聖女転生? だが断る

日村透

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『元』聖女、行きたくないけど方向転換

243. テーサツニンム! (4) -sideミュリエル

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 偵察任務の大本命、まずはみやこの大神殿である。
 上空から見下ろすミュリエルの目に映る人々の視線は、どれも辛気臭い。

 アロイスの隊商がこの国を訪れる時は、いつも祭りの時期に合わせていた。
 それもあって余計に、静けさと活気のなさが異様に見える。

 そこに拍車をかけているのが、大神殿をがちがちに覆う守護の力と侵入防止の力だ。
 どちらも魔道具によって、見えない壁が作られている。

 他の神殿でも見かけたものだが、大神殿ではいっそう強力だった。
 通りかかる人々は大神殿の閉ざされた扉を睨みながら、一歩も入ることができず通り過ぎるだけ。
 中に入れないのだから、参拝者の姿すらなかった。

 ――デモ、ミュリ、ハイレルモンネ! ヨユー!

 その魔道具の結界は球状ではなく、筒状の結界だった。
 しかも人が侵入できない高さを想定した道具のようで、鳥ならば上空から難なく入ることができる。

 ミュリエルはこれまでの神殿と同様、鳥なら通り抜けられる開口部を使い、あっさり大神殿の内側に忍び込むことに成功。
 ここの廊下では、今までよりも神官の姿を見かけた。しかし誰もが自分の足元に視線を落としており、周りにほとんど注意を払っていない。

 ミュリエルはこそこそ廊下を進みながら、隙間や開口部のない個室には入らないよう気を付けた。
 誰かがドアを閉じてしまったが最後、完全に出られなくなるからだ。

 これまでの神殿と違い、ここでは自室に引きこもっている人間がそれほどいない。
 多くの神殿を襲った『悲劇』は、この大神殿にはまだ到達していないためだろう。
 しかしどの神官達の顔色も、負けず劣らず悪かった。

「浄化の魔石が、とうとう尽きました」
「民衆どもには配っていないというのに、何故だ!?」
「貴族の買い占めが痛かったですね……これほど急速に失われるとは思いもしませんでした」
「新たな魔石はまだできないのか?」
「それが、まったく……どれほど石に魔法をかけても、先週ぐらいからただの一個も魔石に変じなくなったのです」
「しかも最後にできた魔石は、たった二日後には魔力が抜けて、砕け散りました。同じ石に何度も魔力を込めていたら石が耐えきれなくなるので、中には砂状になったものも」
「二日……何故そんなに早く……」

 何人もの神官が顔を突き合わせ、「魔石はないか」「いやない」「作れ」「無理」の堂々巡りをしている。
 ミュリエルは「バカネコイツラ~」と思った。

 ――マズ、マセキウルノ、ダメデショ。

 賢いミュリエルは知っている。
 アロイス達と巡った各国の神殿で、どの神官も言っていた。
 女神への感謝、尊敬、そういう気持ちをしっかり持っている神官でなければ、ちゃんとした魔石を作ることはできないのだ。

 この国の神官も、以前はほんのちょっとでもそういう気持ちがあったから、失敗作であろうと浄化魔石ができていた。
 いよいよそれすらもなくなったから、一個も作れなくなったのだ。

 まともな信仰心が残っていれば、神殿を文字通り削り取って売ろうなどという発想にはならない。
 おそらくそれを実行し始めた瞬間、彼らの中から最後のひと欠片も残さず、女神への畏敬の念が消え去ったのだ。

 ミュリエルは再びこそこそっと移動し、さらに奥を目指した。
 そこは地位の高い神官以外は進入禁止になっている、奥の間と呼ばれる場所だとミュリエルは知らない。
 ただ何人かの偉そうな神官が集まり、卓に広げた紙を見下ろしてああだこうだと難しい話をしていたので、気になって覗いてみた。

「ここは無理です。……の国と、……の国が結託して……」
「先日、こちら方面を通って逃げようとした者が数名、捕縛されたそうです……」
「現在ロラン王国を囲む国々がすべて、我が国の神官を入国禁止にしており……国境を越えた瞬間に……」

 一番偉そうな神官服を着て、頭に布を巻いた人物が小さくうなった。

「滞在ではなく通り抜けるだけであっても、それすら許されぬというのですか?」
「はい、大神官様。というのも、愚かな地方の小神殿の者が、先走って何人も国外へ逃亡を企てたようで……それでどの国も、厳しい対処をしているようです」
「国の危機に、真っ先に逃げ出そうとした者も愚かですが。そもそも神官を捕えることが非常に罰当たりな行為であると、その国の者どもも理解すべきですね」
「まこと、許しがたき愚行でございます」

 ナ~ニイッテンノコイツラ、とミュリエルは呆れた。
 どう見ても自分達だって、なんとか国外逃亡できる道はないかと、顔突き合わせて相談しているくせに。
 神殿の地下のあちこちを削り取って、売り払って、『ここにいる自分達だけの』逃亡資金はなんとか貯まったけれど、今度は逃亡ルートをどうしようと頭を悩ませているのである。

 その後も不毛な話し合いをしばらく観察し、ミュリエルはその場を離れた。
 この大神殿を守る魔道具、見つけて壊しちゃおっかなと、ふと思ったが……

 ――ダメダメ。ソーユートコロ、ケイビ、イッパイダモン。アブナイノ。

 ミュリエルはひょいひょい飛んでは隠れ、飛んでは隠れながら、忍び込んだ時と同様にあっさり抜け出すことに成功する。
 セレスティーヌがいなくなる以前の大神殿であれば、この小さな侵入者に気付く余裕のある者がいただろうが……

 お次は、王宮だ。




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 読んでくださってありがとうございます!
 ミュリエルの大冒険(仮)次回がラストの予定です。

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