巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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そして始まりへ

131. 変化した展開*

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 更新が遅くなりましたm(_ _m)
 本日は1話のみです。

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 本邸は大騒ぎになった。
 すぐさま医師が駆けつけて細かく診察されたが、アレッシオの目が赤いことには誰も突っ込まなかった。だって会う人会う人、みんな目が充血してるんだよ。
 エルメリンダやミラはもちろん、メイド長やほかの使用人も集まってきて、目覚めたことを泣きながら喜ばれてしまった。

 俺は刺された直後からおよそ一週間、ずっと意識がなかったらしい。
 幸い口に水を含ませれば自然にえんする動きを見せ、水分だけは摂取させることができたので、必ず医師が傍で見ている時にアレッシオやメイド達が俺の上半身を起こし、水やスープを少量ずつ飲ませてくれていたそうだ。

 自然に飲む反応がなければ、先を丸めた管を喉から入れ、水を流し込むことも検討しなければいけなかったという。医師が「このぐらい」と示したのは胃まで届く長さじゃなく、しかもミスの危険があるから最終手段とされている行為らしい。
 ああ……もし違う所に管を通したら……ひいい怖い……!
 それでも水無しでは数日しかもたないんだから、全然飲まなければやるしかないよな。

「変色しておった部分も完全に消えておりますな。熱もなし。本当に、ようございました……」
「変色?」
「傷口の周辺の広範囲に打撲痕が出来ていたのです。そのためもあってか熱を出され、数日で下がったのですが、意識だけは戻らず」

 ―――あの元料理長が俺の下腹にナイフを突き刺そうとした時、手元が狂って腹を殴った形になり、俺は意識を失ったのではないかと、そう思われていたそうだ。
 だが三日、四日と目を覚まさず、原因もわからないので、医師の爺ちゃんも生きた心地がしなかったらしい。
 ごめん、プレッシャーすごかったよな……。

 その後も異常がないか確認されたが、完治していない傷の周辺が痛むのと、何日も寝ていたせいで消耗していること以外におかしいところはなく、医師の爺ちゃんは自分の部屋に戻って行った。俺の飲食時にトラブルがあった場合に備え、泊まりがけで看てくれていたのだ。
 この一週間気が休まらなかっただろうから、ゆっくり休んで欲しい。

「すまない……皆……心配をかけた……」

 さっきよりスムーズに出るようになった声で謝れば、また皆に泣かれてしまった。うわぁん、どうしようこれ。
 比較的冷静だったブルーノ父が―――それでも手巾ハンカチで目を押さえていた―――俺が起き抜けで疲れているだろうからと、アレッシオだけを残して皆を下がらせてくれた。



   ■  ■  ■ 



「喉は渇いていませんか?」
「ん……水を、飲みたい」

 誰もいなくなった寝室に、アレッシオと二人きり。何か尋ねようとする前に問われ、喉の渇きを意識した。
 身体を起こしてもらうと、なんだか全身が怠い。熱はないはずなんだが、妙に手元があやうかった。
 アレッシオがグラスを口元で傾けてくれて、その後は一気にごくごくと飲み干していた。

「不快感などはありませんか? 医師には何もないと仰っていましたが」
「気分は、本当に悪くないんだ。ただ、全身が妙に重い。話していると、少しだけ、息切れする」
「寝たきりでしたから、お身体が弱っているのでしょうね。お食事も固形物のないスープのみでしたし、全く足りてはいないでしょう」

 前半は熱も出てたっていう話だからな。かなり消耗していたんなら、この怠さも当然か。
 だけど―――いったいどういうことなんだろう。医師の診察時に見た俺の傷口は、ほとんど治りかけだった。
 あの傷がこんな短期間で治るわけがない。ナイフの刃がすべて沈むぐらいしっかり刺さっていたんだ。その感触だって憶えている。うっすらと激痛を感じた憶えもあるが、すぐに大量の出血で視界が回り、痛覚は遠ざかっていった。あの感覚すべてが幻覚だったって?

 そんなわけがない。だって俺はあの時、子猫に会ったんだから。
 そうだ、子猫。あいつはどこにいる?

「申し訳ございません。アムレート様は先日より行方が知れず、父が捜させております」
「えっ、いないのか?」
「一週間ほど前から、お姿が見えなくなったそうです。この件で皆が動揺しており、その間にどこかのドアか窓から逃げてしまったのでは、という話でした」

 ……ひょっとして、俺と会った頃からいなくなったのか。
 何をしているんだろう? あいつが散歩に行って迷子になるとは思えないし。

「申し訳ございません」
「あ、いいや、おまえ達の責ではない。あいつは気まぐれだから、きっとひょっこり戻ってきてくれるだろう。それよりも、あの後どうなったのか教えてくれないか?」

 アレッシオは少し表情を硬くして頷いた。

「あの日のことですが……」

 あの日、俺達は視察の行程をほぼ消化し終えていた。予定の二週間はやっぱり超過してしまったものの、あの炊き出し広場が最後だった。
 様子のおかしい数頭の馬が突っ込んできて、俺は炊き出しに集まる人々に紛れ込んでいた元料理長に刺された。
 しかし幸い手元が狂ったようで、意識をなくしてはいたが軽傷。
 そこは本邸まで一日もない距離だった。襲撃の協力者が潜んでいる恐れがあり、宿には運ばず、急ぎ馬車を手配して本邸まで戻って来た。

 傷の状態は、刃先が少し沈んだ程度。血は多少流れたけれどすぐに止まり、化膿もしなかった。
 打ち身のように変色していた部分も、見る限りそこまで酷い内出血は認められず、実際に数日ほどで色がかなり薄くなった。
 熱も数日で下がり、なのにどうしてか意識は戻らず、今日に至るということだった。

 俺が軽傷って、どうしてそうなったんだ? なあ、子猫よ。おまえ、何かやったのか?
 身体を起こしたままでいるのがつらくなってきて、ぽふりと倒れた。後頭部をほどよく包んでくれる枕の感触が心地良い。
 すぐにアレッシオが顔を覗き込んできてドキリとした。俺の額に手を当てているのは、また熱が出たかと心配したのか。

 硬い地面の感触、目の前に空、触れられないアレッシオの顔。

 指が動いた。腕がちゃんと持ち上がり、不意に泣きたくなった。
 腕ってこんなに重かったんだな。片腕で五キロぐらいだったっけ? 普段はまったく意識しない自分の重量を、体調が悪い時は強く感じる。
 アレッシオの頬に手を添えた。彼は小さく震え、大きな手で俺の手の甲を包み、手の平に口づけてくれた。
 唇の感触。手の平に彼の熱と吐息を感じる。

「私は、生きているんだな……」

 溜め息をつきながら、そんな言葉を漏らした。彼は俺よりも深く息を吸い、静かに「はい」と答えた。どこか震えているのは、涙の名残か。
 致命傷はどうやら無かったことになり、皆の記憶もそれに合わせて変わったようだが、俺が彼の目前で刺された事実は変わっていない。
 その上ずっと意識不明だったのなら、さぞかし不安な思いをさせてしまったに違いなかった。
 どうすれば癒やしてあげられるのだろう。

「……この辺りは、痛むのですよね?」

 掛け布団の上から、俺の腹部の辺りを見て言った。

「ん? ああ、こうして動かなければジンジンする程度だが、動くと痛みがある。……アレッシオ?」

 掛け布団を膝の上までめくられた。
 最近俺が着ている寝間着はガウンばかりだ。従来の貴族用パジャマはひらひらのネグリジェみたいなやつだったから、どうにも趣味に合わなくて近頃は着ていない。アレッシオも多分あのデザインが好きになれなくて、これを売り出すまでずっと昔の私服をパジャマにしていたみたいだし。
 怪我の手当てやお医者さんの診察にも便利で、腹の包帯を交換する時に楽だったんじゃないかと思う。
 あの、ところでアレッシオ、何をしているのかな?

「は、ぁ……」

 首筋へ顔を埋められ、吸われた。
 絶対、痕になっている。
 口付けは止まらず、首を何箇所も吸い、確実に痕をつけながら徐々に下りていった。その間も彼の手は俺の腕を、腰を、脇腹を、布越しにまさぐってくる。

「ん、あぁ……アレッシオ、まて、待っ……」
「痛みますか?」
「す、少し、いたい……」

 脇腹の辺りの手が離れた。いやそうじゃなく、直に触れなくても腹に力をこめた瞬間にズキズキするんですが。
 なんてあわあわしていたら、合わせの部分に手がかかり、ぐいと左右に引っ張られた。胸から腹まで、一気にあらわになる。

「アレッシオ? ま、待ってくれ、あの……」
「ご安心を。最後まではしません」
「は、んん……!」

 両胸を持ち上げるように撫でられてのけぞった。
 『ご安心を』って使いどころが違うんじゃないかな!?

「んっ、あ、ふうっ……んんっ」

 胸全体を撫でながら小さな粒をつまみ、やさしく揉みこみ、快感を送り込んでくる。
 育てられた尖りに、舌先がちろりと触れた。絡みつき、押しつぶし、唇全体で包んでねぶる。
 鼻から堪えきれない嬌声が漏れ、腰が勝手に浮き上がった。止めようとしても、もうまともな言葉が出ない。口を開けた途端に変な声が出てしまう。

 下腹の痛みと、それ以上の快楽に混乱して目尻に涙が滲んだ。やっと唇が離れた時、アレッシオの口の中でぷくりとふくらんだ粒が、見せつけるように濡れて光っていた。

「あぁ、あ、だめだ、だめ……」

 あちこちを吸いながら痕を残し、また下りていく。人に見せられない身体の出来上がりだ。
 紐を解かれ、下着を下ろされ、目指す先の行為が読めて慌てて止めようとしたら、両手をシーツに縫い付けられた。
 もとから力の差がある上に、今は全然力が入らない。簡単に抵抗を封じられ、すっかりち上がっていたそこをはむ、と食べられてしまった。

「っ―――だ、だめだ、それ、だめ、アレッシオ、アレッシオ……っ」

 はむはむ優しく食べられていたかと思えば、飴をねぶる動きで舌を這わされ、喉奥まで呑み込まれる。
 のけぞり、頭をいやいやと振っても口の動きを止めてくれない。
 ろくに力の出ない足がシーツを掻いた。そのたびに自分のそこをアレッシオの口に押し付けてしまうのに、でも止められない。

「ひんっ、あっ、あう、あっ……ッ!!」

 びく、びく、と身体が痙攣けいれんした。一瞬、腹部の痛みも忘れるほど強烈な熱にすべてをさらわれて……。

「……ぁ」

 俺を含んだままのアレッシオの喉が、ゴクリ、と……。

 ……。
 おおおま、おまえ……いま、俺の、飲ん……。

 口から出さずにゴクリとやられたから、その瞬間がダイレクトに伝わっちゃったし。
 しかも、唇で俺のを包みながらゆっくり引き抜くとか……テクニックが高度過ぎてなんならもう一回ちそうなんですが!?

「……ふぅ」

 いや「ふぅ」じゃねーだろ! なんでそんな余裕たっぷりに唇ペロっと舐めてんの!?
 そんでもって俺、目覚めたての半病人だぞ!? ヘロヘロの相手になんつー過激なことをしてくれちゃってんだ!
 睨みつけてやりたいのに、自分の瞳がとろんと潤んでいるのがわかる。だってものすごく気持ち良かったんだよ……!
 アレッシオは力が抜けてクニャクニャになった俺を抱きしめ、ささやいた。

「早くお元気になってください。お身体の調子が戻れば、お望みのままいくらでも抱いてさしあげますから」
「―――……」

 犯人、俺。
 起き抜けに掘った墓穴を埋め忘れた自業自得でした。
 弱った獲物を襲うなんて鬼畜! とか濡れ衣を着せてスミマセンでした。

 おまけに、少々刺激の強いスキンシップが万全ではない身体にとどめを刺したのか、ゆらりと眠気が襲ってくる。
 待ってくれ。ここで眠ったらアレッシオはどうなるんだ。俺ばかり一方的に気持ちよくしてもらっただけで、まだアレッシオは全然だろ。
 ここでおやすみなさいをしたら、俺こそ鬼畜外道―――……
 
 抵抗もむなしく、ほどよい疲労感と心地良さが眠気を後押しし、意識が押し流されていった……。


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