【完結】覆面セクシーダンサーは昼職の上司に盲愛される

鳥見 ねこ

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8章 飲み会とアフター

53.俺の化けの皮は剥がれない

 トイレの手洗い場でうがいして顔を洗うと、少し気持ち悪さがおさまった。
 鏡に映る顔が疲労でやつれてみえる。

「クラレンス姿で神官長とこの店に来るなんて……ピンチが渋滞しすぎだろ」

 左遷される前も色々あったけど、大聖堂に左遷されてから感情が揺さぶられることが多すぎる。
 セクシーダンサー姿で神官長と遭遇したり、神官長の仕事を裏と表でサポートしたり、ついには神官長に惚れてしまう、なんてな。
 妹の土産物巡りをしている時に言われた言葉がよみがえる。

「兄ちゃんは家族以外は誰も信じてなかったもんね。信じられる人ができて良かった」

 グサッときた。
 思えば王宮騎士時代に体の関係を持った女たちとは、精神的なつながりが欲しいとは思わなかった。
 性的欲望を発散するために他人を誘いはしても、他人の人生に踏み込みたくはなかった。それは相手も気づいていたんだろう。

 神官長は大聖堂での厳しい姿も、ショーパブでの不器用な真摯さも知っている。知ってしまった。
 美しい見た目だけじゃない魅力に惹かれている。神官長とは体以上の関係が欲しい。
 神官長は俺のこと、どう思ってるんだろ。嫌われてはいないはずだけど。

 背後の扉が開く音に振り向いた。

「リック……てめぇ」
「うっわ、ひどい顔!」

 誰のせいだと思ってんだー!!

「いやぁ、早めに謝っとこうと思ってさ。ほらこれタオル。顔がびしょびしょだよ」

 たしかに顔を洗ったままだった。リックの持ってきたタオルで首まで垂れていた水滴をゴシゴシ拭き取った。

「びっくりしたよ。なんでウォーレンさんと店にきてんの?」
「知ってんだろ? 俺は聖堂騎士なんだからウォーレンとは上司と部下でもある。つまり上司のお供に夜遊びすることもある」
「いやいやいやナイナイナイ」

 顔のひきつったリックがプルプル首を振った。

「リスク高すぎるだろ。もう楽屋でもざわついてたんだから。一応黒服から注意はきたけどさぁ、みんなランスの化けの皮を剥ごうと画策してるよ」
「どーりでなぁ! 俺がポッキーゲームに引っ張り出されたわけだ?!」
「あれはむしろ助け舟だから。あれぐらいでみんなの溜飲が下がったんだからマシでしょ。ランスは愛されキャラだからみんなからかいたくて堪らないんだな~」

 こいつ……反省の色ゼロ。

「そうか……俺って愛されちゃってんだなぁ――なんてなるかっ!」

 リックの背後を取って首に腕を巻き付ける。

「あっ、ちょ、これっキツ」
「さっきは思いっきり舌入れてくれてありがとなぁ? でもやられっぱなしは嫌いなんだよなッ」

 リックより高い身長を生かして片手で吊り上げてリックを封じると、脇の下をくすぐりまくった。

「ひゃっ、あっ、だめっ! そこ」
「良いんだろ? ここ弱いもんな? 吐くほど良くしてやるよ」
「ひぁっ! だめだって! ほんと! やめてっ!」
「オラオラオラ」
「ひぃ~~~ッ」

 くすぐりまくった末にリックはトイレの床を舐めるように撃沈した。
 こいつくすぐられるのに弱いんだよな。
 些細な復讐だけど、いじめてちょっとスッキリした。

「ほら、起きろよ。いつまでへたってんだ」
「ひ、ひどい」

 その時、またトイレの扉が開いた。

「……クラレンス。大丈夫か?」

 扉の向こうにはウォーレン!?
 ってトイレの床にへばっているリックと仁王立ちの俺を見られた……!
 初めて会ったキャストと妙に仲良しな客って、どういう関係なのか怪しすぎるか!?

「潰れてないかと思って見にきたんだが……一緒にトイレに入っていたのか?」

 目を細めて俺たちを見る神官長の顔が妙にこわばっている。
 そういえばトイレでヤるやつがいるって話をした記憶がよみがえった。
 誘われてホイホイとトイレに連れ込まれた下半身ユルユルの客に見えたか!?

「あぁ~ちょっとこの人にナンパされてまして! いてっ」

 冗談めかしてウォーレンの勘違いに乗ってみたら、いつの間にか立ち上がっていたリックに尻をつねられた。

「……おまえは残るか? 私はもう帰るが」
「いえいえ! お供しますッ!」

 妙な勘違いをされた気がするけど、ひとまず俺とリックの本当の関係はバレずにすんだな。
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