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『元』聖女、行きたくないけど方向転換
229. 容赦なき女達の暴露 (1) -sideアロイス
しおりを挟む宿の主人によると、数か月前に北の地域で山崩れが起き、北からの客足に響いているそうだ。
道は復旧しても、減った客が戻るにはまだ時間がかかる。
そんな話をしながら、「もう何人かウチに泊まってくださってもいいんですよ?」と何度も笑顔で匂わせてくるので、急遽ヒューゴとリュカを追加してもらった。
コルネイユ隊の連中にも声をかけようかと思ったが、ちょうど皆と小さな焚火を囲み、盛り上がり始めたところだった。
彼らは俺達の用心棒である以前に、何よりもセレスティーヌを守るために合流している。
だから『商人と貴人の護衛騎士』みたいな見えぬ壁がうっすらとあり、今回は互いにそれを取っ払ってしまおうと歩み寄っているようだ。
ここでの馬車泊と共同浴場は、距離を詰めるには最適な環境だろう。
そんなわけで、ぎりぎり声をかけられるのがヒューゴとリュカの二人しかいなかった。
「悪いな、主人」
「いいええ、こちらこそ無理を申し上げておりますので。お二人様でも大助かりです」
半分残念、しかし半分は「助かる」が偽りのない本音だろう。
そのたった二人を増やすのさえ、近頃は難儀していたのだから。
もともとの客だった俺とエタンとコルネイユ、それに二人が追加され、部屋に入って最低限の荷を置くと、さっそく風呂に入ることにした。
俺とエタンはさっさと用意を済ませ、この土地の名物である岩風呂に浸かる。
「あー、生き返るぜ。広い風呂ってのはいいな」
俺がしみじみ言うと、エタンも深く頷いた。
基本無口で好き嫌いをあまり出さない奴だが、湯の出る滝壺のようなこの風呂は、こいつも心底気に入っているのだ。
「失礼いたしますぞ」
「おー、浸かれ浸かれ」
「ここの温泉、いつ見てもいいっすね~」
少しも経たないうちにヒューゴ、リュカ、コルネイユも入ってきた。
共同浴場ほどの広さはなくとも、五人全員が余裕で浸かることができる。
多分、詰めたら十人ぐらいはいけるんじゃねえかな?
野郎でみっちみちな風呂なんざごめんだが。
コルネイユの顔にも感嘆が浮かんでいる。こいつも堅苦しさがなかなか抜けない奴だし、この機会にこいつらと気安く話せるようになってもらおうか。
そう思って、俺は口をひらきかけ――
「どーですか? すごいでしょ」
「まあぁぁ……!」
口を閉ざした。
「本当に岩ですのね!」
「よそから運んできたんじゃなく、もともとあった岩を利用したって聞いてますよ」
「素晴らしいですわ……! このような温泉に憧れてましたの~!」
ジゼルと、セレスティーヌだ。
多分、俺は真顔になっている。
ほかの奴らも湯の中でピタリと固まり、顔を見合わせ、誰も何も言えなかった。
――あいつ、こっちが男湯だって気付いてねえ?
この温泉の建物は、内部が壁で半分に分かれている。
その壁の天井近くには通気口が設けられ、互いの声は丸聞こえなのだ。
黙ってても気配で俺らに気付きそうなもんなのに……って、そうか。
ここは魔法使いが設計に関わっている。魔力を遮断する仕組みになっているのか?
俺自身、女湯側の気配を感じ取れないことにたった今気付いた。
魔法や魔道具を使った悪さ……たとえば覗きなんかを防ぐために、そうしているのかもしれない。
「あ~、これよこれ。気持ちいいわぁ~」
メラニーもいる。
ざぶん、ざぶんと身体を流す湯の音。
華やかな声で喋りながら、湯に浸かる音……
「…………」
俺達は押し黙ったまま、相変わらず顔を見合わせていた。
……喋れねえ。
しかも変に動けなくなっちまったぞ。
失敗した。
あいつらが入ってきたとわかった瞬間に、「おまえらも風呂か」と気軽に声をかけたらよかった。
知人と泊まる客は普通にそうしている。変に遠慮をする意味はない。
なのに初手で硬直したせいで、全員が動けなくなってしまった。
その後も、女達のお喋りは続く……
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