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番外・後日談
7. 友の結婚、そして仲間に加わりそうな予感…
しおりを挟む五月。暖かさと涼しさが絶妙に調和する季節、ルドヴィクと王女様の結婚式が執り行われた。
代々の王族もそこで式を挙げてきた専用の会場は、あちらの世界の教会風の建物だ。夫婦が新たな人生を、互いへの誠実さを『天』に誓い合う。
ルドヴィカが教えてくれたんだが、王女様の『当日までお楽しみ』は大成功だったそうだ。ブーケを持って中央を歩く王女様、彼女に寄り添って歩くルドヴィク、どちらも誰が見ても演技ではないのがわかる幸せそうな笑顔だった。
ルドヴィクは公爵家の礼装を纏っている。濃い紫と黒の生地に銀糸の刺繍が施されていて、背中には公爵家の紋章。
花嫁のウエディングドレスは純白、古の女神をイメージした民族衣装っぽいもので、ほぼ王女様自身がデザインしたと聞いている。
ルドヴィクの婚約者を賛美する噂は大量にあり、そういうのは単なる『お決まり』として話半分に聞かれることが多いけれど、「お美しい姫君」や「素晴らしいセンスの持ち主」という点は事実だと自ら証明したわけだ。つまり「賢い御方」というのの証明でもあるな。
お似合いの美男美女である。衣装も豪華だ。
しかし何より、二人とも心から浮かべているであろう最高の笑顔に勝るものはあるまい。
二人の仲睦まじい様子を眺めていると、こちらも嬉しい気持ちになるな。
俺が座っているのは友人席。そこにはイレーネ・ジルベルト・シルヴィアももちろんいる。
家格によって席順が厳格に決まっていて、ずっと背後の席にはラウルとニコラもいた。
―――残念ながら、アレッシオは招待されなかった。もしや俺との関係で引っかかったのかと思いきや、単純に会場のキャパの問題だった。
まず優先されるのが王族。公爵家の親戚のほとんどは王族である。
次に王女様のお身内が何名か。こちらも当然、エテルニア王国の王族だ。
そして新郎が仕事をしていればその関係者、重要な地位にいる者。
最後に友人……という優先順位になる。
友人は通常、その本人だけが出席するもので、一家全員が招待されているのは俺んちだけ。だって家族ぐるみで親しくしているからね。
さらに今回、不遇の立場に落とされながら名誉を回復できた人々が何人も招待されていた。これはルドヴィクの意向ではなく、国王陛下からの指示だ。
不吉な出来事や悲しみの記憶を慶事で洗い流すというのはよくあることで、ルドヴィクと王女様にも否やはなかった。
ただし、それがあって招待枠がキリギリになった。
ただでさえルドヴィクは、元クラスメイト全員を招待しているのである。これは過去に例のないことなんだそうだ。
学生時代の友人なんて、特に親しい数名か、そもそも呼ばない者だっている。招待客リストを作製した時、担当者に「全員って、全員?」みたいな顔をされたそうだ。
俺らのクラス、みんな仲良かったからねえ。それにさ、考えてみれば俺を含めて、みんな『ヴィオレット兄妹の初めての友達』なんだよ。
今だって連絡を取り合っているし、そりゃ呼びたいわな。
でもな……会場には、収容できる最大人数ってものがあるんだよ。
「一人としてリストから外させはせんぞ」と、かなりの無理を通して席を増やし、なんとか全員呼ぶことができたらしい。
そんなわけで友人席は、微妙にさりげなくキッツキツ。欠席者ゼロだよ、素晴らしい。
国内で最大規模の結婚式場、サクラを雇って空席を埋めなきゃ、なんて心配が無用なんだからいいことだよね。王様だって、余裕があると見越して招待客を追加させたんだろうし。
蓋を開ければ、自分の指示が席を圧迫するなんて思わなかったんだろうな。
「お二人とも素敵……!」
「ヴィク兄様があんなに嬉しそうなお顔をするなんて滅多にないよね」
シルヴィアとジルベルトが小声で囁き合っている。
イレーネは少し懐かしそうだ。元夫とのささやかな式を思い出しているのかもしれない。それから子供達を見て、ほんのり幸せそうな微笑を浮かべていた。
周りの友人席からも、腹の探り合いも何もない、友を祝福する囁きばかりが漏れ聞こえてきた。声だけで皆も笑顔なのがわかるね。
この先何があったとしても、この日が二人を支えてくれるだろう。そう確信できる、本当に良い結婚式だった。
「声をかけてくるのは友人だけだったし、あまり時間は取れなかったが、二人に直接祝いも言えた。思ったより気楽で楽しかったかもしれない」
「それはようございました」
夜、長椅子でクテンと横になった俺に「だらしないですよ」と本気で叱るでもない口調で注意しつつ、アレッシオは言った。
夕食もあちらで食べて来たよ。うまかった。俺が特に気に入ったのは白身魚の蒸し料理。バター風味強めのホワイトソースが絶品でさ~。
腹の上で香箱座りをしている子猫が、『魚』の部分で耳をピクリと動かした。エルメリンダやほかのメイドもいるから普通の子猫のフリをしているんじゃなく、留守番中にたっぷり遊んでもらったから眠いんだな。
先日俺に感謝を伝えたいと言ってきていたボルド伯とメロー伯も、ちらちら俺のほうに視線をよこしつつ、でもちゃんとおとなしくしてくれていた。会場の警備をしている騎士が彼らを見ていて、あとで教えてくれたんだよ。
ヒートしていた頭が多少は冷めたろうし、爺さん達も有望な息子達もいるから、今後あの二家が問題行動を起こすことはないだろうな。
「あたしもお式、お祝いしたかったですねえ。先ほどお嬢様も仰ってましたよ、『とっても素敵なお式だったわ! 私もラウル兄様とあんな風にお式を挙げるのかしら?』って」
クリティカルヒット! 俺は行動不能に陥った! 立ち直れない!
片腕が長椅子からダラリとぶら下がり、半眼になって天井を見上げた……。
「もしもあのお二人にお嬢様がお生まれになったら、閣下のようになるかもしれませんね」
アレッシオが苦笑し、フォローなんだかトドメなんだか微妙なことを言った。
俺のよう、か……。
……なりそうだな、ルドヴィク。子煩悩に。
だって公爵閣下自体が相当な子煩悩だもんよ。そして娘には激甘だ。
その愛情を真正面から受け止め、背中も見て育ってきたルドヴィクだ。実子だろうが養子だろうが、我が子という存在ができれば子煩悩パパになる姿が容易に想像できる。
俺はゆるりと顔をめぐらせ、壁の額縁に目をやった。
そこにあるのは、一枚の手巾だ。
シルヴィアからのプレゼント。
それをそこへ飾るに至るまで、護衛騎士や側近、特にラウルも巻き込んで、紆余曲折があったりなかったり……。
俺は遠い目で思い返した。
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