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そして始まりへ
132. 薔薇の庭
しおりを挟むいつも読みに来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。
本日は2話更新です。
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次に目覚めたのは翌日の朝だった。
昨日俺が起きたのは夕方頃、天気は薄曇りだったらしい。アレッシオに鬼畜外道のおやすみなさいをしでかした後は、すやすや呑気な寝息を立てながら自分で寝返りを打ち、意味を成さない寝言を漏らし、手に触れればきゅっと握り返して、明らかに今までと違い『普通に寝ているだけ』の様子だったので、それは心底彼を安心させたようだ。
というか、もしかして一晩中起きて付いていてくれたのか?
寝姿をずーっと観察されていたのが恥ずかしい以前に、ちゃんと寝てくれよ!
「あなたからしっかり反応があって、こうして会話ができる幸福を噛みしめているのです。多少は大目に見てください」
そ、そんな風に晴れやかな微笑みで言われてしまったら俺には何も言えない……むしろ俺のほうこそ、かなり大目に見てもらわないと人生終了することが多過ぎるぞ。
しかし笑顔が晴れやかでも、顔色は良くない。こういう時はブルーノ父だ。
頼むブルーノ、アレッシオを休ませてやってくれ!
「お任せを、閣下。この愚息にはわたくしめがキッチリ休息を取らせます」
「父さん、俺は……」
「やかましい、疲弊した面を閣下に晒すな。首根っこ引っ掴んで放り込まれたくなければ自分の足で寝室へ行け、坊や」
―――うお、ワイルド父! 俺にとって激レアな光景がここに!
こっそりテンションを上げている俺の前で、敗北したのはアレッシオだった。自分より背の低いお父さんに坊やと言い切られても、反論せず渋々従うアレッシオ……!
一般的な高位貴族なら顔をしかめる平民親子のやりとりだが、俺はこういうのが大好きだ。多分二人にもしっかり把握されていると思う。
アレッシオはすごく名残惜しそうに部屋を出た。その表情に心が痛んだけれど、俺が近くにいると彼は絶対に休めない。ちゃんと生きているのかどうか、一晩中ずっと起きて確かめようとしている姿がありありと浮かぶ。
俺だっておまえが傍にいないのは寂しいよ。いっそのこと俺の部屋とアレッシオの部屋の壁、ぶち抜いて直接行き来できるように繋げてやろうかと血迷いそうになるぐらいだ。そうしたら広義では『同じ部屋』ってことで、多少の距離ぐらい気にせず満足できそうだし。
でもこの館はつくりが頑丈だし壁も分厚いから、本気でやろうとしたら大工事になるんだよな……。
要検討だ。
そんな俺は俺で、昨日に引き続き怠さと眠気、腹部の痛みがある。目には見えない細かい部分で損傷があったのかも、と医師の爺ちゃんは首を傾げつつ、でも回復に向かっているのは間違いないと、久しぶりに心穏やかに休めてスッキリした顔で鎮痛薬を処方してくれた。
身体を見せる必要がなくてホッとした……と言いたいところですが、首やら鎖骨やらあちこち、隠せない場所に昨日までなかった花吹雪が舞ってましてね、ええ。温泉に入ってはいけない身体にされております。
「快癒なさるまで過度の行為は厳禁ですからな」
と、俺ではなくブルーノ父に言う医師。
「愚息にきつく言い聞かせておきます」
完璧な執事スマイルで答えるブルーノ父。
「…………」
顔が燃えそうなのに発熱の心配をされない俺。
違うんだ、犯人は俺なんだ―――と潔く自白できない、意気地なしの俺を許してくれアレッシオ……。
胃を慣らすために、ほぼ流動食に近い食事から始め、食べ終えて再び横になり、眠っては起きての繰り返しだった。何となく俺のこの状態は、致命傷を無かったことにした影響じゃないかと思う。肉体だけは治っていても、受けたダメージの余韻みたいなものだけが残っているというか。
その日もほとんどを寝て過ごし、さらに翌日の朝になれば、眠気も取れて頭の芯もすっきりしていた。ともすればピンボケしがちだった視力も完全回復している。
「おはようございます」
少しバツの悪そうな苦笑いを浮かべ、朝の挨拶をしてくれるアレッシオの顔色もすっかり良くなっていた。彼もまた丸一日寝ていたらしい。逆にエルメリンダとミラが昨日は寝ずの待機をしてくれていたので、彼女らは入れ違いに休みを取りに行っている。
少しだけ固形物を増やした朝食を終え、もう包帯は不要じゃないかと思うぐらい細い傷になったそこの様子を確認し、主に皮膚の保護を目的として今日も新しい包帯を巻き直す。
「痛みはありますか?」
「それはまだある。傷の周辺に触れるだけじゃなく、腹に力をこめると痛い。だが我慢できないほどではないから、医師の言った通り内臓や骨には特段悪いところはなさそうだと……おい、アレッシオ?」
不埒な指が、彼の散らした花弁を一枚一枚辿っている。
おいこら、だから触られたら反射的にビクビクして痛むんだってば。全然強く止められない俺も意志薄弱だが……。
「父に笑顔で叱られてしまいましたからね。完治までは我慢します」
心から残念そうに前を閉じられ、かっと赤面した。我慢すると言いながら、胸の花びらを一枚追加したのは何でかな? いいけど。
「ところで、その……私が先に寝てしまったあと、どうしたんだ?」
「適当に処理しましたよ」
「―――すまん。私ばかり……」
「お気になさることはありません。あなたが生きて私に応えてくださるのですから、無上の幸福でした」
本気百パーセントの声音と微笑が心に痛い……!! 「あとで憶えていろ」みたいな副音声もないのがますます痛い!!
己の罪深さにシーツへ突っ伏す俺に、アレッシオがくすくす笑いながら提案してくれた。
「もし私に侘びをしたいとお思いでしたら、そうですね……本日は庭でデートをしてくれませんか?」
「デート?」
まだ少し足が震えて息切れもするけれど、全く歩かなければ足が弱る一方だからと、医師の爺ちゃんからも短時間の散歩を推奨されているそうだ。
否やはないので、今度は首がきっちり隠れるように薄手のストールを巻き、丈の長いブーツを履いて、ガウンの上から春物の外套を羽織る。少々季節外れだが、ぎりぎり着られないことはない季節だ。
デートなんて俺へのご褒美であって、全然おまえへの侘びにはならないんだがな。しかし準備を済ませたアレッシオが嬉しそうなので、まあこれはこれで良しとする。
起きて初めての散歩なので、今日ばかりはメイド長と護衛騎士もついて来た。いつも専属メイドの二人が一緒なので、メイド長が付くのは初めてかもしれない。料理長のおっさんとはうまく行ったのだろうか? あとでエルメリンダに訊いてみよう。
背中をアレッシオに支えられ、その腕に掴まっているとかろうじて普通に歩ける。会う人会う人皆にびっくりされて涙ぐまれ、罪悪感がザックザクに掘り返された。これでずっと目覚めなかったら、俺の予想など遥かに超えて深刻なことになっていたんじゃないかと今さらながら背筋が冷えた。
今朝は晴れ。風はさらりと乾いて、暑くなる季節はもう少しだけ先だ。
息切れしつつも心地良く、休み休み庭を歩く。
「おお……! そうか、もうその時期だったんだな」
「ええ、見事なものでしょう? これをお見せしたかったのですよ」
アレッシオの言葉に、庭師のおっちゃんもニコニコだ。
六月初旬。蕾を楽しみにしていた薔薇が、綺麗に咲き誇っていた。
「この薔薇は温暖な気候を好み、六月から九月頃までは花を咲かせるそうです」
「結構長いんだな。イレーネ達がこちらに戻ったら、ここで皆でお茶をしたい」
「学園の見学会でお食事をされた時の、あの庭と雰囲気を似せた場所にしましょうか?」
「それはいい! そうしてくれ。あちらにも何か植えているようだが」
「これらとは別の種類になりますが、秋咲きの薔薇も植えているそうです。あちらは春咲きの蔓薔薇ですね。冬以外はほとんどの季節で、風情の違った薔薇を楽しめる場所になりますよ」
ほほー。それは楽しみだ。
俺はどちらかといえば花より団子タイプ、ガーデニングもそんなに興味がなかったのに、こんなに思い入れが強くなるとはなぁ。
「時々思うんだが、野花のほうが強靭なはずなのに、誰かに世話をしてもらっている薔薇のほうが強い気がする。私の個人的な印象だが」
茎も葉も花弁の艶やかさも、不思議と生命力に満ち溢れている気がするんだよね。
「そうですね……確かに」
アレッシオは何故か俺を見て、どこか意味深な笑みで呟いた。
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