243 / 251
『元』聖女、行きたくないけど方向転換
243. テーサツニンム! (4) -sideミュリエル
しおりを挟む偵察任務の大本命、まずは都の大神殿である。
上空から見下ろすミュリエルの目に映る人々の視線は、どれも辛気臭い。
アロイスの隊商がこの国を訪れる時は、いつも祭りの時期に合わせていた。
それもあって余計に、静けさと活気のなさが異様に見える。
そこに拍車をかけているのが、大神殿をがちがちに覆う守護の力と侵入防止の力だ。
どちらも魔道具によって、見えない壁が作られている。
他の神殿でも見かけたものだが、大神殿ではいっそう強力だった。
通りかかる人々は大神殿の閉ざされた扉を睨みながら、一歩も入ることができず通り過ぎるだけ。
中に入れないのだから、参拝者の姿すらなかった。
――デモ、ミュリ、ハイレルモンネ! ヨユー!
その魔道具の結界は球状ではなく、筒状の結界だった。
しかも人が侵入できない高さを想定した道具のようで、鳥ならば上空から難なく入ることができる。
ミュリエルはこれまでの神殿と同様、鳥なら通り抜けられる開口部を使い、あっさり大神殿の内側に忍び込むことに成功。
ここの廊下では、今までよりも神官の姿を見かけた。しかし誰もが自分の足元に視線を落としており、周りにほとんど注意を払っていない。
ミュリエルはこそこそ廊下を進みながら、隙間や開口部のない個室には入らないよう気を付けた。
誰かがドアを閉じてしまったが最後、完全に出られなくなるからだ。
これまでの神殿と違い、ここでは自室に引きこもっている人間がそれほどいない。
多くの神殿を襲った『悲劇』は、この大神殿にはまだ到達していないためだろう。
しかしどの神官達の顔色も、負けず劣らず悪かった。
「浄化の魔石が、とうとう尽きました」
「民衆どもには配っていないというのに、何故だ!?」
「貴族の買い占めが痛かったですね……これほど急速に失われるとは思いもしませんでした」
「新たな魔石はまだできないのか?」
「それが、まったく……どれほど石に魔法をかけても、先週ぐらいからただの一個も魔石に変じなくなったのです」
「しかも最後にできた魔石は、たった二日後には魔力が抜けて、砕け散りました。同じ石に何度も魔力を込めていたら石が耐えきれなくなるので、中には砂状になったものも」
「二日……何故そんなに早く……」
何人もの神官が顔を突き合わせ、「魔石はないか」「いやない」「作れ」「無理」の堂々巡りをしている。
ミュリエルは「バカネコイツラ~」と思った。
――マズ、マセキウルノ、ダメデショ。
賢いミュリエルは知っている。
アロイス達と巡った各国の神殿で、どの神官も言っていた。
女神への感謝、尊敬、そういう気持ちをしっかり持っている神官でなければ、ちゃんとした魔石を作ることはできないのだ。
この国の神官も、以前はほんのちょっとでもそういう気持ちがあったから、失敗作であろうと浄化魔石ができていた。
いよいよそれすらもなくなったから、一個も作れなくなったのだ。
まともな信仰心が残っていれば、神殿を文字通り削り取って売ろうなどという発想にはならない。
おそらくそれを実行し始めた瞬間、彼らの中から最後のひと欠片も残さず、女神への畏敬の念が消え去ったのだ。
ミュリエルは再びこそこそっと移動し、さらに奥を目指した。
そこは地位の高い神官以外は進入禁止になっている、奥の間と呼ばれる場所だとミュリエルは知らない。
ただ何人かの偉そうな神官が集まり、卓に広げた紙を見下ろしてああだこうだと難しい話をしていたので、気になって覗いてみた。
「ここは無理です。……の国と、……の国が結託して……」
「先日、こちら方面を通って逃げようとした者が数名、捕縛されたそうです……」
「現在ロラン王国を囲む国々がすべて、我が国の神官を入国禁止にしており……国境を越えた瞬間に……」
一番偉そうな神官服を着て、頭に布を巻いた人物が小さくうなった。
「滞在ではなく通り抜けるだけであっても、それすら許されぬというのですか?」
「はい、大神官様。というのも、愚かな地方の小神殿の者が、先走って何人も国外へ逃亡を企てたようで……それでどの国も、厳しい対処をしているようです」
「国の危機に、真っ先に逃げ出そうとした者も愚かですが。そもそも神官を捕えることが非常に罰当たりな行為であると、その国の者どもも理解すべきですね」
「まこと、許しがたき愚行でございます」
ナ~ニイッテンノコイツラ、とミュリエルは呆れた。
どう見ても自分達だって、なんとか国外逃亡できる道はないかと、顔突き合わせて相談しているくせに。
神殿の地下のあちこちを削り取って、売り払って、『ここにいる自分達だけの』逃亡資金はなんとか貯まったけれど、今度は逃亡ルートをどうしようと頭を悩ませているのである。
その後も不毛な話し合いをしばらく観察し、ミュリエルはその場を離れた。
この大神殿を守る魔道具、見つけて壊しちゃおっかなと、ふと思ったが……
――ダメダメ。ソーユートコロ、ケイビ、イッパイダモン。アブナイノ。
ミュリエルはひょいひょい飛んでは隠れ、飛んでは隠れながら、忍び込んだ時と同様にあっさり抜け出すことに成功する。
セレスティーヌがいなくなる以前の大神殿であれば、この小さな侵入者に気付く余裕のある者がいただろうが……
お次は、王宮だ。
--------------------------
読んでくださってありがとうございます!
ミュリエルの大冒険(仮)次回がラストの予定です。
847
あなたにおすすめの小説
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~
白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。
タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。
小説家になろうでも公開しています。
https://ncode.syosetu.com/n5715cb/
カクヨムでも公開してします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500
●現状あれこれ
・2021/02/21 完結
・2020/12/16 累計1000000ポイント達成
・2020/12/15 300話達成
・2020/10/05 お気に入り700達成
・2020/09/02 累計ポイント900000達成
・2020/04/26 累計ポイント800000達成
・2019/11/16 累計ポイント700000達成
・2019/10/12 200話達成
・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成
・2019/06/08 累計ポイント600000達成
・2019/04/20 累計ポイント550000達成
・2019/02/14 累計ポイント500000達成
・2019/02/04 ブックマーク500達成
【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!
青空一夏
ファンタジー
(ざまぁ×癒し×溺愛)
庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、
王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。
――だが、彼女はまだ知らなかった。
「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。
心が折れかけたそのとき。
彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。
「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」
妹を守るためなら、学園にだって入る!
冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。
※兄が妹を溺愛するお話しです。
※ざまぁはありますが、それがメインではありません。
※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる