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番外・後日談
15. 男の子達の他愛のないお遊び
※一部修正しました。
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八月後半、俺はヴィオレット兄妹とともに公爵領へ向かうことになった。
九月に予定しているロッソ杯も含め、祭りの開催時期や細かい点ついて話し合いの必要が出てきたからである。
九月から新学期の始まるジルベルトも、少し遠回りになるが、ヴィオレット公爵領を経由して王都に戻ることにした。
ヴィオレット領は王都から見てやや北東に広がっている。ロッソ本邸からヴィオレット本邸まで、馬車でおよそ七日。そこから王都までは大きな街道が整備されており、五日ほどで着く。
護衛を除けば俺の同行者はジルベルト、アレッシオ、ラウル、専属メイドのエルメリンダ、従僕も数名。ニコラは絶賛お休み中である。
聞けばニコラは乳母の目が点になるぐらい育児に手慣れており、立派な戦力と化しているそうだ。
有力貴族ほど自分で子育てをしないのが常識とはいえ、パパが役に立っているんなら気にせずこき使っていいんじゃないかな。
やがて王都邸より遥かに巨大なヴィオレットの本邸が見えてきた。相変わらずでっっけぇ城だわ。使用人も数百名規模だし、この本邸の敷地内だけでちょっとした町ひとつ分である。
公爵閣下は現在王都で仕事中らしく、出迎えてくれたのはルドヴィクの奥さんだった。
「またお会いできて嬉しいですわ、ロッソ様。結婚式の折はありがとう存じます」
まだお腹は目立たないけれど、圧迫感のないゆるっとしたドレスを着ている。顔色は良く、夫婦が並ぶとほくほく幸せそうな空気が漂っていた。近しい人が幸せそうだと、ついこちらも笑顔になるね。
一旦それぞれの客室に案内された後、次に案内されたのは家族や親しい友人を招くための居間だ。親しくない相手は決して呼ばれないので、そこに入ることを許されるか否かで公爵家からの好感度がわかる。
「ん? あなた方は……」
「やあ、ロッソくん!」
「お久しぶりですわね!」
なんと、そこには元クラスメイトの姿もあった。男子も女子もそれぞれ数名、会えて嬉しいけど何故ここに?
「わたくし達、ルドヴィカ様と婦人会の件でお話があって参りましたの」
「僕らは祭りの件で、ヴィオレット様やロッソくんとお話したいことがあったんだ」
ちょうどタイミングが重なったので、どうせだからみんな一緒に会ってしまおうということになったらしい。
とはいえ話題は別々だから、男性陣の島と女性陣の島に分かれて話すことになった。新たにローテーブルが運び込まれ、従僕がソファの位置を変える。広さがあり、あちらとこちらで喋っていても互いに邪魔にはならない。
アレッシオは座らず、エルメリンダとともに俺のソファの斜め後ろに立った。今回の集まりは俺の同窓会みたいな面子になったため、貴族の客人としては加わらず、秘書的な立ち位置を取ることにしたようだ。
義弟が如才なく笑顔を振りまき、漏れなく皆に気に入られていた。こいつは営業の仕事をやらせたら、契約バンバン取ってきそうだな。
それぞれに飲み物が準備され、話し合いの体勢になり、俺は思わぬことを聞かされた。
「似たような祭りが?」
「うん、そうなんだ。前回のロッソ杯が大盛況だったって噂になったろう? きみに対抗心を燃やしているのは明らかだね」
王都の西側に接したある侯爵の領で、馬術大会が催されることになったらしい。
よその真似をして自分の領地を豊かにする試みなど、どこでもやっているし珍しい話ではない。
ただ、その人物の告知した大会の日付が、前回のロッソ杯とまったく同じだというのだ。
「どちらかにしか参加できない。こちらに参加する者は味方、あちらに参加する者は敵、さあどうする? と下位の者に問うているわけさ」
「…………」
―――……くっ、っっだらねー!
超くっだらねー! 小学生かよ!?
俺とジルベルトが呆気にとられて目を見合わせていたら、ルドヴィクがクスリと笑った。
「頭角を現わしてきた若造に、自分の立場を追いやられてなるかと、そういうことらしい」
へーそうなんだ、って俺そんな奴知らないけど?
つうか、そいつも俺の顔知ってんの? 挨拶した憶えすらないんだけど?
「きみら兄弟にそんなつもりはまったくないって、僕らは知っているけれどね。あちらさんはそれがわからないのだよ」
「ロッソ様は派閥になどご興味がないと教えて差しあげたとしても、まったく信じられないという方々は多いのです。寝ても覚めても彼らの頭の中は派閥のことだけで、誰のもとにつくか、誰を自陣営に引き込むか、それだけでいっぱいになっている。ご自分がそうだから、当然ロッソ様も王宮で大きな顔をしたいに違いない、そう思い込んでいるのですよ」
ルドヴィクの言葉に友人達が続いた。
そもそも社交から距離を置いて、なお栄華を誇っている家自体がうち以外に存在しない。―――この場合の『社交』とは、『王都での社交』のことだ。
これをこまめに上手にやらない家は、永遠に浮上することができない、それがどの国でも常識だった。俺はお祖父様に輪をかけて全然顔を見せないので、ホッとしていた貴族は少なくなかったらしい。ロッソ家が自分達を脅かすことはないと。
「ヴィク様。……もしやあの件が広まっているのでしょうか?」
「まだ公表はしていない。だがそうなるだろうと、誰もが口にしている」
友人達の顔を見ると、「やっぱりそうなのか」「そうなりますよね」と頷かれた。……俺の陞爵は、皆にとっては簡単に想像がつくことだったんだな。
そんで、勝手にビビッて俺を敵認定したアホがいると。
今回のロッソ杯はまだ日程を告知していないから、敵対を避けたければ祭りの日付をずらせないこともないが。
……なんで俺らが譲ってやんなきゃならんのよ。
「こちらの予定は今まで通り、変える意思はありません。去年と同じ日程にしただけだと皆さん理解してくださるでしょうし、よそでどなたが何をなさっていようが知ったことではありませんね」
自分の領地でやってるんだろ? なら好きにすりゃあいいさ。近所ならともかく、場所も遠いし。
うちに変なちょっかいをかけてくるようであれば、「情け無用です」っていう意思表示と受け取るがな。
俺が無表情で茶を飲むと、友人達がニヤリと楽しげな笑みを浮かべた。
「それにしても……僕の身長、伸びたのかな?」
俺達が素敵な友情を再確認し合った直後、ジルベルトがポツリと言ってはならないことを口にした。
『大きな顔』の部分で連想したのかもしれないが、兄ちゃんの友達が何人かピキリと固まっちゃったじゃないか。
この国の成人男子の平均身長は、およそ百八十センチなのだが……。
「……卒業しても、まだ伸びますよね」
「そうだな……男は女性より、伸びる期間が長いよな……」
囁き合っているのは、かつて百八十に未到達であった、小柄な同士達……。
「測ってみます?」
ラウルが決定的なひとことを口にしてしまった。自分が伸びているかどうか、気になってそわそわしてきたようだ。
そして何故か男達の身長測定会が始まった。公爵家のメイドが巻き尺を持って来て、ルドヴィクが綺麗なペン入れの箱を用意した。中身は入れていない。
「私が当てましょうか」
「頼む」
アレッシオが申し出て、ルドヴィクは彼にペンケースを渡した。この中で一番背が高いの、間違いなくアレッシオだからな。
まずは俺が生贄になった気分で柱に背をつけた。横からアレッシオが俺の頭上に優しくペンケースを置くと、ルドヴィクが黒鉛の棒を差し出してきた。手が汚れないよう、持ち手に紐が巻きつけられている、鉛筆の原型だ。
「よろしいのですか?」
「ああ、構わないぞ」
え、ちょっと待って、書いていいの?
―――俺より思い切りのいいアレッシオは黒鉛の棒を受け取り、あっさり柱に線を引いてしまった。
なんてことでしょう。公爵家の柱に、俺の背丈の線が。
メイドが巻き尺を伸ばして手早く測り、「百七十六センチ五ミリです」と言った。
「あ、少し伸びてる……?」
「ほんとだ、伸びてますね。次、僕が測ってもらっていいですか?」
ジルベルトの口が開きそうになった瞬間、すかさずラウルが手を挙げた。ジルベルトの後に測定されるのを避けたな。
「百八十センチちょうどです」
「よしっ!」
「なんだと!?」
ラウルおまえ俺よりデカくなっただけでは飽き足らず、さらに一センチも伸びやがったな!?
「次、僕! 僕お願いします!」
待ちきれないと言わんばかりにジルベルトが挙手。
「百八十七センチと、一~二ミリです」
「あと少し!」
こちらも伸びた……。可愛い義弟はアレッシオに挑戦的な笑みを向けている。アレッシオは苦笑しているけれど、そろそろヤバイと思っているかもしれない。
「くっ、私は伸びなかったのか」
「ヴィク様、百八十五もあれば上等でしょう」
「そうです。それだけあれば上等です」
「本当ですよ。上等です」
百八十未満同盟から冷ややかな視線でチクチクされる公爵令息。
その後も「百七十四、もうひと声……!」「百八十一、やった~!」みたいな悲喜劇があり、公爵家の一室のとある柱には、日付と数字と何本もの線が書き込まれてしまった。
後で聞いたところによると、アレッシオはどうせ掃除係が拭き取るだろうと思い、躊躇せずに線を引いたらしい。
まさかその上へ塗料を塗られ、この先ず~っと消えない処理を施されるとは、思ってもみなかったそうな……。
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