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お仕置きのお時間
190. 贈り物の意図
しおりを挟む前世の記憶の影響なのか、それともセレスティーヌがもともとそういう性格だったのか、何度も謝られると逆に恐縮してしまう。
だけど今回アロイスが「これきり」と宣言しつつ謝ってくれた時の言葉は、私の胸をほこほこと温めてくれた。
この世界――いや、前世でもそういうことはあったけれど、怖い思いをした人の心のケアなんて、いちいち気にも留めない人のほうが多い。
もし前世であれば、「その程度のことをいつまで引きずっているんだ。いい加減にしろ」と人前で言い放ったりしたら、あっという間にその発言をした人に非難が押し寄せることだろう。
この世界ではそうはならない。状況によってはたしなめてくれる第三者がいるかもしれないけれど、だいたいは個人の苦痛なんて無視される。
家族であろうと仕事先であろうと、上の人間が下の人間の精神面を考慮しないことなんて、むしろ常識と言っていいほどなのだ。
なのにエディットはあんな風に怒ってくれた。
その上、アロイスはそれを「バカバカしい」と一蹴することなく、しっかり聞いてくれていたのだ。
――この隊商の人々がとても優しくて、わたくしがいつもホッとして過ごせるのは、アロイス様がそういう頭領だからですわね。
前世でも、職場のトップが変わると、良くも悪くもその人次第で空気が変わった。
おおらかな人もいれば、上の人間に楯突くなというタイプもいた。
この世界で多いのは圧倒的に後者。
もちろん、下の人間が増長してはいけないからと、厳しくふるまうことが必要なのも理解できる。
実際、優しい顔をしていたら、感謝どころか舐められるというケースのほうが多いようだった。
アロイスは優しくありつつ、単純に甘いだけではない。締めるところはきっちり締める。
隊商の中で彼を舐めている人などおらず、エディットも頭領に対する敬意を払いつつ、隊商全体のお母さんとして厳しい意見を言う時は言うというスタンスだ。
こういうことがあるたびに、つくづく思う。
私は一番初めの重要な分岐点で、考え得る限り最高の相手に救けを求めたのだ。
ほこほこしながら部屋に戻ると、ジゼルが寝台を整えてくれたあとだった。
お礼を言いつつ寝台の端に座り、袋の紐を解く。
「セレ様、それは?」
「先ほどアロイス様からいただきましたの。中身はわからないのですけれど」
「へえ、頭領が……」
袋の中から片手サイズの箱を取り出す。
パッと見、上質な木箱だった。表面に花模様が彫刻されていて可愛らしい。
その箱をぱかりと開け――
「えっ」
目を丸くした。
そんな私の前に立ったジゼルが、身をかがめて箱を覗き込み、
「真珠ですね」
私の頭が回り始める前に、ずばっと言い切ってしまった。
木箱の内側は布張りになっていて、綿か何かを詰めて厚みをもたせている。
その上にころりと並んでいるのは、金細工の葉に包まれた丸い実のような、クリーム色のパール。
――な、何故あの耳飾りがここにありますの……!?
どう見てもあのイヤリングだ。
もしかして、私がこれに注目していたから?
ほんの一瞬だけだったのに、その一瞬を逃さずキャッチされていたのだろうか。
思えばアロイスがおひらきを宣言したのはその直後だったし、商人の皆さんもやけにあっさり引き下がった……プロ商人怖い、ではなく。
アロイスは、「侘びではない」と言った。
つまり一連のごめんね騒動と、この贈り物は無関係ということ。
――贈り物……ですわよね? そうですわよね?
それ以外にない。
ならばこれまでのやり取りと切り離し、どういう意図で贈ってくれたのかと考えると。
――え? まさか、ひょっとして? でも、そんな……
もしや、これはいわゆる、殿方が女性に贈るという……?
いやいやまさか。そんなまさか。
ないない。ないでしょう。
でも……
混乱しつつ頬が火照ってきて、ジゼルに第三者としての意見を求めてみた。
「あの、ジゼル? アロイス様は、その、何故これを、わたくしに贈ってくださったのかしら?」
ジゼルはきょとんとして、多分赤くなっている私の顔とイヤリングを見比べた。
「頭領はセレ様になんて言ってたんです?」
「その……」
直前の会話をかいつまんで話すと、ジゼルはかすかに眉を顰めて「は~なるほど」と言った。
「簡単なことです。それはですね」
「それは!?」
「気に入ったんならつけて、気に入らなければ捨てりゃいいんです。なんならあたしが売っ払ってきましょうか?」
「つけます! つけますの!」
究極の二択!
咄嗟に叫んで口を押さえ、そういえばこの部屋は防音の魔道具があるんだったわ、と思い出した。
いい宿の部屋には、もともとそういうのが設置されているのだ。
「じゃ、つけてみますか」
そしていい宿だから、鏡台も置いてある。
ジゼルが引いてくれた椅子に座り、台の上に木箱を置いて、イヤリングを指でつまんだ。
ごくりと息を呑むと、小さな金具で慎重に耳たぶを挟む。
もう一個のイヤリングも同様につけた。
「めちゃくちゃ似合ってますよ! さすが頭領。いい品ですねぇ」
「……そうですわね」
コロリとした小粒の真珠の耳飾りは、とてつもなく可愛らしい。
値段がいくらなんだろうとか余計なことが頭から抜けて、ほんのり頬を紅潮させて嬉しそうにしている私の顔が、鏡の中に映っていた。
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