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2章 VIPルームへご招待
8.まだ去勢しないから
大聖堂での神官長との邂逅を想像してワクワク胸高鳴らせている。ってときに突然肩を叩かれた。
「どうした、クラレンス? そんなニヤついて」
「ッ! ……なんだよ、忍び寄ってくんなよ」
いつの間にか同僚の聖堂騎士のチャーリーがすぐ後ろに立っていたもんで、思わず飛び上がってしまった。
クラレンスは俺の本名だ。ランスは夜の源氏名。
ひょろっとしていつもうっすら笑っているチャーリーは、歩き方も気配が薄くて幽霊みたいなやつだ。
「おまえが心ここに在らずだったから気づかなかったんだろ。着替えながらニヤついてさ。常に警戒をおこたるなよ~。騎士失格だ」
「おまえは常にニヤついてるだろが」
「これは相手に親近感を抱かせるための微笑みよ。大聖堂は市民やら旅人やら、一般人が来ることが多いからさ。王宮騎士なら厳しい面構えの方がいいんだろうけど、大聖堂はまた別。郷に行っては郷に従えってな」
チャーリーは両手指を口角にあてると、薄ら笑いをさらに引き上げてニンッと笑った。
言ってることはまともだけど、一般人に親近感を抱かれている様子は見たことないぞ。それより得体の知れない不安を抱かせてるのに気づいてないのか?
「んで? 昨夜はとびきりいい女でも捕まえたのか? ニヤついてたのは」
「昨夜の……ねぇ」
思わずまたニヤついてしまった。
「なんだなんだ? 当たりか? さすが女で左遷されたエリート騎士様だな! まだ去勢の決意は固まらないか」
「おいおい。俺が第一隊長に怒鳴られた声は、こんな大聖堂にまで届いていたのか? これじゃ王都中に響き渡っていてもおかしくないな」
「大丈夫大丈夫。俺が特別に耳がいいだけさ」
やっぱり得体の知れないやつだ。
俺が第一隊長に「去勢してこい!」と怒鳴られた話は第一隊の一部には知られているけど、そう広がっている話じゃない。耳がいいというのは情報通ということだ。
いったいどこのどいつと繋がっているんやら。
……まてよ?
「なぁ、おまえ。アルメスト神官長とは長いのか?」
「長いってほどでもないけど。俺もここに赴任して2年くらいなもんだから」
「どういう人なんだ? どうも、こっちにきてから嫌われている気がしてさ」
「ほぉん? 逆におまえのことを好いてる上司がいるもんかねぇ? 第三隊に押し付けられた問題児だぜぇ?」
「……やっぱりそういうことなんか? 赴任早々に髪の毛抜かれたり、無視されたり、手を踏まれたりしたんだけど……」
「……そういう陰険な話は聞かないぜ? 本当に清廉潔白な人柄で、厳しい人ではあるけど。イジメみたいなのはあの人が許さないってタイプのはず。何かよほど嫌われることをしたとしても、そんなのは想像できないなぁ」
でも、実際あったことなんだよね……。
だから俺、めっっっちゃ神官長に嫌われていると思ってるもん……。
新任早々に挨拶に行った時、帰り際に呼び止められてさ。
大きな手で頭を不意に撫でられた時はドキッとしたもんだけど。
次の瞬間、頭にブチッと衝撃がきて。
「1本癖毛が目立っていたぞ」
とか言われたわけだ……。
え? 本人の許可なく髪の毛ムシる?
とんでもねぇ嫌がらせきたなと思ったな。
あと、中庭で見かけた時に近くで挨拶したのに無視されてさ。その直後、向こうから来た騎士には挨拶を返してたし。
神官長が持っている荷物からペンが落ちたから拾おうとしたら、床についた手を思いっきりペンごと踏まれたり。さすがにその時は謝罪されたけど。
そういうことが積もり積もって、赴任早々めちゃんこ上司に嫌われていると思っているわけだ。
まぁ……左遷の理由も理由だからなぁ。
お綺麗な神官長様は俺を早く追い出したいんだろうな。
「神官長は生まれも複雑だから。暗いところはあるかもしれないけど、逆にイジメみたいなのはしないんじゃないかなぁ」
「どういう話? 立ち居振る舞いが優雅だからお貴族様かなとは思ってたけど」
「さすがエリート騎士! するどいねぇ。噂話だけどな、貴族の家の生まれなのに、父親の後妻に疎まれて追い出されたとか。追い出された先が聖堂で幼い頃から見習い神官をしてたとか」
ほほう。禁欲の聖堂に幼い頃から入信か。とすると昨日リックと話していた、神官長が男に走ったという話も信憑性を帯びてくる。
なんにしても、もうあのショーパブに来ることはないだろうけど。
「な! きっと勘違いだろうさ。すぐわかるよ」
「そうだな」
話を切り上げ、チャーリーと朝礼に向かった。他の騎士はお喋りしていた俺たちを尻目にさっさと朝礼場所に向かっていたらしい。
どうやら俺たちが最後の到着になりそうだ。また上司に睨まれるな。
期待していた神官長との遭遇はほとんどなかった。残念ながら今日は大聖堂前の出入り口の警備。野外だ。
外に出ることの少ない神官長は顔すらなかなか拝めない配置だ。
そんな状況でも、俺のアンテナは神官長をキャッチした。
昼食で食堂に向かう時、散歩するように中庭をゆっくり歩いている姿をみつけた。
なにか難しい考え事でもあるのか、その歩みは止まりがちで、とうとう池の前に立ち止まった。
考え深げに右手を口元に当てる姿に、俺の首の後ろがゾワゾワした。
「どうした、クラレンス? そんなニヤついて」
「ッ! ……なんだよ、忍び寄ってくんなよ」
いつの間にか同僚の聖堂騎士のチャーリーがすぐ後ろに立っていたもんで、思わず飛び上がってしまった。
クラレンスは俺の本名だ。ランスは夜の源氏名。
ひょろっとしていつもうっすら笑っているチャーリーは、歩き方も気配が薄くて幽霊みたいなやつだ。
「おまえが心ここに在らずだったから気づかなかったんだろ。着替えながらニヤついてさ。常に警戒をおこたるなよ~。騎士失格だ」
「おまえは常にニヤついてるだろが」
「これは相手に親近感を抱かせるための微笑みよ。大聖堂は市民やら旅人やら、一般人が来ることが多いからさ。王宮騎士なら厳しい面構えの方がいいんだろうけど、大聖堂はまた別。郷に行っては郷に従えってな」
チャーリーは両手指を口角にあてると、薄ら笑いをさらに引き上げてニンッと笑った。
言ってることはまともだけど、一般人に親近感を抱かれている様子は見たことないぞ。それより得体の知れない不安を抱かせてるのに気づいてないのか?
「んで? 昨夜はとびきりいい女でも捕まえたのか? ニヤついてたのは」
「昨夜の……ねぇ」
思わずまたニヤついてしまった。
「なんだなんだ? 当たりか? さすが女で左遷されたエリート騎士様だな! まだ去勢の決意は固まらないか」
「おいおい。俺が第一隊長に怒鳴られた声は、こんな大聖堂にまで届いていたのか? これじゃ王都中に響き渡っていてもおかしくないな」
「大丈夫大丈夫。俺が特別に耳がいいだけさ」
やっぱり得体の知れないやつだ。
俺が第一隊長に「去勢してこい!」と怒鳴られた話は第一隊の一部には知られているけど、そう広がっている話じゃない。耳がいいというのは情報通ということだ。
いったいどこのどいつと繋がっているんやら。
……まてよ?
「なぁ、おまえ。アルメスト神官長とは長いのか?」
「長いってほどでもないけど。俺もここに赴任して2年くらいなもんだから」
「どういう人なんだ? どうも、こっちにきてから嫌われている気がしてさ」
「ほぉん? 逆におまえのことを好いてる上司がいるもんかねぇ? 第三隊に押し付けられた問題児だぜぇ?」
「……やっぱりそういうことなんか? 赴任早々に髪の毛抜かれたり、無視されたり、手を踏まれたりしたんだけど……」
「……そういう陰険な話は聞かないぜ? 本当に清廉潔白な人柄で、厳しい人ではあるけど。イジメみたいなのはあの人が許さないってタイプのはず。何かよほど嫌われることをしたとしても、そんなのは想像できないなぁ」
でも、実際あったことなんだよね……。
だから俺、めっっっちゃ神官長に嫌われていると思ってるもん……。
新任早々に挨拶に行った時、帰り際に呼び止められてさ。
大きな手で頭を不意に撫でられた時はドキッとしたもんだけど。
次の瞬間、頭にブチッと衝撃がきて。
「1本癖毛が目立っていたぞ」
とか言われたわけだ……。
え? 本人の許可なく髪の毛ムシる?
とんでもねぇ嫌がらせきたなと思ったな。
あと、中庭で見かけた時に近くで挨拶したのに無視されてさ。その直後、向こうから来た騎士には挨拶を返してたし。
神官長が持っている荷物からペンが落ちたから拾おうとしたら、床についた手を思いっきりペンごと踏まれたり。さすがにその時は謝罪されたけど。
そういうことが積もり積もって、赴任早々めちゃんこ上司に嫌われていると思っているわけだ。
まぁ……左遷の理由も理由だからなぁ。
お綺麗な神官長様は俺を早く追い出したいんだろうな。
「神官長は生まれも複雑だから。暗いところはあるかもしれないけど、逆にイジメみたいなのはしないんじゃないかなぁ」
「どういう話? 立ち居振る舞いが優雅だからお貴族様かなとは思ってたけど」
「さすがエリート騎士! するどいねぇ。噂話だけどな、貴族の家の生まれなのに、父親の後妻に疎まれて追い出されたとか。追い出された先が聖堂で幼い頃から見習い神官をしてたとか」
ほほう。禁欲の聖堂に幼い頃から入信か。とすると昨日リックと話していた、神官長が男に走ったという話も信憑性を帯びてくる。
なんにしても、もうあのショーパブに来ることはないだろうけど。
「な! きっと勘違いだろうさ。すぐわかるよ」
「そうだな」
話を切り上げ、チャーリーと朝礼に向かった。他の騎士はお喋りしていた俺たちを尻目にさっさと朝礼場所に向かっていたらしい。
どうやら俺たちが最後の到着になりそうだ。また上司に睨まれるな。
期待していた神官長との遭遇はほとんどなかった。残念ながら今日は大聖堂前の出入り口の警備。野外だ。
外に出ることの少ない神官長は顔すらなかなか拝めない配置だ。
そんな状況でも、俺のアンテナは神官長をキャッチした。
昼食で食堂に向かう時、散歩するように中庭をゆっくり歩いている姿をみつけた。
なにか難しい考え事でもあるのか、その歩みは止まりがちで、とうとう池の前に立ち止まった。
考え深げに右手を口元に当てる姿に、俺の首の後ろがゾワゾワした。
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