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もうひとりの聖女の謎
216. 意味がわかれば怖い話
しおりを挟む移す……?
その言葉に目を見開いた。
片方の消去、もしくは現状維持。そのどちらかしかないのかと思っていたのに、そうではないのか。
メラニーさんはさらに詳しく教えてくれた。
「幼い頃から過酷な環境に置かれている者などは、ごくまれに『心』が分裂してしまうことがあるのです。まるでひとつの身体の中に、別の人間が何人もいるかのように。そのほか、環境などに関わらず、本来の肉体の持ち主とは別の『心』が入り込んでしまうこともあるのですわ。それは憑依という現象で、『心』が弱っている時などに、本来の魂とは別のものに侵入されてしまうのです」
前者は、おそらく多重人格のことだ。
後者は悪霊憑きとか、そういう話だろう。
特に後者、やはりこの世界にはあるのか……
いや、それを説明できる言葉があるという時点で、あってもおかしくない話なのだ。
何よりここは魔法があり、神様の存在する世界で、むしろないほうがおかしいレベルである。
けれど普段は全然意識にのぼることがなかった。
――だって、生きている人間のほうが怖いのですもの。
暗がりを女ひとりで歩く時、一番怖いのは犯罪者や変質者との遭遇だ。その危険性は前世で暮らしていた国よりも、こちらのほうが段違いに高い。
仮にリリが悪霊だと仮定したところで、あの国王一家や大神官のほうが、よほど『邪霊』の名に相応しいではないか。
「失礼、『魂』はご存じかしら?」
「ああ、知ってる。人の命や心の核となるものだろう? 見たことがあるわけじゃないが」
「わたくしも存じてますわ」
「これは余計な質問でしたわね。『憑依』という現象ですけれど、そう多いものではありません。心が複数に分かれるケースのほうが多いでしょう。実を言いますと、わたくしも目にするのは今回で二回目なのです」
つまり悪霊にとり憑かれるより、多重人格になる人のほうが多いという話だ。
私としては超納得、むしろそのほうがいいという感想だったのに、アロイス達は逆だったらしく顔をしかめている。
これは私の前世と、この世界の知識の差が影響しているのかもしれない。
ところで一回目はどんな……?
「本来とは別の魂が入り込んでいるわけですから、大抵それは壊れかけであったり、肉体への定着が弱いものです。ただわたくしの見たところ、今のリリ様は不安定なところがなく、奥にいる少女と遜色なかったのですわ。二人の会話を聞かなければ、どちらが肉体の持ち主であったのか、区別がつかなかったほどですの」
「まあ、そのようなことがありますのね?」
「通常はあとから侵入したほうが邪悪かつ不安定な存在ですから、それを排除しなければ、いずれ肉体が滅びてしまうのです。ところがリリ様の場合、どちらを残しても支障がないのですわ。このようなケースはわたくしも初めてでしてよ」
私はつい、感心のため息をついた。
「さすがですわ、メラニー様。仰る通りと存じますの。わたくし、リリ様と交流はさほどなかったとはいえ、お顔を合わせてお話ししたことはありますのよ。その際、まるで違和感を覚えませんでしたの」
性格以外は、と心の中だけで付け足した。
メラニーさんも感心したような表情で頷いてくれる。
「セレスティ……セレ様も、となると、わたくしも己の見立てに自信がつきますわ」
メラニーさんの話をよくよく聞くと、当初のお色気爆発知的お姉様から、「この人も結構怖い発想をする人だな」という印象に変わった。
彼女がロランの国王の命令に難色を示したのは、別に人道的な理由からではない。
自分の国の利益になるのなら、リリのほうを残し、本来の持ち主の少女を消すことに何ら抵抗感がないのだ。
「むしろわたくし個人としては、リリ様のほうが親和性が高いのですけれど」
メラニーさんは言った。
しかし仮にそれを実行に移すとなると、別の問題がある。本来の持ち主の少女を消すことは、女神の意に反する行為ではないのか。
その判断がつかないために、私の意見を仰ぎたかった――彼女が私を訪ねてきたのは、そういうことだったそうだ。
――あの。それ、わたくしに訊かれても困るのですけれど……?
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