聖女転生? だが断る

日村透

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未知の瘴気

130. だいたい暗い場所には何かがある

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「着きました。あちらです」

 階段を下り切ってすぐそこに、巨大な女神の石像が立っていた。
 この地下はとても広く、円筒形をしている。さながら私達のいる場所は、地面に埋まった塔の底だ。

 壁を背に立つ女神は、私達から見れば横向きに立っていて、彼女の視線の先には広い泉があった。
 水面はこの円形広場のゆうに三分の一以上を占め、沐浴をする者のための階段がある。その階段の両脇に設置された魔灯石によって水底が照らされ、石材が敷かれているのが見えた。
 深さは腰よりも少し下あたりが浸かるほどで、プールではなく大浴場を連想する。

 女神像の周りにも魔灯石が配され、星灯りの後光のごとく、仄かに辺りを照らしている。

「想像以上に広いな。ロランでもこうだったのか?」

 なんとなくこういう場所では声を抑えたくなる心理か、アロイスが小声で尋ねてきた。

「いいえ。あちらの神殿の地下は泉の間だけでなく、貴重なものを保管する場所ですとか、階段と廊下とお部屋が区切られていましたのよ。このように、下りてすぐそこが泉ということはありませんでしたわ」
「セレストの大神殿もそうなっておりますよ。ここはとても珍しいと思います」

 トマス神官の補足に、アロイスは「ふぅん」と呟いた。
 彼の目は、真っ暗な泉の奥に向けられている。

「何か、ありそうですわよね?」
「あんたもそう感じるか?」
「隠すためにわざと真っ暗にしているのではないかしら、なんて先ほどから疑っておりますわ」
「だよなぁ。女神の視線も、微妙に泉とズレているしな」

 アロイス、鋭い。
 女神像の目をよく見てみれば、その視線は『下』を向いてはいないのだ。
 つまり泉ではなく、その向こうの真っ暗な場所にある何かを見ている。

 私達の会話にトマス神官はきょとんとし、護衛騎士は感心を滲ませた顔で頷いていた。
 こういう『ひっかけ』めいた仕組みは、そういうものに慣れていないと気付きにくいものらしい。
 たとえばこういう場所で宝箱を発見した場合、普通は「ひょっとしたらこれは宝箱に擬態したモンスターかも」とか「開けたら毒ガスが出てくるかも」とか「矢が飛んでくるかも」とか「床がバッカリ開いて……」なんて疑ったりはしない。
 宝箱は宝箱。ひゃっほうと持ち帰るか、その場で開けてみるかだ。

 前世で目にしたファンタジーあるあるは、当の魔法の世界の住民であろうと、慣れ親しんでいなければ思い付きようがない
 石像や銅像の視線の先は……とか、あからさまに真っ暗な場所には大抵貴重なアイテムが……というのもそれに当たる。
 些細ささいな違和感を気のせいと切り捨てず、しっかり怪しめる人物は少数派なのだ。

「下りる最中は、底がこんな風になっているように見えなかった。何か幻術の仕組みでもありそうだろう」
「わたくしも思いましたわ。上からは底なしのようにしか見えませんでしたわよね。それに、解毒の魔法も常時かかっているみたいですの」
「解毒の魔法ですか?」

 不思議そうな顔をするトマス神官は、どうやらこのことを知らなかったらしい。

「解毒魔法には、疲労を軽減する効果がありますのよ。先ほどの階段、結構な長さでしたけれど、水で満たした桶をかかえて上がってもさほど疲れを感じなかったのではありませんこと?」

 覚えがあるのか、トマス神官はハッと目を見開いた。

「言われてみれば……そうですね。桶一杯分でも、かなり疲れるはずなのですが、息切れをした記憶すらありません」
「だから余計に、水路よりここを使う気になれたんだろうな」

 アロイスの結論がすべてだった。
 仮に疲労回復の効果がなければ、こんなところまで毎日水をみに来る気にはなれない。
 大変だからやっぱり水路で、という流れになったことだろう。

「ますます、何かがありそうな場所ですわ」
「同感だ。――試してみるか」

 アロイスは懐の隠しから、何やら石を取り出した。
 私の作った浄化の魔石ではない。魔石灯として使われる、魔力を込めると光を放つ魔石だ。

「灯りは無用と聞いていたが、まあ念のために持って来ていた」

 彼はそう言いながら、その石を握り込む。
 微量の魔力さえあればその役目を果たせる石は、白よりも温かみのある輝きを放ち始めた。

 ――温白色、かしら? なんだかホッとしますわね。

 かなり明るくなったところで、アロイスは見事なフォームでその石を投げた。
 なかなかの速度で飛んでいった石は、水に落ちるギリギリのところで向こうの壁に弾かれ、カツンと音を立てた。

「おおっ……!?」
「あれは……」

 トマス神官と護衛騎士が声を上げた。
 石がぶつかるほんの直前に照らされたその壁には、確かに何もなかったはずなのに、まるで灯りが一瞬で染み込んだかのように奇妙な線が出現したのだ。
 温白色に輝く夜行塗料がこの世界にあるとすれば、それで壁に線を引くとああなるだろう。

 ――泉に落ちた魔石、魔力がもう空っぽですわ。あの線へ触れた瞬間に、すべて吸い取られましたの?
 
 石とは逆に、壁の線は今もはっきりと浮かび上がっている。
 ここからでは判断がつきにくいけれど、当たった場所から半径一メートルぐらい……いや、もっと広い範囲だろうか。

「……わたくしも少々、試してみますわ」

 泉の手前でしゃがみ、水の浅い部分に手で触れた。
 そしてこの泉すべてを浄化する要領で、一気に魔力を流し込んだ。




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 読みに来てくださって本当にありがとうございます!
 最近お休み多くて申し訳ないです(汗)

 更新のお知らせ:7/2~4まで更新お休みとなりますm(_ _)m

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