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1章 神官長がきた
4.別人じゃん?
……オイオイ、マジで楽屋を追い出された……。
猫の手も借りたい時の店長ほど押しの強いものはいない……。
うぅ、昼職では他の騎士にまぎれているし、顔を覚えられている可能性は低いか? 覆面までつけるなら、バレることもない……か?
いやでも、向こうが気づいてなくても、こっちは気づいているんだぞ。
上司の隣にこんな破廉恥な格好で座るなんてどんな羞恥プレイ?
心臓バクバクしすぎて倒れたら、さすがに不審がられちゃうんじゃないか?
……ってまぁ、心臓に毛が生えてるから、こんな副業してるんだけどさ。
考えがまとまらないまま、パンイチにジャケットだけ羽織って客席に出た。
ホールの隅にいる黒服と目が合って、うんざり顔を作ると、黒服の方も肩をすくめた。
その上であの地獄の席に行けと合図が飛んでくるんだから、店長の話はもう通っているらしい……。
ボックス席の間をぬいながらゆっくり向かうと、フロアがいつもよりざわついているのがわかる。
店長の言うとおり、今夜はいつにも増して客が多い。
接客は数ヶ月ぶりだ。最後についた客に、無理心中目的で店に火をつけられそうになった思い出がよみがえる。それより前にも色々あったけど。
火付け未遂にあってさすがにこりた店長が、そこそこ売り上げていた俺に接客させるのを諦め、ダンサー専任にした。
俺に意図はないのに、俺に惚れ込む客はことごとく闇堕ちしていく。
女とはそこそこの距離感(セフレ)で付き合えるのに、男とは距離感がバグる。
やべー自覚はある。そのうち男で身を滅ぼしそうだな。
こっちはそんなの全く求めてないんだけど。
ボックス席にいる神官長の姿は相変わらず神々しい。
ショーの前に見た時よりも思いつめた顔でグラスを見る横顔には影がある。
自分がゲイなのか確かめるために店にきてみたけど、やっぱり違うと思い直した感じか?
にしても、最初がショーパブってなかなか……選ぶ店がズレてるけど。
席につかずに観察していたら、黒服の急かすような眼光が突き刺さった。
……わかってるって。
心ここに在らず、って神官長の様子を見ていたら、覚悟が決まった。
「ここ、座るぞ。俺はランスだ」
平民は基本的に敬語を使わない。騎士としての姿からあえて離したくてそれにならった。
少し距離を空けて隣に座ると、ビクンとはねた神官長と目が合った。
綺麗なピーコックグリーンの瞳だ。その視線はまたすぐにグラスに戻った。
「この店は初めてだろ? さっきのショーは楽しめたか? なんと! 舞台で踊ってたのがあんたの目の前にいる俺だ」
神官長の目がグラスから移動してそろそろと俺の体の上を這う。
「あ……だからその服……」
「あぁ、これ? 舞台衣装だよ。初めてだとびっくりするよな~こんな格好で隣に来られたら。驚かせてすまねーな!」
「ん……いや……。あまり舞台をみれなくて……気づかなかった。こちらこそすまない」
あまり顔を上げたくないのか、グラスを見つめながらの返答だ。思っていた雰囲気と違う。
大聖堂での普段の姿は、テキパキと指示を出し、人にも自分にも厳しく、高圧的だ。
それも神々しい美貌から繰り出される冷たい視線と、礼拝で鍛えられた通る声が合わさると、たいていの相手が萎縮する。
その神官長が、ポソポソ自信なさげに答えているんだから、ギャップがすごい。
「えーっと、なんて呼んだらいいかな? 俺はランス」
緊張なのか? 頭が回ってなさそうだから、もう一度名乗った。
それで、ようやく顔を上げる神官長と覆面越しに目が合った。
「ランスか。私はウォーレン・アルメストだ」
はいきた本名! それもフルネーム!
慣れてないのか、抜けているのか、真面目なだけか、どれだ?
「ウォーレンな! それじゃせっかくきたんだから、楽しんでいこ。それ、飲まないなら俺が飲もうか? 新しいの頼んだ方が冷えていて美味いだろ?」
「あ、あぁ……」
ウォーレンに睨まれていたグラスは汗をかきながら机の上に放置されたままだ。
氷が溶けてコースターどころか机まで水浸しになっている。そのグラスを掴むと一気に煽った。
マジ、飲まないとやってられんわ。
猫の手も借りたい時の店長ほど押しの強いものはいない……。
うぅ、昼職では他の騎士にまぎれているし、顔を覚えられている可能性は低いか? 覆面までつけるなら、バレることもない……か?
いやでも、向こうが気づいてなくても、こっちは気づいているんだぞ。
上司の隣にこんな破廉恥な格好で座るなんてどんな羞恥プレイ?
心臓バクバクしすぎて倒れたら、さすがに不審がられちゃうんじゃないか?
……ってまぁ、心臓に毛が生えてるから、こんな副業してるんだけどさ。
考えがまとまらないまま、パンイチにジャケットだけ羽織って客席に出た。
ホールの隅にいる黒服と目が合って、うんざり顔を作ると、黒服の方も肩をすくめた。
その上であの地獄の席に行けと合図が飛んでくるんだから、店長の話はもう通っているらしい……。
ボックス席の間をぬいながらゆっくり向かうと、フロアがいつもよりざわついているのがわかる。
店長の言うとおり、今夜はいつにも増して客が多い。
接客は数ヶ月ぶりだ。最後についた客に、無理心中目的で店に火をつけられそうになった思い出がよみがえる。それより前にも色々あったけど。
火付け未遂にあってさすがにこりた店長が、そこそこ売り上げていた俺に接客させるのを諦め、ダンサー専任にした。
俺に意図はないのに、俺に惚れ込む客はことごとく闇堕ちしていく。
女とはそこそこの距離感(セフレ)で付き合えるのに、男とは距離感がバグる。
やべー自覚はある。そのうち男で身を滅ぼしそうだな。
こっちはそんなの全く求めてないんだけど。
ボックス席にいる神官長の姿は相変わらず神々しい。
ショーの前に見た時よりも思いつめた顔でグラスを見る横顔には影がある。
自分がゲイなのか確かめるために店にきてみたけど、やっぱり違うと思い直した感じか?
にしても、最初がショーパブってなかなか……選ぶ店がズレてるけど。
席につかずに観察していたら、黒服の急かすような眼光が突き刺さった。
……わかってるって。
心ここに在らず、って神官長の様子を見ていたら、覚悟が決まった。
「ここ、座るぞ。俺はランスだ」
平民は基本的に敬語を使わない。騎士としての姿からあえて離したくてそれにならった。
少し距離を空けて隣に座ると、ビクンとはねた神官長と目が合った。
綺麗なピーコックグリーンの瞳だ。その視線はまたすぐにグラスに戻った。
「この店は初めてだろ? さっきのショーは楽しめたか? なんと! 舞台で踊ってたのがあんたの目の前にいる俺だ」
神官長の目がグラスから移動してそろそろと俺の体の上を這う。
「あ……だからその服……」
「あぁ、これ? 舞台衣装だよ。初めてだとびっくりするよな~こんな格好で隣に来られたら。驚かせてすまねーな!」
「ん……いや……。あまり舞台をみれなくて……気づかなかった。こちらこそすまない」
あまり顔を上げたくないのか、グラスを見つめながらの返答だ。思っていた雰囲気と違う。
大聖堂での普段の姿は、テキパキと指示を出し、人にも自分にも厳しく、高圧的だ。
それも神々しい美貌から繰り出される冷たい視線と、礼拝で鍛えられた通る声が合わさると、たいていの相手が萎縮する。
その神官長が、ポソポソ自信なさげに答えているんだから、ギャップがすごい。
「えーっと、なんて呼んだらいいかな? 俺はランス」
緊張なのか? 頭が回ってなさそうだから、もう一度名乗った。
それで、ようやく顔を上げる神官長と覆面越しに目が合った。
「ランスか。私はウォーレン・アルメストだ」
はいきた本名! それもフルネーム!
慣れてないのか、抜けているのか、真面目なだけか、どれだ?
「ウォーレンな! それじゃせっかくきたんだから、楽しんでいこ。それ、飲まないなら俺が飲もうか? 新しいの頼んだ方が冷えていて美味いだろ?」
「あ、あぁ……」
ウォーレンに睨まれていたグラスは汗をかきながら机の上に放置されたままだ。
氷が溶けてコースターどころか机まで水浸しになっている。そのグラスを掴むと一気に煽った。
マジ、飲まないとやってられんわ。
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