何処でザクロ様と出会ったのだろう。

疑問が顔に出ていたのか、ミュゲは、ザクロ様との出会いを話し始めた。


「ザクロ様とは、城にご挨拶に伺った時、目眩がして倒れた所を助けていただいたのがきっかけでしたの」
「まあ」
「それから親しくなって・・・まさか、婚約者がいらっしゃったなんて!あの日、私も初めてわかって・・・」

では、なぜ虐められていることになったのだろう?
このミュゲという少女のせいではないのか?

「ザクロ様にあの後、問うと、嘘も突き通せば真実となる・・・と。私と一緒になるためにはこうするしかなかったのだと・・・」

下を向き、ポロポロと涙を零しながらミュゲは告げる。
そして、ガバリと顔をあげ、私に抱きついてきた。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・こんな、こんなことになるなんて」

私は彼女の抱擁に戸惑いながらも、抱きしめて、彼女の罪を許すことにした。
彼女は何も知らなかったならば、彼女もまた、ザクロ様の身勝手さの被害者なのだろうと。

「いいわ・・・。でも、私、これからどうしたら・・・」
「ここにいてください。私が一生アネモネ様のお世話をしますわ。・・・私にできることなんて、それ以外・・・ありませんもの」

アネモネ様から婚約者も、家族も奪ってしまったと自身を責めるミュゲに、とりあえず、どうするかが決まるまではお世話になると告げる。

先ほどまで泣いていたのが嘘のように、ふんわりとうなづく彼女は儚い花のようだった。



こうして、私はミュゲの罠に気づくことなく、巧妙な蜘蛛の巣に自ら飛び込んだのだった。
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