【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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1章 神官長がきた

1.客席にイケメンが

 ショーパブの裏方用トイレの個室で、俺は自分の股間を見下ろしていた。

 つい最近、この悪戯っ子のせいで涙を飲んだ記憶がよみがえる。
 とはいえ、可愛いこの子にお仕置きするわけにもいかない。もちろんこいつの持ち主が悪いんだから。
 あと、お仕置きしたら苦しむのは俺。悪戯っ子のキミと生涯を共にする覚悟はすでにある。

 と、チンコを擬人化して労わると、小さい面積の下着に押し込んでトイレを出た。
 面積が小さくてピッタリした下着はぶらぶらしないのはメリットだけど、見た目が好みではない。
 ピンクのキラキラのスパンコールに彩られた股間は派手すぎるし、興奮するとすぐに窮屈になる。

 でもここはゲイ向けのショーパブだ。客はこういうのが好みなんだろうな。
 俺の好みよりも客の好み。しかたない。

 これから楽屋にいき、後で脱ぐ前提の服を着込んで、ショーパブの舞台で踊る。それが俺の仕事だ。
 ゲイでもないし、ダンサーをしたいわけでもないし、酒を飲むのが好きなわけでもない。

 金になる、それだけだ。

 店長いわく、実戦で鍛えた筋肉は豹のようにしなやかで、男にも女にもウケるエロさがあるらしい。それで魅せて金を得ている。

 パンイチで楽屋に戻ると、いつもはダラダラとタバコを吸いながら化粧をしているキャストたちが、妙にソワソワしていた。
 化粧をする手が真剣に早いし、タバコが道半ばで吸い終わりもせずに灰皿に突き刺さっている。
 扉を開けた瞬間、異変に気づくぐらいだからそうとうな何かがあったらしい。

「うっす! なんだ? 王様でもきたか?」
「ランス! まだパンイチのまま? 目に痛いパンツ見せびらかしてないで早く服着ろ!」

 俺の挨拶をぶった斬って怒鳴ってきたのは、年下のくせにいつもオカンみたいな口をきくリック。
 このパンツが目に痛いってのは同意するけどさ。

 ランスというのは俺の源氏名だ。
 本名がクラレンスだから、3文字とってランス。入店時に適当につけた。

「王様の顔なんて知らないけど、あれは王様より格が上だね。客席に後光がさしてる! すっっっごいイケメンがきたの!」
「いや、この国の一番上の格が王様だろ。ミーシャは不敬で死刑だな」

 たまにオネエ口調になるミーシャは美人系でしなやかな体つきで踊る。
 俺はマッチョ系で焦らしながら服を脱いだり股間をアピールしながら踊る。
 真逆だから感性も違いそうだ。頭の作りはいわずともわかるだろ。

 楽屋は舞台の背後の壁の裏側にある。その壁には客席のあるホールが見渡せる小窓がある。
 舞台やカーテンで誤魔化されて客席側からのぞかれることはまずないが、こちらからはおおむね客席が見渡せた。

 ミーシャとの感性の違いを確認しようと、興味本位でその窓から客席をのぞいた。
 ホールにはパッと見ただけで目を引くボックス席があった。

 薄暗い店内でも分かる色白の相貌、華やかな金髪、涼しげな表情。
 顔面の美しさだけでも目を引くのに、服を着た上からでも鍛えているのがわかる体つき。あと組んでいても足が長い。

 ゲイのキャストが浮かれているのも納得する。
 後光が差しているようなイケメンだ。もしかすると彼の職業柄、実際に後光が出ているのかもしれない。

 なるほど。
 めっっっちゃイケメンだ。王様より顔面偏差値では位が上だ。
 ミーシャ、おまえと俺の感性は同じ。でもテンションは真逆。

 おまえは知らないだろうけど――
 あれ……俺の昼職の上司じゃん?!
 なぜここに!?
 この夜職がバレたら死ぬ!!!!

 お分かりだろうか、今世紀最大のピンチに遭遇したセクシーダンサーの気持ちを。
 やばい……心臓めっちゃ脈打つ。一目惚れでも感じたことのない鼓動だ。

 窓から楽屋に顔を戻すと、目を丸くしたリックと目があった。

「どした?」
「や…………」

 ヤバイと言いそうになって慌てて口をつぐむ。
 こんなこと、大声で言うわけにはいかねぇ!

「ミーシャ、わかる~めっちゃイケメンいた」
「だろ~?! あがるわ~~! 誰があの席につくんだろ?」

 ミーシャはまたキャーキャー言いながら化粧を厚塗りしはじめた。
 俺は普段通りのダルそうな歩き方を意識してリックの隣の椅子に座る。いぶかしげなリックの肩にだるそうにもたれかかって、小声で耳打ちした。

「……ヤバイ。あれうちの上司だ」
「………………マ?」
「マジ」
「大聖堂の?」
「神官長様」
「なんで?」
「1番それを知りたいのは俺」

 完全に入る店、間違ってますよ!
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