5 / 30
3
しおりを挟む
泣き止み、ようやく心が落ち着いた時ノックの音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
「失礼しますわ」
「!貴女は・・・あの時の」
姿を現したのは、ザクロ様の隣にいた少女だった。
なぜ、今更彼女が?
「ごめんなさい」
身構えたその時、少女が頭を下げた。
「わ、私・・・知らなかったんです。ザクロ様に婚約者がいることも、こんな事になっちゃうことも・・・わかってなくて・・・」
プルプルと震えながら、涙を瞳に溜める少女は可憐だ。
けれども、彼女が言うことが本当ならば、なぜザクロ様はあのような事を言ったのだろう。
それに、如何して私がここにいるのだろう?
「あの時、わ、私、人からの注目に耐えられなくて、アネモネ様の事、違うって言えな、言えなくて・・・私、私、あの後、公爵家に向かっていましたの・・・」
謝罪しに行くために公爵家に向かう途中の道で、私を見つけ、自分の家に連れ帰ったのだという。
「そう・・・」
「ごめんなさい。アネモネ様・・・」
ポロポロと涙を零す少女に私は眉をひそめた。
誰のせいだと思っているのだろう?
泣きたいのはこっちだ。
だいたい、社交界で私とザクロ様の婚約を知らない貴族がいるとは思えない。
だが、この少女にあったのは確かに初めてだった。
「貴女、誰なの?」
「あ・・・そうですよね、私のようなもの、アネモネ様が、知ってるわけ、ないですよね・・・」
ショックを受けたような顔をしながら、自虐げに少女は自身を名乗る。
「私はミュゲ・スノードロップと申します。伯爵家の娘です」
ミュゲ・・・
何処かで聞いたことがある。
「病弱で養生されていた・・・」
「はい、最近になって病気がマシになりこちらに参りましたの・・・」
そうか、それでザクロ様と自身のことを知らなかったのか・・・
でも、なぜそんな彼女を私が虐めたことになったのだろう?
そもそも何処でザクロ様と出会ったのだろう。
疑問が顔に出ていたのか、ミュゲは、ザクロ様との出会いを話し始めた。
「ザクロ様とは、城にご挨拶に伺った時、目眩がして倒れた所を助けていただいたのがきっかけでしたの」
「まあ」
「それから親しくなって・・・まさか、婚約者がいらっしゃったなんて!あの日、私も初めてわかって・・・」
では、なぜ虐められていることになったのだろう?
このミュゲという少女のせいではないのか?
「ザクロ様にあの後、問うと、嘘も突き通せば真実となる・・・と。私と一緒になるためにはこうするしかなかったのだと・・・」
下を向き、ポロポロと涙を零しながらミュゲは告げる。
そして、ガバリと顔をあげ、私に抱きついてきた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・こんな、こんなことになるなんて」
私は彼女の抱擁に戸惑いながらも、抱きしめて、彼女の罪を許すことにした。
彼女は何も知らなかったならば、彼女もまた、ザクロ様の身勝手さの被害者なのだろうと。
「いいわ・・・。でも、私、これからどうしたら・・・」
「ここにいてください。私が一生アネモネ様のお世話をしますわ。・・・私にできることなんて、それ以外・・・ありませんもの」
アネモネ様から婚約者も、家族も奪ってしまったと自身を責めるミュゲに、とりあえず、どうするかが決まるまではお世話になると告げる。
先ほどまで泣いていたのが嘘のように、ふんわりとうなづく彼女は儚い花のようだった。
こうして、私はミュゲの罠に気づくことなく、巧妙な蜘蛛の巣に自ら飛び込んだのだった。
「はい、どうぞ」
「失礼しますわ」
「!貴女は・・・あの時の」
姿を現したのは、ザクロ様の隣にいた少女だった。
なぜ、今更彼女が?
「ごめんなさい」
身構えたその時、少女が頭を下げた。
「わ、私・・・知らなかったんです。ザクロ様に婚約者がいることも、こんな事になっちゃうことも・・・わかってなくて・・・」
プルプルと震えながら、涙を瞳に溜める少女は可憐だ。
けれども、彼女が言うことが本当ならば、なぜザクロ様はあのような事を言ったのだろう。
それに、如何して私がここにいるのだろう?
「あの時、わ、私、人からの注目に耐えられなくて、アネモネ様の事、違うって言えな、言えなくて・・・私、私、あの後、公爵家に向かっていましたの・・・」
謝罪しに行くために公爵家に向かう途中の道で、私を見つけ、自分の家に連れ帰ったのだという。
「そう・・・」
「ごめんなさい。アネモネ様・・・」
ポロポロと涙を零す少女に私は眉をひそめた。
誰のせいだと思っているのだろう?
泣きたいのはこっちだ。
だいたい、社交界で私とザクロ様の婚約を知らない貴族がいるとは思えない。
だが、この少女にあったのは確かに初めてだった。
「貴女、誰なの?」
「あ・・・そうですよね、私のようなもの、アネモネ様が、知ってるわけ、ないですよね・・・」
ショックを受けたような顔をしながら、自虐げに少女は自身を名乗る。
「私はミュゲ・スノードロップと申します。伯爵家の娘です」
ミュゲ・・・
何処かで聞いたことがある。
「病弱で養生されていた・・・」
「はい、最近になって病気がマシになりこちらに参りましたの・・・」
そうか、それでザクロ様と自身のことを知らなかったのか・・・
でも、なぜそんな彼女を私が虐めたことになったのだろう?
そもそも何処でザクロ様と出会ったのだろう。
疑問が顔に出ていたのか、ミュゲは、ザクロ様との出会いを話し始めた。
「ザクロ様とは、城にご挨拶に伺った時、目眩がして倒れた所を助けていただいたのがきっかけでしたの」
「まあ」
「それから親しくなって・・・まさか、婚約者がいらっしゃったなんて!あの日、私も初めてわかって・・・」
では、なぜ虐められていることになったのだろう?
このミュゲという少女のせいではないのか?
「ザクロ様にあの後、問うと、嘘も突き通せば真実となる・・・と。私と一緒になるためにはこうするしかなかったのだと・・・」
下を向き、ポロポロと涙を零しながらミュゲは告げる。
そして、ガバリと顔をあげ、私に抱きついてきた。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・こんな、こんなことになるなんて」
私は彼女の抱擁に戸惑いながらも、抱きしめて、彼女の罪を許すことにした。
彼女は何も知らなかったならば、彼女もまた、ザクロ様の身勝手さの被害者なのだろうと。
「いいわ・・・。でも、私、これからどうしたら・・・」
「ここにいてください。私が一生アネモネ様のお世話をしますわ。・・・私にできることなんて、それ以外・・・ありませんもの」
アネモネ様から婚約者も、家族も奪ってしまったと自身を責めるミュゲに、とりあえず、どうするかが決まるまではお世話になると告げる。
先ほどまで泣いていたのが嘘のように、ふんわりとうなづく彼女は儚い花のようだった。
こうして、私はミュゲの罠に気づくことなく、巧妙な蜘蛛の巣に自ら飛び込んだのだった。
1
あなたにおすすめの小説
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる