8 / 14
8
しおりを挟む
ん・・・まだ少し薄暗い部屋は、いつもの自分の部屋ではない場所だと嫌でもわかった。夢じゃなかったのかと少し残念に思いながらベッドから降り、カーテンをめくる。
ほんのりと空の色が変わり始めていた。
ヴィーグさんは、いずれ戻れると言ったけれど、それがいつなのかはわからない。
世界が私という存在を認識した時に戻れるのだという。
それはどういうことなんだろうか・・・?
思考の海に潜り込もうとした時だった。
コンコンと控えめなノック音が扉の向こうから聞こえた。
「リーナさん?起きていらっしゃいますか?」
「はい、起きてます」
「私、トルテと申します。ヴィーグ様に頼まれて貴女を教育しに参りました」
「は、はい。今、扉を開けます」
トルテさんは背筋がシャキッとしていて清潔感のある女性だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「これが、貴女の着る制服です。着方はわかりますか?」
「は、はい」
「では、着てみてください」
じっと見つめられながら着るのは緊張するなぁ。
えーと、ここがああで、そこがこうで・・・
「・・・・参考までにいっておきますが、使用人からの貴女の評価はあまり良くありません。ここの使用人達は皆、厳しい試験を受けたり、名家の方々の紹介状があって初めて採用されています。フェルデ様が拾い、ヴィーグ様のご意見故に採用された貴女は、これから厳しい目を浴びることになるでしょう」
おそらく、返事は求めていない。ただの警告であり、注意喚起だ。もたもたとエプロンをつけていたら、「こうですよ」と手だけは優しく動かしてくれる。
「ましてや、お付きの使用人を学園に連れて行ったことなんてないのに、貴女だけ特別に連れていくと聞きました。余計に皆の悋気を煽ることになります」
「・・・はい」
「はい。出来ましたよ」
「ありがとうございました。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。私は貴女の教育係ですから」
私と向き合い、トルテさんは言う。
「だからこそ、誰の目から見ても完璧にこなせる様にならなければなりません。お励みなさい」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずは使用人達の食堂へ案内しましょう」
トルテさんはああやって言うことで私自身に気をつけるように教えてくれたのだろう。
自分にできる範囲内で、こうやっていってくれる人は貴重だ。やっぱり、この人は前世の時に接していた時と同じように優しい人だ。
彼女の後ろをついて歩いている間も、確かに厳しい目線を感じた。
でも、彼女達からしたら、私はぽっと出の素人が運良くここに来てしかも、フェルデという自分達が仕える人の近くに採用される。確かに、トルテさんのいった通り、自分が逆の立場でも嫌だろう。
とりあえず、何かされたりしないように自衛には気をつけておこう。
「ここが使用人の食堂です」
食堂は厨房が見えるカウンター式。お盆に乗ったご飯を受け取ったら空いてる座席に座って食べる。
パンはおかわりができるようにカウンター隣に少し積まれて置かれていた。
「美味しい・・・」
朝食だからだろう、パンとスープのみのお盆を手に取る。
少し硬いが、小麦の甘味がしっかりと出ているパン。ほんのりと暖かく野菜の旨味がたっぷりのスープには、牛脂が浮いており、これもまた旨味を出しているようだ。
昨日はタイムスリップした事と、これからのことを考えていた所為かお腹が空いていなかったが、ひと口食べると身体は飢えていたのを思い出したかのように急激に空腹を訴えてきた。
「手の空いた者から食事は順番に取ります。そして終わったらすぐに勤務に戻るように」
「はい」
手は止めず、食べながら返事をする。
食べ終わったお盆はお返し棚に置けば、厨房見習が下げてくれる仕組みだ。
「美味しかったです、ご馳走様」
丁度下げに来た見習にそういうと、「っす」と顔を下げて行ってしまった。
腹ごしらえが済んだら、いよいよ使用人のお仕事を覚えなくてはいけない。
・・・メモ帳が欲しいかもしれない。
その頃、リーナが食事に夢中の間、他の若い女性の使用人達は彼女をじっと見てコソコソと話をしていた。
「なんであんな子が・・・」
「馬鹿っぽい子よねー。私達の方が優秀そう」
「フェルデ様やヴィーグ様に色仕掛けでとりいったのかな?」
「えー?あんな身体でぇ?泣き落としじゃないかしらー?」
「どうでもいいわよ。それよりも、あんな子が私達を差し置いてお付きになるなんて本当にあり得ない。どうにかしてその座を奪えないかしら?」
「あの子に辞退するよう言えばいいんじゃない?」
「それよりも・・・・」
ひそひそ話は内緒話に変わり、皆、にやりと笑い、またリーナを見つめるのだった。
ほんのりと空の色が変わり始めていた。
ヴィーグさんは、いずれ戻れると言ったけれど、それがいつなのかはわからない。
世界が私という存在を認識した時に戻れるのだという。
それはどういうことなんだろうか・・・?
思考の海に潜り込もうとした時だった。
コンコンと控えめなノック音が扉の向こうから聞こえた。
「リーナさん?起きていらっしゃいますか?」
「はい、起きてます」
「私、トルテと申します。ヴィーグ様に頼まれて貴女を教育しに参りました」
「は、はい。今、扉を開けます」
トルテさんは背筋がシャキッとしていて清潔感のある女性だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「これが、貴女の着る制服です。着方はわかりますか?」
「は、はい」
「では、着てみてください」
じっと見つめられながら着るのは緊張するなぁ。
えーと、ここがああで、そこがこうで・・・
「・・・・参考までにいっておきますが、使用人からの貴女の評価はあまり良くありません。ここの使用人達は皆、厳しい試験を受けたり、名家の方々の紹介状があって初めて採用されています。フェルデ様が拾い、ヴィーグ様のご意見故に採用された貴女は、これから厳しい目を浴びることになるでしょう」
おそらく、返事は求めていない。ただの警告であり、注意喚起だ。もたもたとエプロンをつけていたら、「こうですよ」と手だけは優しく動かしてくれる。
「ましてや、お付きの使用人を学園に連れて行ったことなんてないのに、貴女だけ特別に連れていくと聞きました。余計に皆の悋気を煽ることになります」
「・・・はい」
「はい。出来ましたよ」
「ありがとうございました。お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いいえ。私は貴女の教育係ですから」
私と向き合い、トルテさんは言う。
「だからこそ、誰の目から見ても完璧にこなせる様にならなければなりません。お励みなさい」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずは使用人達の食堂へ案内しましょう」
トルテさんはああやって言うことで私自身に気をつけるように教えてくれたのだろう。
自分にできる範囲内で、こうやっていってくれる人は貴重だ。やっぱり、この人は前世の時に接していた時と同じように優しい人だ。
彼女の後ろをついて歩いている間も、確かに厳しい目線を感じた。
でも、彼女達からしたら、私はぽっと出の素人が運良くここに来てしかも、フェルデという自分達が仕える人の近くに採用される。確かに、トルテさんのいった通り、自分が逆の立場でも嫌だろう。
とりあえず、何かされたりしないように自衛には気をつけておこう。
「ここが使用人の食堂です」
食堂は厨房が見えるカウンター式。お盆に乗ったご飯を受け取ったら空いてる座席に座って食べる。
パンはおかわりができるようにカウンター隣に少し積まれて置かれていた。
「美味しい・・・」
朝食だからだろう、パンとスープのみのお盆を手に取る。
少し硬いが、小麦の甘味がしっかりと出ているパン。ほんのりと暖かく野菜の旨味がたっぷりのスープには、牛脂が浮いており、これもまた旨味を出しているようだ。
昨日はタイムスリップした事と、これからのことを考えていた所為かお腹が空いていなかったが、ひと口食べると身体は飢えていたのを思い出したかのように急激に空腹を訴えてきた。
「手の空いた者から食事は順番に取ります。そして終わったらすぐに勤務に戻るように」
「はい」
手は止めず、食べながら返事をする。
食べ終わったお盆はお返し棚に置けば、厨房見習が下げてくれる仕組みだ。
「美味しかったです、ご馳走様」
丁度下げに来た見習にそういうと、「っす」と顔を下げて行ってしまった。
腹ごしらえが済んだら、いよいよ使用人のお仕事を覚えなくてはいけない。
・・・メモ帳が欲しいかもしれない。
その頃、リーナが食事に夢中の間、他の若い女性の使用人達は彼女をじっと見てコソコソと話をしていた。
「なんであんな子が・・・」
「馬鹿っぽい子よねー。私達の方が優秀そう」
「フェルデ様やヴィーグ様に色仕掛けでとりいったのかな?」
「えー?あんな身体でぇ?泣き落としじゃないかしらー?」
「どうでもいいわよ。それよりも、あんな子が私達を差し置いてお付きになるなんて本当にあり得ない。どうにかしてその座を奪えないかしら?」
「あの子に辞退するよう言えばいいんじゃない?」
「それよりも・・・・」
ひそひそ話は内緒話に変わり、皆、にやりと笑い、またリーナを見つめるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません
しょくぱん
恋愛
「お姉ちゃんなんだから」
――それは私を縛る呪いの言葉だった。
家族の醜い穢れを一身に吸い込み、妹の美しさの「身代わり」として生きてきた私。
痛みで感覚を失った手も、鏡に映らない存在も、全ては家族のためだと信じていた。
そんな私、私じゃない!!
―― 私は、もう逃げない。 失われた人生を取り戻した今、偽りの愛に縋る彼らに、私は告げるだろう。
「私の人生に、おかえりなさい。」
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる