巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透

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番外・後日談

2. 俺と子猫とアレッシオ

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 俺が久々に王都邸へ足を踏み入れたのは、三月に入ってすぐの頃だった。
 修繕も終えてすっかり綺麗になったその建物の、まだいろいろ不足している当主の部屋で子猫に再会した。

「アムちゃん今までどこに行ってたんですかぁ~っ!」
「みー♪」
「ご無事でようございました……!」

 俺はもちろんだが、子猫の帰還にはメイド達も狂喜乱舞だった。日頃から人前ではきちんとしたふるまいができる彼女達なので、こんな時ぐらいは騒いだっていいだろう。
 アレッシオだけすーんと無表情だったけどな。

 家具や寝具が調うのにあと数日かかるそうで、それまでは《秘密基地》で暮らす。
 晴れやかな気持ちでジルベルトや王都の皆と再会を喜び合い、歓迎の夕食会などもあって、静かに落ち着いて話せるようになったのは夜も遅い時間だった。
 当主の部屋でアレッシオと子猫を含めた二人と一匹きりになり、ソファに並んで座った。そして改めて、アレッシオに事の次第というか、子猫の正体もろもろについて話した。
 もしやと思っても、ハッキリ聞くまでは確信が持てなかったようで、アレッシオは目を見開いて驚いていた。

「そういうこと、だったのですか……」
「でも僕、悪い子猫じゃないよ? みゅふ」
「そうだぞ。悪い子猫じゃないぞ」

 久しぶりの子猫マッサージを堪能しまくっている俺と子猫に、アレッシオは何とも言えない表情で見つめてきた。

「まぁま、気にしなさんな。世の中こーゆーことがあったっていいだろ」
「その口調も予想外で、少々慣れません」
「そうなのか? 私はすっかりこれに慣れてしまったから、逆にほかの口調が想像つかないな」
「騙されちゃダメだぞ兄さん。コイツは慣れる以前に最初っから順応してたからな」
「その光景が目の前に浮かぶようです。……しかし本当に、ほかの者達には言葉が聞こえないのですね。私もそうでしたし」
「おう。メシの時に僕とコイツが喋ってても、誰も気にしなかったろ」

 夕食会の時、俺の足元ではぐはぐ皿の中身に顔を突っ込む子猫と、みんなの前で話してたんだよね。

『兄様、アムレートが戻って本当によかったですね』
『ああ、本当にな。……だいぶ減ったが、おかわりは要るか?』
『みゅ、要るぞ』
『うまいか?』
『うみゅ! ここの料理人は仕事丁寧で食材もいい。魚も生よりこっちで料理したのがうまいな♪』
『それはよかった。料理人達を褒めてやらねばな』
『…………』

 最後の「…………」はアレッシオだ。執事の無表情と、内心を決して覗かせない執事スマイルを足して割った表情で、一度も会話に交ざってこなかった。

「いえ、交ざるも何も、人前であれほど会話をされていたなんて思いもしませんよ……! 普通はこっそりとするものでは?」
「もっと言ってやれ兄さん。僕もな、僕らの会話を耳にした奴から猫と話す妙な坊ちゃんと思われるぞ、みたいに言ったことあんだよ。なのにコイツ、人前だろうが全然気にせず堂々と僕に話しかけてきやがんの。しかも、だぁ~れもそれを変だと思わないんだよ!」
「ああ……なるほど……」

 アレッシオは複雑な顔で、過去の己を思い返しているようだ。
 うん、全然変だと思わなかった一人だもんな、おまえ。

「だから『子猫とのお喋りで忙しい』とよく言っているじゃないか。第一、猫と話して何がおかしいんだ」
「まさか言葉通りにお喋りが成立しているとは思わないでしょう……!」
「もっと言ってやれ兄さん」

 気のせいか子猫よ、俺への当たりがきつくねえ? なでなでしてあげてるじゃん、ほらほら。
 するとアレッシオは何を思ったか、じー……と子猫を見つめた。

「…………」
「うみゅ、そうだぞ?」
「…………」
「そうそう、そーゆーコト」
「おい、おまえ達。私の目の前で内緒話をするな。何を話しているんだ?」
「いえ……本当に心が読めるのだな、と」
「読めるぞ。ちなみにさっきの会話だけど、兄さんがおまえとむちゅむちゅする時、おまえがいつも僕に見られるのを恥ずかしがってたのはそーゆーことだったのか? っつー確認」

 ……っっよりによってそれかあぁぁっ!!
 なんでここで訊いてんだよアレッシオ、そういう質問こそ俺のいないところでコッソリやってくれよお!

「『何故ここでそれを訊くんだ、そういう質問こそ自分のいないところでコッソリやってくれ』だってさ」
「ふむ……」
「ちょっ、―――他人の心をベラベラ話すのはルール違反じゃなかったのか!?」
「この兄さんの命はおまえと等価の扱いだから、違反にはならないぞ」

 う。そ、そうなのか。そう言われるとなんか嬉し恥ずかしなような、怒るのがちょっと難しいな。
 背中から腰へ回されたアレッシオの腕に、少し力がこもった。俺の恥ずかしメーターの数値がぎゅんと上昇した。

「ん? ということは、アレッシオが今何を考えているのか私が訊いても」
「いいですよ? 是非、私が今何を考えているのか教えてあげてください、アムレート様」
「あ、いや、やはりこういうのはよくないなうん、やめておこう。言わなくていいぞ」
「遠慮なさらずに。どうぞ」
「うみゅ。あのな―――」
「いや! 本気で! 言わなくていい!」

 絶対に今ここで聞いたらまずいやつだろそれ! 人の頭の中なんて興味を持つものじゃないよね! ね!

「ところで、ルール違反というのは?」
「みゅ。『自力では知り得ない知識』が欲しけりゃ、対価が必要なんだよ。だから『相手が何を考えてんのか全然わかんなくて知りたい』てのもそれに該当する。『あいつはこーゆーこと考えてそうだけど当たってる?』っていう答え合わせぐらいなら問題ナシ」
「外れていた場合、正解は教えないということでしょうか?」
「そゆコトだな」

 アレッシオが、俺に向かってにこりと笑んだ。

「あなたが今何を考えておられるのか、想像して当ててみるゲームでもしましょうか」
「みゅふ♪ おもしろそーだな♪」

 ひいぃっ、やっぱりそうなるか!?

「ただのお遊びですよ」
「そうそう♪ 固く構えんなって♪」

 ガッチゴチに構えるわ! アレッシオより俺の頭の中身のほうが断然まずいだろ!
 俺の変態度合いがバレてしまう……!

「ちなみにコイツは今、自分のヘンタイ度がおまえにバレるからヤダって嫌がってるぞ」
「ほう……」
「お、ま、え……!」
「私への変態度、でしょうか。つまり日頃から私に対し、想像してくださっていると?」
「そーそー♪」
「はう……!」

 バレた。「こいつ俺で妄想してやがるんだな」ってアレッシオにとうとうバレた。
 三十六計逃げるに如かず―――腰をグッと掴まれて逃げられなかった。しまった、先手を打たれていた。
 俺は今どこにいるのか。ソファでアレッシオの隣だ。アレッシオの腕を背もたれにして密着していたら、そりゃそうなるわ。万策尽きた。

「気付かずに失礼いたしました。どういうをされていたのか、改めて教えていただけますか?」
「『素直に吐かなきゃ身体に訊くぞ』ってヤツだな♪」

 正直に言っても言わなくても、どのみち訊かれてしまうやつな気がするのですが……?

 子猫が俺の膝からスルリと抜け出し、安全地帯からこっちをキラキラ観察している……!
 構わず危うい悪戯イタズラをしかけてくるアレッシオ……!

 もしや二対一で追い詰められてないか俺!?

 最終手段・泣き落としで勝利した。
 ……アレッシオの部屋に移ってからのあれこれを思うと、勝った気はせんがな。



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 読みに来てくださってありがとうございます!
 イチャラブ回は今回限りではなく、ラストあたりにまだあります(笑)

お知らせ:
 明日8/17、所用で時間が取れそうになく、次の投稿は8/18になります。
 (´;∀;`)
 今回も毎日更新しようと思っていたのにすみません……。


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