【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

文字の大きさ
8 / 69
2章 VIPルームへご招待

8.まだ去勢しないから

 大聖堂での神官長との邂逅を想像してワクワク胸高鳴らせている。ってときに突然肩を叩かれた。

「どうした、クラレンス? そんなニヤついて」
「ッ! ……なんだよ、忍び寄ってくんなよ」

 いつの間にか同僚の聖堂騎士のチャーリーがすぐ後ろに立っていたもんで、思わず飛び上がってしまった。
 クラレンスは俺の本名だ。ランスは夜の源氏名。
 ひょろっとしていつもうっすら笑っているチャーリーは、歩き方も気配が薄くて幽霊みたいなやつだ。

「おまえが心ここに在らずだったから気づかなかったんだろ。着替えながらニヤついてさ。常に警戒をおこたるなよ~。騎士失格だ」
「おまえは常にニヤついてるだろが」
「これは相手に親近感を抱かせるための微笑みよ。大聖堂は市民やら旅人やら、一般人が来ることが多いからさ。王宮騎士なら厳しい面構えの方がいいんだろうけど、大聖堂はまた別。郷に行っては郷に従えってな」

 チャーリーは両手指を口角にあてると、薄ら笑いをさらに引き上げてニンッと笑った。
 言ってることはまともだけど、一般人に親近感を抱かれている様子は見たことないぞ。それより得体の知れない不安を抱かせてるのに気づいてないのか?

「んで? 昨夜はとびきりいい女でも捕まえたのか? ニヤついてたのは」
「昨夜の……ねぇ」

 思わずまたニヤついてしまった。

「なんだなんだ? 当たりか? さすが女で左遷されたエリート騎士様だな! まだ去勢の決意は固まらないか」
「おいおい。俺が第一隊長に怒鳴られた声は、こんな大聖堂にまで届いていたのか? これじゃ王都中に響き渡っていてもおかしくないな」
「大丈夫大丈夫。俺が特別に耳がいいだけさ」

 やっぱり得体の知れないやつだ。
 俺が第一隊長に「去勢してこい!」と怒鳴られた話は第一隊の一部には知られているけど、そう広がっている話じゃない。耳がいいというのは情報通ということだ。

 いったいどこのどいつと繋がっているんやら。
 ……まてよ?

「なぁ、おまえ。アルメスト神官長とは長いのか?」
「長いってほどでもないけど。俺もここに赴任して2年くらいなもんだから」
「どういう人なんだ? どうも、こっちにきてから嫌われている気がしてさ」
「ほぉん? 逆におまえのことを好いてる上司がいるもんかねぇ? 第三隊に押し付けられた問題児だぜぇ?」
「……やっぱりそういうことなんか? 赴任早々に髪の毛抜かれたり、無視されたり、手を踏まれたりしたんだけど……」
「……そういう陰険な話は聞かないぜ? 本当に清廉潔白な人柄で、厳しい人ではあるけど。イジメみたいなのはあの人が許さないってタイプのはず。何かよほど嫌われることをしたとしても、そんなのは想像できないなぁ」

 でも、実際あったことなんだよね……。
 だから俺、めっっっちゃ神官長に嫌われていると思ってるもん……。

 新任早々に挨拶に行った時、帰り際に呼び止められてさ。
 大きな手で頭を不意に撫でられた時はドキッとしたもんだけど。
 次の瞬間、頭にブチッと衝撃がきて。

「1本癖毛が目立っていたぞ」

 とか言われたわけだ……。
 え? 本人の許可なく髪の毛ムシる?
 とんでもねぇ嫌がらせきたなと思ったな。

 あと、中庭で見かけた時に近くで挨拶したのに無視されてさ。その直後、向こうから来た騎士には挨拶を返してたし。
 神官長が持っている荷物からペンが落ちたから拾おうとしたら、床についた手を思いっきりペンごと踏まれたり。さすがにその時は謝罪されたけど。

 そういうことが積もり積もって、赴任早々めちゃんこ上司に嫌われていると思っているわけだ。
 まぁ……左遷の理由も理由だからなぁ。
 お綺麗な神官長様は俺を早く追い出したいんだろうな。

「神官長は生まれも複雑だから。暗いところはあるかもしれないけど、逆にイジメみたいなのはしないんじゃないかなぁ」
「どういう話? 立ち居振る舞いが優雅だからお貴族様かなとは思ってたけど」
「さすがエリート騎士! するどいねぇ。噂話だけどな、貴族の家の生まれなのに、父親の後妻に疎まれて追い出されたとか。追い出された先が聖堂で幼い頃から見習い神官をしてたとか」

 ほほう。禁欲の聖堂に幼い頃から入信か。とすると昨日リックと話していた、神官長が男に走ったという話も信憑性を帯びてくる。
 なんにしても、もうあのショーパブに来ることはないだろうけど。

「な! きっと勘違いだろうさ。すぐわかるよ」
「そうだな」

 話を切り上げ、チャーリーと朝礼に向かった。他の騎士はお喋りしていた俺たちを尻目にさっさと朝礼場所に向かっていたらしい。
 どうやら俺たちが最後の到着になりそうだ。また上司に睨まれるな。



 期待していた神官長との遭遇はほとんどなかった。残念ながら今日は大聖堂前の出入り口の警備。野外だ。
 外に出ることの少ない神官長は顔すらなかなか拝めない配置だ。

 そんな状況でも、俺のアンテナは神官長をキャッチした。
 昼食で食堂に向かう時、散歩するように中庭をゆっくり歩いている姿をみつけた。
 なにか難しい考え事でもあるのか、その歩みは止まりがちで、とうとう池の前に立ち止まった。

 考え深げに右手を口元に当てる姿に、俺の首の後ろがゾワゾワした。
感想 12

あなたにおすすめの小説

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。